56:すて1
「かねかつらさま!」
れいかとすてが駆け寄ってくる。
「あの、このひとはどなたですか。」
俺はれいえもんに近寄る。良かった、息はある。
「えっと、お父さん?」
「え!?お父さん?」
れいかがれいえもんに走り寄ると肩を揺する。れいかはじっと様子を見ている。
「あぁ……。」
れいえもんが呻き、身動ぎする。目を見開いている。
「かねかつら様、これは、一体どうしたのでしょうか。」
すてが冷静に問いかける。いや、冷静ではないかもしれないけどな。
とことことりくが近寄る。
「これは、本当は祓った訳ではないどすぇ。ただ祝詞を唱えただけ。」
「うん?そうか、そうやね。」
祓い給え、清め給えではなかったもんな。
「本当は日本の神さんやのに、向こうの神さんに頼るから、おかしくなったんどす。」
ああ、そういうことですな。
「でも、デウス様は平等です!」
「そうやねぇ、日本の神さんは平等や無いどすなぁ。そうやから、おかしくなったんかなぁ。」
「れいかさん、すてさん、母屋の方に布団ひいてくれるか。最初に俺がいた所が良いと思う。」
「わかりました。」
「お父さんは……。」
「俺が連れて行く。」
れいえもんを横抱きにして、屋敷に向かう。二人は小走りに先行する。りくはトコトコついてくる。あおいさんは、ニコニコしながら付いてくる。あおいさん……。
れいえもんを寝かせると、他の村人の様子を見に行く。別棟の広い納屋のようなところがあり、そこに筵を並べて寝かせられていた。うわ、モルグみたいやな。でもまあ、微妙に動いてるし、みな死んではいない様子や、良かった。良かった?ざっと見ただけでも、8割が無茶苦茶な老婆、1割が老婆、1割が熟女って感じやな。これ、何歳なんや?
『一番年寄りで三百八十歳位ですな。』
何で生きてんねん!
『それは、れいえもんの魔力というか霊力のせいですな。今は主殿のお陰ですな。加齢しておりますが、動けるしすぐには死なない体力がありますな。多分体年齢六十台半ばですな。』
おぉぅ。死なん様に願ったから?死なん程度になったってことか?
『そうですやろな。』
便利なコッチャ。んなら、とりあえず、生活は出来ると。十年か二十年か、生きることは出来ると。
『病気に罹らなければ、大丈夫でしょうな。』
れいえもんは?
『ちょっとやばいですな。』
やばいってあんた。ああ、りくがしたからフォローせんとアカンと。
『そうですな。このままでは直ぐ死んでしまいますな。』
あかんやん!何で冷静やねん!
『別にどうでも良いことでは有ると思いますな。主殿の倫理観に照らしても、こんな大量殺人犯は生きていたらあかん、と思いますが。』
それはそうやけど、ちょっと話がしたいねん。
『主殿を殺そうとしただけで、まあ死にはしませんが、万死には値しますな。』
ゆきさん……そんなキャラやったっけ?ああ、でも急がなあかんな。れいえもんが寝ている部屋に戻る。やっぱあれか。
『治』
薄く光がれいえもんを包み、消えると顔に生気が戻る。生たる気、で生気やねんなあ、文字通りやな。
「お父さん、良かった。」
れいかが傍らで手を握っている。れいえもんは静かに寝たようだ。
「れいかさんは名主殿を看ていて下さい。すて、こちらに来て下さい。」
「はい!」
「はい。」
すてを連れて、さっき全員が倒れていた庭に向かう。
「すてさん。自分、男の子やったんか。」
「……。そうだと思います。」
「れいえもんに、その、取られたんか?」
「……よくわかりません。」
「そうか、いや、すまん。」
「いえ。かねかつら様の魔法を受けた夜、元に戻った体を見て、私はここにいることは出来ないと思いました。」
「そうか。」
「衆道はお嫌ですか?」
「あ、まあ、経験はないな。」
「私は毎日のように名主様に伽をいたしました。」
え!?どうやって!?
