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65:Ha Wai 'i →布哇 Hono Lulu →花瑠瑠

少し未来のオハナシです。

*長くなりました、すみません。

 私、いや俺のほうが本質に合っていますね、俺がハワイイ島を訪れたのは、もう30年以上前のことです。

 私は元々ハワイイ王家の傍流で、なにかしら仕事をしなければ活計(たつき)の道を得られませんでしたから、日本(ほんど)に留学して日本語を学ぶとともに友人などのコネクションを広げました。海から離れるのが嫌だったので、横浜に下宿しました。実はサーフィンブームを本土に起こした1人でもあります。いやあ、楽しかったですね。青春の日々というやつですか。

 それからオアフに帰り、日本との定期航路を増やしてできるだけ移動が安価にできるよう尽力し、傍ら親戚、つまりは王家ですが、から投資を募ってホテルを建造しました。立派なのと安価なものです。他にも、日本の技術でサーフボードを開発したり。ファッションとか。色々やって、ほとんど成功しましたから、まあ天狗にはなっていたかもしれません。マナも強く感じられるようになって、そこそこいい年だったのですが、サーフィンでもスキーでも、世界でトップクラスの実力があったと自負しています。それでですね。


 §


 久しぶりの噴火ということで信心深いご老人たちは沸き立った。

 ペレ様にお会いできると。

 ハワイイの神様はたくさんいらっしゃるが、4柱の主神、創世神のクムリポ様を含めても、ペレ様は人気がある。何しろ絶世の美人でかわいくて、わがままで残酷で、移り気だけど元気ハツラツ。姉にちょっと殺されたけど、火と火山を司って、今はハワイイ島の主神みたいなものだ。だからカプ(タブー)もかなり強かった。

 それが、大体70年くらい前、王女が日本の皇族と御成婚されてから、変わってしまった。

 マナはあるのだが、それが他人に流れなくなったのだ。革命的なことだった。たとえば多少は不敬かもしれないが、偉い人の影を踏んでも死刑にならなくなった。間違って王族の服を持っても首を刎ねられなくなった。

 そうして、少しずつ色んなカプが無くなっていった。

 大きなのは、女性がバナナを食べても、豚を食べても、釣や漁の道具に触っても、悪いことが起こらなくなったことだった。

 こうして人々が因習から開放されると、今までの生活の窮屈さが改めて浮き彫りになった。女性が一気に強くなり、風紀が乱れたなどと言われたが、もともと女のほうがマナが強いのだ、男にどうこうできる訳がなかった。

 それから、ハヴァイイは発展の一途を辿った。信仰の自由が導入され、神道や仏教やキリスト教が民心に浸透していった。特に神道と古来の神々が混ざって、独特の宗教を形作っていく。

 といっても、100年も経ていないのでそう大きくは変わらなかった。古来の神は穏やかな神となり、緩やかに変貌していった。

 きつい神官(カフナ)のいた神殿は打ち壊されたりしたし、それに反発した神官(カフナ)がデモ行進したりしたけれど、もはや手遅れだった。

 至るところに息吹が感じられていた神様のありようが薄れていった。

 キラウェアに一度爆発があったが、大したことでもない、とすぐに忘れられた。


 次第にマナが薄れていった。ゆっくりだったし、それ以上に、平民にはほとんど関係なかったから。

 昔ながらの漁師は漁獲が減ったと嘆いたようだが、漁そのものの在り方が変わったので、全く問題にはならなかった。

 ハワイイは遠洋漁業の基地として、また近海でもそれなりのサイズの漁船で網を引く新しい漁業のあり方で発展、そしてそれを缶詰にした。缶詰を作るために女は働いた。そうそう、クジラ漁も盛んになった。そして島は豊かになった。

 軍事拠点の設置もあり、太平洋横断の中継地としても注目された。オアフに飛行場が出来た。ハワイイ島に作ってペレが暴れても困るから。

 そうやって発展すると、医療を含んだ先進文化が広まった。平均寿命を縮めていた糖尿病が、死病ではなくなってしまった。

 そうして文明開化を謳歌していると、冷や水を浴びせる様に、キラウェアが噴火した。継続的に噴火して噴煙を上げた。

 ペレの断末魔のようだと思った過去の俺をしばき隊。


 §


 俺はオアフでそれなりの企業を経営していました。青年実業家ってやつですか。観光用の高級ホテル、運送会社、小さな缶詰工場、サーフボードやシーショア用品店などなど、まあ、ぶいぶい言わせてたと思います。豚だけにって?……

