72:スーさん
少年少女のリクエストで、先に地車を見に行くことにした。
大阪中部とかそれに繋がるなららはコンコンチキチンチキチンチキチンは大体共通だったように思う。それが、天満は違ったし、岸和田も違ったから、地域性はあるのだろうと思われる。他では全く聞いたことがないからなあ、ようわからん。
音を頼りに近付いていくと、実は2つの音源があることに気付く。なんで?
やや広い街道筋?に出る辺り、前方に獣人がいる。おお、コボルト!ってか狗頭?ぽいが毛深い人間のようにも思える。なんか、雑種感が高い。
茶色い頭、黒っぽいのに白っぽいの。
「これ、犬神人てやつですか?」
小声でりくに話しかける。
「どうでっしゃろ?なんかしょぼおすな」
だんだん、ちょっと傾いたチンピラに見えてくる。
口喧嘩している?引く引かん、どくどかん、言い合ってる。あれぇ?なんで?
そうこうするうちに左右から地車が近付いてくる。前の方を曳いていた子どもたちが大人に急かされて後ろに回る。
獣人ぽいのは左右どちらも白いサラシを巻いて、白い股引に黒足袋、色違いの法被を着ている。片方は薄い墨色に赤字で「ふ」、もう片方は黒字に白で「な」と染め抜かれている。それぞれの陣営から、ごついのが出てきて睨み合う。一触即発やん、面白そうやがどうしようか。俺らは部外者やし、詳細わからんし、なんでこんな事になっているのか。
『ニヤニヤは表に出さないほうが良いでしょうな』
忠告おおきにすんまへん。
それぞれの陣営から、いてまえ~!とか、いわしたれ~!とか聞こえてくる。
コンコンチキチンチキチンチキチンが完璧にハモりながら変化が加わり、すげえな、トリップしそうなグルーヴになってるで、酔いそうや。
気合を入れなおす。
瞬間、二人同時に手が出る、と思ったら壮絶な炸裂音がして音楽が止まった。
あれ、これは、時間が、止まったな。
色が極端に薄くなる。
息ができない、ものすごく粘度の高いスライムの中にでも浸かっているみたいや。動けんわけではないな。
強引に手を動かすと、それにそって何かが伸びる、それは地面に筋を付けて、筋がゆっくり大きくなる。
あ、これやばい、衝撃波かなんか出たんちゃうんか、止まってくれよ……
クロスカウンターが当たる直前の二人の前がキラキラしたかと思うと、光が人の形になり、ピントが合うように美丈夫が現れる。
あ、これあかんやつや。
また何かが抜けていく。どんどん抜けていく。昨日とは比べ物にならんくらい。
『……やっぱり時間がほぼ止まってるなあ、トシオ君。それでも超久々に顕現できて嬉しいよ、トシオ君』
『……ヒジョウニシンカクノタカイオカタデスナ』
狐の声がおかしい。
『はじめまして……ですよね?金桂灯潮と申します』
『これはご丁寧に。素戔嗚尊です』
スサノオ、須佐之男、凄ノ王は永◯豪、って、えぇェェeeee……
『スサって呼んでね、トシオ君て呼ぶから。堅苦しいの面倒くさいんだよな』
『いやいや呼び捨てでいいです、スサノオ様』
『神格では君のほうが高いんじゃないの?こっちも呼び捨てでいいよ、それに男って、固有名詞でもないから、なんならスーさんでもいいんだけど』
『えぇ、畏れ多いっす、あー、それではスサさん、でいいですか?』
『いいよ、トシオ君』
『あ はい。でもなぜいきなり顕現されたんですか?』
『そりゃトシオ君がいたからだよ。いや、きっかけはコイツラの喧嘩だけどね。ほら、どっちの社も俺を祀ってるじゃん。音楽もすごかったじゃん。で、荒御魂が揺さぶられたんじゃないかな、ほら、楽しそうだろ?』
『はあ、その通りですね、昂ぶる感じが強かったですね』
『で、君がいたからさ、神気を無限供給してるんだよ、わかってる?』
『あはい』
『楽しくなっちゃってさ、来ちゃった』
そんなのもですか。
『そうだよ、そんなものだよ』
『はい』
『だから、コイツラお仕置きだな、もともと同根なのに争ってんじゃねーよ、荒御魂が騒いじゃってしゃーない』
『スサさん、あの、あんまり強烈な神罰は、周りに人もいますので』
『ちっ(うっせーな)、わかったよ、顕現したのが君のお陰だから顔は立ててあげる』
『ありがとうございます』
『いいよ、そのかわり魂鎮めしてよ。魂振りもセットだよ?』
白いゆったりした長T、ゆったりしたジーンズ?でっかい勾玉の付いたシルバーアクセ、バンダナでまとめたロングヘア、グラディエーターブーツ、で超イケメンなんだなぁこれが、ニカッと笑って宣う。
『……できますかね?』
『そこの巳神に聞けばできるよ。あー、うるさいのが来そうだからそろそろ帰るけど、そうだ、常世国に来てよ、高天原は敷居が高いけど、あそこなら大丈夫だろ?俺、普通に居られるからさ』
『ぁはい。機会があれば、お邪魔させていただきます』
『大丈夫、すぐ来ることになるよ』
え、そうなんすか?