「私のように、名主様のように、月のものがなく血の出ない体は、穢れないのだそうです。」
それは、物は言いようやなあ、しかしどうやって。
「しかし、あの夜から私の体は穢れたそうです。れいかさんも同じです。ガキの頃とは体が違うのだそうです。」
大人の階段、登らせてしまったのか。すっとすてが俺の手を握る。
「私には、かねかつら様しかおりませぬ。」
「あー。そうやな。でもな、自分はこの村の生活しか知らん……わけでもないんか。」
「はい。ここに来るまでは、ひどい目に有ってきました。」
「あー、そうか。そうやねんな。まあ、ゆっくり相談しよか。本当は、自分、勉強せなあかん年齢やんな。」
無言で手をギュッと握られる。BL?いやいや。
大きな納屋のようなところは、作業場やね、蝋燭作ったり、藁編んだり?更に外には開放的な小屋が有って、そこに毛皮が吊ってある。血の匂いと獣臭もするから、そこで解体してるんか。小屋の横には屋根が張り出していて、大量の薪が積んである。
そうや、そろそろ刈り入れやんなあ。
「すてさん、稲刈りって、そろそろせなあかんよね。」
「はい、明日からの予定でした。」
「できるやろか。」
「わかりません。えば様がお元気なら、大丈夫だと思います。」
「えば様って、ここにいる?」
「はい。こちらです。」
シワシワのばあちゃんか。ん?ていうか、名前に関する違和感。えばって、多分洗礼名やんな。まりあもやろ。ちゅうことは、真名は別にあるよな。でもれいかとすては違う。真名で呼ばれてる。漢字を知らんかったらええのか?いや、違うやろ。なんでや?これって良くないんとちゃうんか?
「かねかつら様でしょうか。」
ばあちゃんが体を起こしながら訊いてくる。
「そうですよ。えばさんですか。」
「はい。でもつると呼んで下さい。」
「おつるさん?」
「はい。よくわからんけども、やっと朝が来たような気分です。」
「よく眠れましたか?」
「はい。そうですな。」
「明日から働けそうですか。」
おつるさんが立ち上がる。背筋も伸びている。
「これは、大丈夫ですなあ、かっかっ」
まあ、やはり坊主頭だ。色も白い。ばあちゃん。瀬○内○聴そのものじゃねえか、声まで似てるぞおい。いやわるかったよれいかさん、お前よっぽどかわいいよ。○戸○寂○呼ばわりほんますまんかった。
「ああ、わしも元気じゃ。」
「おうくまさんや。」
「わたしも調子いいのう。」
「おとらさん。」
動物園か!昔の日本の適当な名付けはどうにかならんかったんか!
「みんなが元気そうで良かったです。」
「おお、すて。お前が助けてくれたんやろ。おおきになあ。」
「いやさありがとうござす。」
「ありがとうさんだて。」
ああ、方言の見本市やな。
とりあえずこの場を辞してれいえもんの方に向かう。れいえもんもすでに起き上がり、れいかに水をもらっていた。
「あ、かねかつら様」
れいえもんが気づいて平伏する。というより土下座か。敢えて無視しよう。
「れいえもん殿。具合はどうですか。」
「はい。何というか、目が覚めたといいますか、頭の中の靄が晴れたように感じます。」
「それは良かった。」
良かったけど、なあ。どうすべきか、やんなあ。
「私は、一体これからどうしたいいものか……。かねかつら様を殺そうとしたことは何となく覚えております。本当に申し訳ありませんでした。どうしてかねかつら様が無事なのか、全くわかりませんが、やはりかねかつら様は神様なのでしょう。大変不敬で申し訳ないことをいたしました。如何様な罰でも受けますゆえ、他の者達には何卒神罰を与えぬようにお願いいたしたく恐み恐み申し上げます。」
「あー、ちょっと聞きたいんですがね。あなたは人間ですよね?あの石は何なんですか?」
「……。はい。私にもよくわかりませんが、でも、あれが私でした。私は恐らく生まれたときからあれと一緒に居りました。対と言ってもいいかもしれません。あれは恐ろしい力を持っていて、時々私に憑きました。」
「なるほど。あなたは、島原の乱の生き残りですか?」
「申し訳ありませんが、よくわかりません。古すぎて記憶が混濁しているのか、あの石のせいなのか、幼い頃の記憶は殆どないのです。ただ、母親に、去勢されたことは覚えております。」
「……すてに伽をさせていたというのは本当ですか?」
「はい。本当です。」
「……、一体、どうやって……」
「裸で抱き合って寝ておりました。今思うと本当に恐ろしいことです。」
「……。抱き合って。」
「はい。」
「そのまま寝ていた。」
「?はい。」
「それ以外に何もなく?」
「?はい。本当に……。」
このおっさん、そういう知識とか何もなくて、性的なことというより抱枕としてすてを愛玩していたっていうオチ?
『前立腺とか肛○とか衆道の知識を知るわけがありませんからな。」
いやいやいやそういう知識はいいから!
えーと、でもすて、今おとこのこのあれ、ついてるん?
『そうで』
いやいや聞かへんから!