 それが、王族の義務とやらでハワイイ島に視察に行くことになりました。できるなら、鎮めるように、と王に言われたら、行かざるを得ないですから。実際最近の王族やカフナより俺のほうが余程マナを持っていましたからね。しょうがないです。

 俺は観光気分でたった1人でヨットクルーザーを走らせてハワイイ島に乗り込みました。

 新鋭船で、米国製。素晴らしい船でした。それなりに大型ですが、しっかりしたエンジンが付いていて、1人でも操船できるのです。オアフには恋人が何人かいて、あまり自由が利かなかったですからのんびり行きましたよ。それでも、200kmくらいしか離れていないから、途中で船内泊しても2日もかからなかったですね。

 酒を飲んで、1人、デッキに上がり満天の星と満月を見ながら、なんとなくハヴァイイについて考えたりしました。満月なのに、星がよく見えました。

 そしたら、最初は船が淡く光るんです。あれっと見ると自分も海も光ってる。ドラッグもやってないし、酒のせいかな、と思ってそのまま寝ました。

 あれは、まあ、今考えると1人で文明から離れて海の上で、ヒナ、月と夜と夕陽の女神ですね、彼女に包まれていたんでしょうね。その時は気づいていなかったのですが、ものすごくマナが高まったんだと思います。

 私は朝日が登る前に目が覚め、太陽神(クー)の力を感じながら立ち尽くしました。マナが漲っているのを感じました。全速力で船を走らせ、ハヴァイイに、キラウェアの見える場所に向かいました。

 山が見えた時、海が震えました。

 そして火が高く吹き上がるのが見えました。

 続いて煙が立ち上り、ドーンと大きな音が聞こえました。

 噴火です。

 ハヴァイイの噴火は、溶岩が流れてきています。

 日本のように爆発や火砕流が発生したり、盛り上がって山になるような噴火ではありません。

 溶岩が川のようにゆっくりこちらに向けて流れてきます。実際には10km以上ありましたので、もともとある程度流れていたのでしょうが、かなりのスピードだったと思います。


 §


 ん?と思って手をかざし腰を落として噴煙を見た瞬間、頭の上をヒュン、と何かが通り抜けた。って、火山弾!?慌ててマナを船に通した。しかしガンガン飛んでくる石、熱い石、最新鋭のヨットにガコンガコンぶち当たった。

「「何すんだよ!」ペレ!」

 俺は叫んだ。

『やっぱり豚だ!』

 頭の中に声が響いた。

『豚がのこのこやってくるんじゃないよ!ここは私の島だ!』

「何いってんだ!俺は豚じゃねーよ!」

 懐かしさを感じるきれいな声に反応しながら、飛んでくる火山岩をひょいひょい避けた。でも船は駄目だ。バキバキ壊れていった。これは海に飛び込むしか無いが……キャビンの横にしまってあったサーフボードを海に投げ込み、速攻飛び込んだ。

 飛び込んだ時、マナを感じた。

 海にも、俺自身にも。

 ペレの理不尽さに腹を立て、わけもなく叫んだ。

 あーーーーーーっ!!(ぶくぶくぶくぶく!)