『もう一つ、そのサングラス似合ってるよ』
ぴしっとポーズからの指パッチン。
『あ、やば、じゃぁねー』
遠くに複数の女性の声が聞こえるがフェードアウトしていく、それと同時に重低音がズゴゴゴと唸る。
ミュージックテープの回転がゆっくり上がるように祭り囃子が聞こえ始める。
足元に突き上げる震動、動き始めた風景が揺れる揺れる、クロスカウンターは決まらずにずっこける二人。勿論ミュージックストップ。
スローモーションのように地車が傾く。逆を見ると、両方とも、同時に傾いている。あわあわしているとドゴンという音がして、どちらも電信柱にもたれかかって止まった。電信柱は耐えている。さすがDQNクラッシャーさん。屋根に乗っていた若い衆が落っこちる。中で叩きもんしてた若い衆も慌てて脱出する。
ふっと暗くなり、空に目をやる。
一天俄にかき曇り、ボトボト大きい雨粒が零れてくる。うへっと思っていると、雨粒は霙から雹となってバラバラ降り、躰に打ち付ける。あわてて皆そのへんの軒下に避難するが、すぐに晴れ渡った。
雲があっという間に吹き流されて、蒼天にかかるは大きな虹。
あちらこちらから、歓声が上がる。倒れていた獣人ぽい奴らも口をあんぐりと開けて空を見やっている。
「これが、奇跡ってやつっすか」
「そうですな」
虹は龍、龍は蛇、蛇は蟲=虫、だから虹は虫偏。漢字の語源かなんかで、昔見た文章を思い出す。
日本では、虹が出ると市を立てたという。イザナギとイザナミが虹の橋を渡って天からやってきたから、虹は天界との架け橋であり、神様を喜ばせるために商いをすると。藤原頼通の屋敷から出たために、そこで市を
「主殿。そろそろ現実逃避を終わりませんかな」
「あ、はい」
獣人がずっこけて何人か怪我をしているが、骨折まではいってなさそうかな。
はあ、スサノオとか、えらいまたラスボスみたいのが出てきてしまったなあ、どうなるんやろ。
って、なんかキ◯タクの若い頃みたいで、えらいかっこよかったし、めっちゃ適当でコ◯ボ選手みたいやったし、チャラいサーファーみたいでもあったし、今風に変化していくんかな。
とりあえず収拾つけんといかんよなあ、魂鎮めせえ言われたし。
「あー、ちょっとそこの二人、なんで争ってたん?」
地べたに転んでたゴツい獣人に話しかける。
驚愕の表情でこっちを呆然と見ている。
「大丈夫?」
はっとして、二人が土下座する。周りの連中も鮮やかな土下座。
こう、なんていうか、土下座づいてるというか、なんでこんな皆土下座するんか、そういう文化なんか。
「もも申し訳ありませんでした!どうじょおゆ、ゆるしくだしゃい!なんまんだなんまんだ……」
「ひーっ、お許しうぇお!およ、おゆ、るしを!なんみょうほうれんげきょなんみょ……」
ブディストか!いやおかしくはないけれど!宗派が違うけど!
てか、なんで?なんで俺に許しを請うのこいつら?
「それは主殿の神格の高さゆえどすな」
「神格って何?いやわかるけど、なんで俺の神格が高いの?」
「それはかねかつら様が、神気を撒き散らしておられるからですわ。うふふ」
あおいさん、また若返ってるような……
「どうか、神様、お助けくだしゃいなんまんだなんまんだ……」
「神様お許しを、なむみょうほうれんげきょうなむにょう……」
やっぱりおかしいって!神さんにお経って、本地垂迹やけど!違和感半端ないは!
「わかったから。わかったから。ちょっと話を聞きなさい」
「ゆゆ許してもらえますか!」
「おおお許しいただけますか!」
「はいはい許す許す許しますから、ちょっと説明してよ。話が進まんでかなわん」
しかしまあ、俺に神格なんてあるわけねーじゃん、罪作りっすよ高次元意識体さん。
『そのとおりですなあ』
…………。
やつかのおっさんとおいとさんは抱き合って放心状態である。ちっ。
「ダンジリって、すごいですね!」
「すごいです」
「びっくりしました!」
「かーっ(びっくりした!)かーっ(びっくりした!)」
「にゃー…(こわかった…)にゃー…(こわかった…)」
「スーさん……どすか……」
「うふふふ」
「主様は!やっぱりすごいっす!」
…………。




