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66:おかねはだいじだよ~ 集合的無意識(言われんでもわかっとるわ!)

 何だかひどく脱線していたようで、日が傾き始めていた。

 庫裏に薄闇が漂い出す。

「つい話し込んでしまいました。では、この方向で話を進めます。本日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。……ところでですね。また別件でご相談したいことがありまして。日を改めてでいいのですが、申し訳ありませんがまたお会いできないでしょうか」

「いえいえ、こちらこそ、金桂様にご相談させていただきたいことがございます。そうですね……そういえば、明日明後日で、大坂神社で秋祭りがあるはずです。そこそこの規模で、奉納相撲もありますので、興味深いかもしれません。

 明日は少し仕事がありまして、明後日ならプライベートですが、お会いすることが可能です」

「それは助かります。えー、それでさらにちょっとこれなんですが」

 袋を取り出してポソンと二人の間に置く。

「砂金というか、砂金の塊なんですが、換金みたいなことはできるでしょうか?」

「ちょっと拝見しますね。お、重いですね。流石に金ですね」

 伏見課長は取り出したナゲットを指で摘んで矯めつ眇めつする。

「出所については特に詮索はされないでしょうし、両替銀行で交換してくれると思います。そうですね、1匁1000円、1g300円程度じゃなかったかと思いますが、正確にはわかりません、すみませんが」

「いえいえ。その、両替銀行はどちらにありますか?」

「そうですね、この辺りでしたらあおによしの、奈良か、四天王寺か、ですね。銀行の出張所でもやってくれますが大分レート、交換比率が落ちるのでお勧めはしないですか。いや、急ぎですか?」

「まあ、そうですね。こちらの現金もないので、どうしたらよいかと思っていたんです」

「なるほど。えー、ではとりあえず立て替えますよ。多分200g位あるでしょうから、6万円ですね、幸い先日新発行された1000円札を持っているので、お支払します」

「そうですか、ありがとうございます。」

 狐は俺の左に丸まってりくに撫でられている。その横にあおいさんは横に座っている。二人は聞くともなく我々の話を聞いていたようで、えらく長い時間を放っておいたことに気づいてちょっとあせる。

 すてとれいかは反対の右側で相変わらずにこにこしているが、伏見課長がピン札を取り出すと食い入るように凝視しだす。

「金銭の価値について伺いたいのですが」

「はい。そうですね。公務員には等級がありまして、下級1等から3等、中級1等から3等、上級、特級も同じで、さらに例外もありますが、特級1等は総理大臣です。平民は大体高校卒業で下級1等から始まりますが、初任給が今200円くらいですか。私は上級3等で1000円くらいですね。まあ、ハワイイの会社は存続しているので、俸給はどうでもいいのですが。」

 手の切れるようなピン札、しかも結構大きい。自分の知っている万札の2倍くらいありそうだ。

 うん。れいかの眼が少し怖い。

「細かいのも有ったほうがいいですよね。」

 伏見課長はドクターバッグから茶色の事務封筒を大小取り出すと、ものすごく質の良さそうな革の財布から、小さめの札とか小銭を入れていく。

「もし祭りに行かれましたら、的屋は大体1銭から20銭くらいです。細かいものがあまりなくてすみませんが、それなりの神事なので、悪さはしないと思います。牛頭天王(ごずてんのう)素戔嗚命(すさのおのみこと)が主神扱いですから。」

 そう言って封筒を渡してくれる。

 これ、もしかしてものごっつい大金じゃね?よくわからんけど、百分の一から千分の一倉の貨幣価値に思われるんやけど……れいかが黙ってニコニコしているのはいいが、顔が真っ赤だ。息も殺しているようだが殺せていない、荒い。すては放心気味か。あおいさんやりくは平然としているが。

「長々とお邪魔してすみませんでした。そろそろお暇しないと家族が心配するんです」

「いえいえ、本当にありがとうございます。この御礼はまた後ほどさせていただきます」

「いえいえ。そうですね、ちょっとした先行投資みたいなものです。都合が付きましたら、ぜひともこちらまで連絡いただきたく」

 伏見課長は去り際にそう言って別の名刺を差し出してくる。一応ビジネスマナーに則って両手で丁寧に受け取る。


 内務省 参与官付 秘書官

     警保局 保安4課 課長

     外神部 課長


  伏見 カイ Kamapua'a


  京都府 御苑内

      電話 1-011-☓☓☓-☓☓☓☓

      内線番号  ☓☓☓


「今出向中でして。昨日お渡しした名刺は、対外的に、マナの強い地のきりくず、へいて、あー、教育関連の問題のときに渡すためのものですね。主たる所属は外神部と参与官付きでしょうか。まだまだ法規が追いついていませんからね、色々コネクションがないと厳しいんですよね。」

 何が厳しいかは聞かないでおく。

「伏見課長はどうやってこんな田舎まで来られているんですか?」

「交通手段ですか?国鉄や近鉄では駅からやや遠いので、自動車ですよ。少し下りたところに停めてあります」

 やっぱり自動車あるんやな、幽体離脱したときに見たような気はしててんよな。

 自動車、どんな感じやろうか。どの程度発達してるのか興味がつかんな。電化があんまり進んでない以上、クラッシクな感じやろうけど、祭りに行けばわかるんやろ、これも楽しみやな。

 

 課長がかっこよく去っていくと、早速金銭価値を聞いてみる。

「これって、大金やんね?」

「そうですね」

「そうどすな。そこら辺の家くらいは買えそうですな」

 りくとあおいさんは冷静な様子やね。というか、さほど興味なさそうやねんけど。金銭感覚が、両極端に違って、似たような感じになってる?

「私は紙のお金を初めて見ました!きれいです!」

 れいかさん、お札を見たことがなかったんか……

「私も初めて見ました。燃えたら無くなると思うと心配です」

 そうか……

 まだ金銭価値について言及しているりくが一番頼りになりそうな気がするが。

「りくさん、1円で何ができるだろうか」

「そうおすな、うろん食べはったら、それくらいとちゃいますか。今生はまだ赤子のようなもんやさかい、ちごてたら堪忍な」

「かましまへんよ、わからんもんはわからんしな」

 りくさん、すごく京都弁になってきたはるけど、これ、移るな。いや、やっぱり前世的な影響やろか。

「私も、基本的に人里離れた生活を送っていたので、どうにもわかりません。インフレ、とかいうのが進んで、どんどん値段が上がってると、もう先に聞いたことはあります」

 そうやろね、新札発行してるし。

「私はお金を使ったことがないのでわかりません!」

「私は小さい頃拾ったお金で、屋台で1銭菓子を買いました。すてと書いてもらって、もったいなくて食べられなかったのですが、気がつくとぼろぼろになって、悲しくて泣きながら見ていると、ひじりの人が通りがかったので、お椀にいれました。読経をして頭をなでてくれました」

 うん、、そうやった、浮浪児みたいな境遇やったっけ、きっとぼろぼろで、かわいそうな

『主殿。思考を止めて下さい。影響が出ておりますな』

 気がつくとすてとれいかが顔を真っ赤にしてフラフラしている。あおいさんもやや紅潮している。りくは、大丈夫、変化はない。杖が人化している。しかも悶ている。魔力かなんかを垂れ流したような感じですか。気持ちが昂ぶるとこうなってしまんじゃ、ちょとまずいな。杖がいきなり人になって、ハァハァしてたらやばいワな。

『すまん、気ーつけるワ』

 ま、まあ、金銭価値がわからんことがわかっただけで良しとしよう。


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