 海から顔を出す。

「「ペレー!」」

 湧き出すマナに海が反応している。


 ヨットが沈んでいく。

 俺はサーフボードに立ち上がる。自作のクラッシックなロングボード。ピカピカに仕上げてある。

『何よ!』

「「会いに来たぞーー!!」」

 エコーを掛けたような声だが、違和感は感じない。

 大波が寄せてくる。デッキに改めて伏せてパドリング。タイミングを合わせて、、テイクオフ。

 溶岩最先端の波打ち際、その上空に女が浮かんでいる。


 赤く燃えるようなパウスカート。黒いチューブトップ。しなやかに鍛えられた腹筋が神々しい。

 黒髪が風で踊るように舞っている。

 怒りでやや吊り上がった、大きな眼。つややかな褐色の肌。真っ赤な唇。

『ばかーーーーっ!』

 背後の波は見たことのないほどに立ち上がっているのがわかる。

 オフショアに向かい、波を駆け上がる。

 怒っていても整った顔が迫ってくる。

 そのまま胸の前で抱きしめる。

 ボードは微動だにせず俺達を受け止め、波面を滑り続ける。

「『逢いたかったぜ」』

『もう!知らない!』

 顔を赤くして俺にしがみついてくる。

 少し重心を変えて一気にオンザリップからのエアリアル。

 波がいい具合に掘れてくる。からのチューブライディング。

「『フューー!」』

 ショアから山の斜面を駆け上がる波に乗り、飛び上がると、そのまま着地する。

『ペレ。会いたかったよ』

『カマプアア。私もよ』

『マウナ・ロアにいたんじゃなかったのか?』

『海を見たくなったの。海を見ていたらあなたを思い出して……』

『久しぶりの波乗りは気持ちよかったよ』

『本当ね!素晴らしいわ!私もやりたい!』

『いいね!じゃあ一緒に楽しもう!』

『ええ!』

 俺達はサーフィンを心いくまで堪能した。連続するビッグ・ウェンズデー。チューブをくぐり、ローラーコースターからのカットバック。順繰りに前乗りしながら同時にターンして互いにワイプ・アウトしてしまう。

 波を心の底から楽しんだ。

『素敵』

『ペレほどじゃないよ』

 サンセットをバックにシーショアで固く抱き合う二人。

『お姉さん!なんてことを!』

 ペレとはちょっとタイプの違う、美人ちゃん、ペレに実際に殺されたことがある、妹のヒイアカがプリプリ怒りながら現れる。ペレに殺されるまでは大人しくて優しい女の子だったのだが、あれ以来強くなった。

『ヒイアカ!また私の邪魔をするの!本当に殺してしまうわよ!』

 ペレが顔を向けて叫ぶ。

 ヒイアカはペレの邪魔をしたことなど皆無なのだが、それ以上に無茶振りに振り回されて、結局殺されてしまった。ペレは処刑してしまってから、後悔して蘇らせるという、可愛いところもあるのだが。

『何を言ってるの!足下を見てよ!』

 俺とペレは絶句した。

『……やべぇ』

『なんてこと……ごめんなさい』


 §


 その日、2つの村が完全に流された。

 噴火に伴う津波による床上浸水以上の被害をした家屋は1000戸を超えた。


 幸いなことに、死者はいなかった。

 噴火はすぐに収まった。

 奔流のようなマナのおかげで復活を遂げたたくさんのペレの妹たち、召使いの精霊たちが助けたのだった。


 §


「まあ、そういうことがありまして。ハワイイにいられなくなったのです。」

「なんていうか、すごいね!」

 サーフィンとか、どうにもかっこよくてやる気もしなかったからなあ。反リア充なところがあったしなあ。

「でも、それって神様、半神だっけ?に乗っ取られてたんでしょ?」

「それはそうなんですが、いや、もう私は完全に半身化してしまって……それよりも、ペレを復活させたほうが問題なんです。ハワイイ島が、人が住めないような状態になってしまって……」

「えぇ、噴火とか?桜島みたいな感じかな」

「いえ、精霊たちがこうね、いたずらとかしたりですね。モオという悪霊のような妖怪みたいな種族がいるんですが、それまで活気づいてしまって。お兄さんの鮫神とかも。それでですね。」

 ゴクリとつばを飲み込む。伏見課長がカッと目を見開く。

「連れて行けと。日本に連れて出て行けと。ハワイイの神様は結構気まぐれに来島したり出ていったりするんですが……責任をとって、ほとぼりが冷めるまで一緒に出て行けと。そしたら治まるからと。そういった次第です」

 いやいやいや、そんな火山の強力な神さんが、日本に?

「まあ、日本ではそこそこの神格なんで、大人しくはしていますよ。毎日サーフィンやったり、鉄人レースに出たり、色々してはおりますが……」

「そうですか。夫婦で日本に移住されてきたんですね」

「そういうことになりますね。でも束縛が半端ないし、毎日職場に電話が入るし、もう、疲れました……」

 遠い目をしている。

 ……。

 なんだよ、只の惚気じゃねーかよ、やかましーんだよ、美人の嫁自慢して嬉しーのかよ。

『主殿。私がおりますれば』

『主様!私もお傍に!』

『主、妾もじゃ』

(大きめのため息をつくおっさん二人)


 §


「船の名前は何だったんですか?」

「あー。やっぱり聞いちゃいますか。」

「?」

「えー。フムフムヌクヌクアプアア12世、です」

「……」

「……じごうじ」

「何でしょうか?」

「いえ」

「……」

「……」


月曜日の昼に間に合わなければ、以後の更新は適当かなあ。

読んでいただきありがとうございます。

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