60:としお1
「じゃあこれでもう一人と言うか玉やな。」
「はい!こちらです!」
やはり桐の箱に入っているので一見よくわからない。箱書きは色々有るが読めない。なんか梵字がいくつか書いてあったり、封印している感はあるが、どんなもんかな。
「話さないのにどうしてこれが玉だと知ってるんかな?」
「偶に出てくるんです!でも話したことはありません!」
「偶にというのは、どれくらいの頻度やろ?年に一回とか?」
「今まで見たこと有るのは三回位です!」
「その時何かあった?」
「良く覚えていません!」
まあ、目に見える出来事が切っ掛けというわけでもないか。
「強いんやな?」
「かねかつら様ほどではないです!かねかつら様に比べると大したことはありません!」
「ああ、そんな強調せんでええから。」
気分損ねてでてきたりせんよな。そんときはそん時で対処できるとしとくか。
あら?終わり?じゃあ倉このままでええか。
「じゃ、本堂に戻ろうか。」
「はいな。」
「はい!」
問題の先送り感は高いが、まあええでしょ。今日も疲れたしなあ。ゆっくり寝たいけど……ああ、ゆきまで人型に……。
なし崩しに本堂で全員が雑魚寝になった。あおいさんまで、おばあちゃんになってる。でもなんか違う。あれ?ちょっと若返ってない?
「そうなんですよ。うふふ。」
すても髪がだいぶ伸びてる?頭巾もどきで隠してたからあんまりわからんかったけど、もう、10cm近く伸びてね?
「はい。かねかつら様のお陰です。」
ゆきさん、ちょっと成長してる?
「そうですな。恐らく、1日で1年から2年程度の成長をしているように思われますな。」
せじろは変わってない、ありがたい。りくは……もう寝てる。なんかよく分からんけど、人間なんかすらよう分からんけど、見る限りはただの幼女やからなあ。寝る子は育つというか、あれ、育ってる?いやいや。
暗闇の中で、でも実際にはまだ22時位か、布団の中で静かに目を閉じる。次第に皆の寝息が虫の音に混じり耳に届く。
音に集中すると、寝息でない呼吸音が二つ。一つはゆき。もう一つはあおいさん。
目を開き、天井の木目を追う。少年時代の、祖父母の家を思い出す。その頃、既に何人もの親しい人の死に目にあっていた。俺はもしかしたら死神ではないか?と思い詰めた。まだ小学校の低学年やったっけ。多分、ずっと死んだような目をしてたんやろな。さっきはああ言ったけど、実際には完璧に覚えている。なんとまあ、百八人やで、出来すぎやろ。
『ドラえもんとはちゃいますけどなあ。』
まったくや、良いツッコミやゆきさん。
最初のは、実は記憶がおかしいねん。俺、1才過ぎてたはずやけど、でもそんな小さい時の記憶なんて普通無いはずやん。でもあるねん、ほんまのお母ちゃんのおっぱい吸っててん。高速道路でな、事故したんやな。まだチャイルドシートとかなかったし、お父ちゃんが運転して、お母ちゃんと俺は後ろに座ってたんやな。で、何かに車ぶつけられて、高速から落ちたんやな、そういう話や。犯人は分からんねんけどな。で、ゴロゴロ山の斜面みたいなとこ転がって、お父ちゃんは即死やったらしいわ。お母ちゃんも、瀕死やったみたいや。でも俺は無傷やってな。で、多分泣いてたんちゃうかな。お母ちゃんがな、としお、はい、とか言ってな、おっぱい吸わしてくれてん。多分もう断乳してた頃らしいな。んで、お母ちゃんのおっぱい飲みながら、お母ちゃん、そのまま死んでもうてな。後付の記憶っぽいねんけど、その時のお母ちゃんの死に顔と、それを見ながら笑って死んでいくお父ちゃんの顔がな、記憶にあるんよ。おかしいんよ、お父ちゃんは即死やったはずやし、おっぱい吸ってたらお母ちゃんの死に顔は見えへんはずやのにな。
