54:昔はドキドキしながら金○一先生の活躍を見守り、『あざみの如く棘あれば』を聞いて余韻に浸ったものです(再放送)
ああ、りくをあおいさんと寺においてきてよかった。これ、情操教育上問題有るよな。いや、そもそも鵺になってたし、百鬼夜行もかくやと言わんばかりの一行にいたから、大丈夫?いやいややっぱり死体を直接見せるわけにも。
普通、一般的な和室の布団、敷布団と掛け布団の間から顔を出しているのがミイラなら、思考が硬直するよね。
ああ。目が離せ無いならよく見てみよう。黒髪がきれいに残っている。肌は全体に茶色い。目が落ち窪んでいる。黄色い歯が剥き出しである。鼻はほぼほぼ無い。顔が小さく感じる。ミイラデスネ。
エジプトのミイラは、内臓毎に別けて壺に入れる。日本では、どうするんだっけ?漆を塗りたくったり金泥で固めたりしたような。横溝正史先生の作品にあったよなあ。失敗した即身仏の話。まあ、このミイラは失敗でも何でもない、古い死体やけど。
「れいえもん殿。……この家にいた人たちはどこですか。」
「中庭で昇天の奇跡を待っておりまする。」
「!…ゆき!せじろ!すぐに見に行け!」
「はいな。」
狐が即座に駆ける。
「わかりました!」
せじろは光とともに男の姿になり、追いかける。
「……今の男は、一体?」
「倉にあった杖ですよ。杖の精、精霊ですね。」
「ああ、あの杖にございましたか。あれなら、構いませぬ。精霊は男ではありませぬからな。」
「私も男ですよ。」
「ええ、もちろんです。デウス様も、キリスト様も男ですから。汚らしい獣ではありませぬから。」
何でもうちょっと早くこいつのサイコパス具合に気づかなかったのか。大体、偏見かも知らんが、人里離れた場所で、子供も居る、社会から隔絶したコミューンなんて、やばめの新興宗教がほとんどやん?(偏見)
「彼女は、いつからここに?」
「はい。麓の夙で乱暴を受けてから、臥せったきりです。よくお眠りになっています。」
350年か……。日本の湿気でよく朽ち果てんなあ。ああ、これも魔力のせいか。祈りのせいか。
『主様。危険ですな。この女どもは、毒を飲んでおります。』
『主様!吐いてますし、恐らく、附子ではないかと……。ただ、薄いためか、まだほとんどの者は息があります!しかし、もうどうすればよいか……』
『わかった!直ぐ行く!』
「れいえもん殿。私は神の子でも神の使いでも天使でも精霊でもありません。」
それだけ言うと、二人が向かった方に駆け出す。
「すて!れいか!桶と柄杓をもってこい!」
走りながら言い捨てる。いや、どないか出来るんか?附子ってブスやろトリカブトやろ。本来即死もんやけど、漢方薬とか蜂蜜なら、だいぶ毒性は低いし、そんなすぐ死なんはず。ああもう、やっぱあれか、『療』?
でも病気ちゃうしな。『癒』?悠長な感じがする。んななんや、あー。
中庭は広く、屋外集会所のようになっている。そこには20人ほどのー白ゴブ、もとい、女性がいた。皆、正座して、そのまま倒れ込んでいる。手に小さな陶器のお猪口を持っている。これ、聖餐用やろな。
ゆきとせじろがこっちを見ている。
「せじろ!来い!」
「はい!」
こいつ、走り寄りながら杖になりやがった、すげえ。
『治』
全員の完治と健康体をイメージして杖で字を書く。中庭全体が一瞬、強く光る。全員が、強く光る。
ええーっこれ、あかんやつやった?
そこには、大量の老婆が、倒れていた。あおいさんなど目じゃないくらい、皆しわしわやった。
……。
『主様。これは一体どうされるおつもりで?』
それはこっちが聞きたいわ!
「これは……なんてことを……。」
「私はパーデレではありませんし、神でもない。目の前で人が死ぬのは嫌だ。だから出来ることをしたまで。頼むから、集団自殺なんてやめてください。」
そうや、俺は怒ってるんや。一見分からんやろけど。表情が豊かでないから、なかなか気づかれへんけど。俺は怒ってるねん。何で死ななあかんねん。死んだら悲しいやん。死んで浮かばれるなんて、死んで天国行けるなんて、間違ってるねん。
「すて、れいか、皆に水を飲ませてください。」
俺は桶に水を出すと、二人に渡す。
「はい!」
「承知しました。」
「れいえもんさん、いっしょに倉に行きましょう。倉のあれこそが元凶でしょう。」
「……はい。わかりました。」
俺は杖を片手に、狐を連れて、寺へと進む。どうしたものか、素直にれいえもんはついてくる。
「家にいた人たちは、みな駆け込み寺にいた尼僧ですか?」
「いえ、尼僧たちが排除された後に、駆け込み寺に救いを求めてきた女どもです。」
排除か。恐いなあ。
「こちらの寺は、初めは何もなかったのです。信じられないかもしれませんが、生活苦で、すべての仏像や仏具は売り払われておりました。だからこそ、こちらに住むことが出来たのですが。今ある仏像は、旅の仏師が酔狂に住み着いて、体裁を取ってくれたものです。仏師なのにクリスチャンという変わり者でした。
駆け込み寺が認められていたのは、100年ほどでしたか。元々無縁を認められ、年貢や税ですか、そういったものはなかったのです。しかし、お上から通達があり、そもそも駆け込み寺に男がいるのがおかしいとか、色々難癖をつけられるようになりました。
『武』神が寄せ付けなかったのですが、結局取引をしました。そのため、呪いの強い、どうにもならないものを倉に預かり、管理をする代わりに、無縁を貫くことが出来るようになりました。あの中には、私の目が行き届いておりますので、マリア様の加護があるものしか、あるいは女しか入ることが出来ません。
かねかつら殿は、問題なく入っておられました。マリア様の加護を持たれていることは、その時点でわかっていたことです。」
「時代は移ります。既にカソリックは信教の自由で認められているのではありませんか?」
「……違う!あれは違うものです。時の流れにより、堕落しています。」
「そんな、一概のものではないと思うのですが。」
「……それはそうかもしれません。しかし、牧師といいましたか、あれは驚いたことに妻帯しておりました。それだけではありません。他の者もこられましたが、皆に否定されました。異端であると、言われました。」
まあ、ミイラがマリアっていうのは、有るけど、無いな。どこかの国のミイラが生きているようだとか、聞いたことは有るけど、日本ではな。そもそも奇跡が無いしな。
「それどころか、私達の姿を見て、悪魔だと罵りました。謙虚に、自然とともに暮らす私達のどこが悪魔なのかと。」
あー。外見的にね。そうやね。餓鬼って、西洋的にはゴブリン、子鬼とか悪さをする妖精みたいなもんやろうしね。で、排除して更に孤立したということですか。
「取ってまいります。」
れいえもんは懐から鍵を取り出すと、一人で倉に入る。あおいさんとりくは庫裏の方かそれとも寺の外か、とりあえず近所にい無さそうでよかった。
間もなく、手に布包みを持って現れる。やっぱり、これ杖の横手のやつやね。なんかとんでもなく、魔力でてる。魔力?呪い?そんなもの。ここで見ると分かる、課長が言った意味がわかる。
「これは、私であり、私ではありません。」
禅問答ですね、わかります。




