55:りく3
「では、かねかつら様はサタンですか。」
それ、論理が飛躍しすぎやから!
「違います。」
「堕天されたのですか。」
「いえ、そもそも昇天しておりません。」
『一度は昇天しておりますがな。』
「やはり堕天されたのですね。」
おいおい聞こえてるやん!
れいえもんはハラリと包みを解く。そこには、黒い石のような赤ん坊のようなものが有った。
「私は誓ったのですよ。清廉な神に仇なすものは皆消してしまうと。」
瞬間、目前にれいえもんの顔があった。胸に違和感を感じ、俯くと、右手が刺さっている。は?
「れいかとすてのみならず、我が村の子羊全てを、昇華せず堕落させる、これは悪魔の所業です。」
がはっ、うわ、鉄の味、ってか血ぃ吐いてるやん俺。
「無謀にもルシフェルは神に背き、地獄に落ちました。あなたもそうなんですか。」
ずごっと手を引き抜くと、れいえもんは距離を開ける。手から血が滴っている。その手で黒い石を撫でるように慈しむ。って、あれ?俺死ぬの?大昔に体験した、貧血みたいな感じやん。視界がぼんやり黒っぽくなり、光点が幾つかヒラヒラと舞っている。
『主様!』
『世話が焼けますな!』
カッと辺りが光ったと思うと、体が元に戻る。これあれやな、こないだゆきがやったやつか。これ、量子コピーとかなんとか。こんなチートがあれば、苦労せんわ、神様ありがとう!
「これは、何ですか?まさか神のご加護でしょうか?」
「そうですね。そんなところでしょうね。」
目をむくれいえもんに平然と答える。これはあれかな、れいえもんさん、やっぱ殺さなならんの?嫌やな。
「私は神(高次元意識体)に死んだところを救われまして、この地に再び生を受けたのです。」
「やはり、復活した神の子ではないですか!」
しもた、これでは誤解されるやん!ていうかそんなこというたら異世界転生譚て全部神話やん!あれ、その通りか?うほっチートもんはみんなその通りかもしれんな……。
「いえ、違います!違う世界から来たのです。」
「神の国から降り立ったのでしょう!ではなぜ、神に仕える処女を皆堕落させたのですか!?」
おとめ……。
「それは偶然です。私の考えが及ばなかったからです。」
「偶然であれ程の奇跡を起こせるなど、神の御業としか思えません。今も、普通なら死んでいるはずです。」
困った、なんて言い訳すればええねん。
そこでふと気づく、黒い石が白くなっている。石の凶悪な霊気?魔力?がれいえもんに移っている。
「れいえもん殿、その石は何なのですか?」
「この石は私です。生みの親たるマリアから、魂を授かった証です。」
「えーと、でも石と貴方は違う存在ですよ。今、れいえもん殿は石の悪い気に侵されています。」
「いえ、私は石そのものであり石の化身です。いうなれば、幻のようなものなのです。」
「いや、実体でしょう。だって、ほらこれ貴方の爪ですよ?今無理矢理突いたから、剥がれてますやん。」
「え……?」
俺の血で良う分からんことになってるけど、あんたの右手の小指、爪が剥がれとるよ。で、こっちの着物に付いてたで?
「いや、私は汚れた人の子ではありません。それが証拠に。」
おいおいおっさん、いきなり僧衣を脱いだらあかんて!褌解くなって!
「このように、私には性器がありません。男でも女でもないのです。私はケルビムなのです。」
宦官やったんか……?ていうか何これ、去勢?
「私はエデンを守らねばなりません。」
旧約や、旧約に有ったで、アダムが追放されて、エデンを守ったのが、ケルビムと火の剣の輪。って、何それ。れいえもんさん、魔法使えたん?火の輪が幾つもあるやん?えーとえーとどうするどうする。
「そうか、あの娘も関係していますね。蛇がいますね。」
慌てて振り向くと、あおいさんに抱っこされたりくが、こちらに近付いている。あかん、あかんて今来たら。ああ、一見火の輪で遊んでるようにみえる?いやいやどシリアスやて。
大体あの蛇が何か誘惑したんか?してへんやろ色々無理やろ。
れいえもんが左手を掲げると火の輪がすっと開いて幾つもの剣の形になる。やばいって。
『水』
れいえもんの頭上に大量の水の塊が出来ると同時に落下する。そのまま留める。つまり大質量の水の檻やな。火は瞬く間に消え、れいえもんが驚いて水中で目を見開き、口から大量の泡を吐いている。水中からこちらに向かって進もうとするので、追加で魔法をかける。
『重』
れいえもんはがくんと膝をつき、そのまま伏せる。やがて気を失ったようだ。
「すごい。」
「どうなさいましたか?」
あおいさんとりくが傍らから覗き込んでいる。ちょ、早いって!危ないのに!
「ああ、ちょっと危険なので下がって下さい!」
「えぇ、だいじょうぶどすぇ。ここいちばん。」
「そうですね、りくちゃんの言う通りここが一番安全ですね。」
そうかな?いやそないなことないやろ。俺別にバリヤとか張ってないし。
『もし致命傷受けても、直ぐ戻せますからな。』
『それはゆきが出来るからやろ。』
『主様の傍でないと出来ませぬな。』
なんと。そうか、狐の魔力だけでは無理なんか。いや、そういう話ではないやろ。
「そろそろどうにかしないと死にますな。」
「あ、そやね。」
水を相転移して水蒸気にする。あ、しもたこんなに急にしたら凍るやん。急激に周辺温度が下がり、空気が動く。一瞬にして霜が降り、小さいが強力な竜巻が出来て直ぐ消える。あかん、気ぃつけんと。
「わあ、やっぱりすごおすなあ。」
りくがキラキラした目でこちらを見ている。あはは。てれるやん。
幸い、れいえもんはうつ伏せで倒れており、大事な部分は見えない。石がまた真っ黒になっている。
「あの石、あきまへんなぁ。きれいにしてよろしおすか。」
「ああ……。」
りくがいきなり袂から大麻を取り出す。でかっ、どうやって入ってたんこれ?えぇ、御幣やないやん。ていうか、何でこんなん持ってんの?
「今日は暇でしたから、紙と木の棒で作ってみたんです。」
あおいさん……。
「幸魂奇魂守給幸給」
りくさん……。
一天俄に掻き曇りて雷鳴が轟いたかと思うと稲妻が石に落ちた。黒い石は粉々に砕け、白くなった。
……えぇー!、りくさん、すごくね?ナニコレ?祝詞?え?俺神道はあんまり詳しくないねんなあ。
「りくは、巫女なん?」
「いいえぇ。」
「祓えるんや。」
「そうおすなぁ。」
「すごいな。」
「うふふ、おおきに。」
この幼女、侮られへん。
「でも、こない強うありまへんおしたのに、不思議どすなあ。」
また俺のせいか。
『そうでおすなあ。』
『ちょっとちゃう!発音おかしい!』
黒雲がまた一瞬で晴れる。これ、竜神かなんかの系統?あおいさんの関連もあんのかなあ。
で、この倒れてるおっさん、れいえもんやんなあ、なんか急激に老けてんねんけど。全裸やからよう分かるわ、しわっしわやで。ちょ、大丈夫なんかこれ?