次はな、飛び降りやった。おかん、今の、元の世界のおかんにな、手ぇ引かれて歩いてたんや。4才やった。夏でな、まだ関西でもアブラゼミが全盛やってな。今はほらクマゼミがシュワシュワ鳴いとるやん、その頃はジージーやったからな。で、ドンというかバカンというかそういう音がしてな。ほら911で話題になったやろ。団地の前を歩いてたんや。そんなら、目の前に人が降ってくるんやもん、驚くわな、普通。でも驚いた記憶はないねんなあ、昼のめっちゃ明るい日差しの中にな、焼けたアスファルトの上にな、知ってる子が、血まみれで寝とんねん。俺の服にも血が掛かってん。変な痙攣しとんねん。脚がな、ブルブルって震えて、んで動かなくなるねん。なんかな、顔がこっち向いてるねん。変な角度でな、おかしいねん、そんな向きにならんやろっていう角度やねん。知らん姉ちゃんがな、ちょっとしてかしばらくしてか分からんけど高周波みたいな叫び声上げてな。
『主様。だいぶお疲れみたいですな。』
そやな。でもな、なんやろ、動かれへんねん。これ、ほとんどそうやからな。なんでやろな。
『私も、沢山の人を見送りましたよ。勿論、みんな忘れられませんよね。』
ああ、あおいさんは長生きやからなあ。小松左京先生の小説で、八百比丘尼の話があったなあ。鎌倉の頃の白拍子が何人もの人と夫婦になり、看取りなが生きていく話やったなあ。
『私は誰かと夫婦になったことはないのですがね。さあ、もう寝ましょうか。』
ああ、あおいさんの手は暖かいなあ。ゆきは全体に温いわ。平熱高いなあ。
ふと目が覚めると、雀の声が賑やかに聞こえてくる。あれ?寝てんのは俺一人か。伸びをすると腰や肩甲骨の辺がきしむ。ああ。よく寝たな。もう明るいし、7時くらいかな?
タイミング良くすっと戸が開き、れいかが入ってくる。
「おはよう。」
「おはようございます!朝ごはんの用意ができております!」
「ああ、ありがとう。じゃあ顔を洗って行きます。」
「はい!」
寝間着を脱ぎ、着替えようとすると、枕元に洋服が置いてある。おおっ、これを着ろと!無地チャコールグレーの、マオカラー?いや襟が折り返してある詰め襟みたいなスーツやん。生地薄めやな、シャツはブルーで、靴下は黒で足袋みたいになっとるな、で、褌はふんどしか。しかしこの服誰のんやろ?まええわ、着てみよう。
大体サイズは合ってる。ふーん。ええやん。これ、下駄も履けるようにこうなっとるんか。自分で出した水で顔を洗い、口を漱ぐ。髭剃らなアカンな。えーと、そやあの冒険者のナイフ有ったな。あれどこや?あー、ま後でええか。とりあえず飯行こか。
なんか婦女子の嬌声に取り囲まれて照れながら席に着く。
「かねかつら様!やっぱりお似合いです!」
「そうどすなぁ、男振りが上がりましたなぁ。」
「本当によくお似合いですわ。」
「その無精髭も今風ですな。」
「名主様が仕立てられたもので、ぜひかねかつら様にと。大きさが合ってよかったです。」
「かーっ『黒い色がよく似合っています!』」
「にゃー『なんでもいいからタンパクシツがほしいニャン。』」
『主様は!なんでもお似合いです!』(杖)
「そ、そうかな。」
いやあ、おじさん照れちゃうよw
「しかし何でまたこれを?」
「かねかつら様は今日、下に降りられるんですよね。なので、普通の服を用意したんだと思います!」
あれ?そういえばみんな洋服着てるやん。
そういえば、れいかも髪の毛めっちゃ伸びてるなあ。短めのショートカット、ボーイッシュな感じになってる。あっぱっぱーみたいなんと短パン着てる。
『いやこれチュニックやし。ホットパンツやし。』
狐ナイスツッコミ、そうか、ファッションは疎くてすまん。て、みんなオシャレさん?え、これみんなで行くの?
「今日は村の皆さん朝から張り切って稲刈りに行っています!」
「なので、皆、今日はおにぎりです。」
膳ではなく、丸い食卓にてんこ盛りのおにぎりと漬物。おにぎりは梅干しとおかかとこぶ。そして卵焼き。
うーんいいねえ。これにウインナーが付けば完璧なんやがなあ。




