40:DQNネームって、昔からあったんですよね。兼好法師も触れていましたし。
嵐のような風が止むと、枯れた山桜の大木が残る。祠は既にして塵芥となり風と共に失せ去りて、そこには無い。くろめはくるくると空を飛び、再び地に降りる。
「かねかつら殿。既にして里は無く、現は泡沫なり。我如何にして生くべきか。」
「くろめさん。難しいことはもういいよ。どうしたい?生きたい?」
「……是なり。いや、生きたい。おじいちゃんの分も生きたい。お父ちゃんももういない。いないのがわかった。はくやもいない。皆の分も生きたい、と思う……。」
「はい。どうしますか。この山野に生きますか?」
「……いや、この地は離れたい……。」
「では一緒に参りますか。しろも同道します。あの集落でのことが終われば、いずれ旅に出ます。」
「いいのか、ぜひそうさせてもらえれば……ただ、お返しできるものが何もない……。」
「そんなものは不要ですよ。」
「いや、それは良くない、この御恩を返せないのは、あまりに申し訳ない。っそうだ!かねかつら殿に仕えよう!差し出せるものはこの生命のみにて、これをお返しするより他に生きる道は無い!」
「……いや。いやいや。そう短慮せずともいいです、ゆっくり考えてください。どこか住みたいところが出来るまで、ともに旅すればいい、旅は道連れです。」
「わかった!そうじゃな。離れたくなるまで同行させていただきます!私のことはくろめと呼び捨ててくだされ!」
ああ、離れるつもりはないようだな……。
くろめはヒョイッと肩に止まる。
「さあ!庵に戻りましょう!娘が待っている!」
声は相変わらずでかいのね!
あおいさんが小首をかしげている。
「くろめさんとお話しているのでしょうか?」
「あれ?聞こえていないですか?」
「いえ、その、言葉には聞こえません……『くーかー』としか……。」
なるほど。これはあれやな、念話みたいのを基本にしやんとあかんな、烏相手に独り言言うとる変なおっさんやんこれ。
「ああ、そうですか。ご指摘ありがとうございます。……くろめは、あおいさんの言うことがわかるのか?」
「わかる!……が、以前ほどでもないような気はします。」
「そうか。可聴域とかかわったかな?いや、人化しているときとは感覚が違うか?」
「よくわかりませぬが、かねかつら様の言葉はすっと入ります。あおい殿の声は考えねばわかりにくいです!」
「なるほど。……烏という鳥は、鳴きマネが非常にうまかったはず。訓練して、言葉を覚えたらいいかもしれんね。」
「分かりました!練習します!」
「ではあおいさん、戻りましょう。あ、水をかけますね。」
「はい。ありがとうございます。」
シャワーのように水を降らせる。
「しろ、行こうか。」
「はいにゃー」
あれ?
「えっと、しろも話せるの?」
「あれ、かねかつらさまとははなせそうだにゃ。」
「くろめとは?」
「くろめ、わかるかにゃ?」
「おお!わかる!おまえはどうだ!」
「うるさいにゃわかるにゃ。くろめはこえがおおきいにゃ。」
なんかこの、ドリトルセンセ?リリ○ーネ?
ドロンと杖が鹿化する。鹿化って。
「私が鹿の姿のときも恐らく主様しか言葉の意味をわからないと思われます。」
「わしにもわかるぞ!」
「あっちもわかるにゃ。」
「むむ、そうでありましたか。」
ま、いずれにせよあの狐は特殊で、狐というか妖狐的なもので、言葉を話しても多分おかしくないのだろうな。それで狐なのだろうな。
庵では、二人共寝ていた。おい、見てるんじゃなかったのかよたのむわ!
「ゆきさん。」
「おぉ、主様。待ちくたびれて寝てしまいましたわ。」
幼女姿のゆきが悪びれずに宣う。
「そろそろ時間もあれやし、帰らんといかんのだが、その娘はどう運ぼうか。」
「主様が背負われるのが一番かと思いますな。」
「それが良かろうと思いまする!」
杖が何かいいたそうだが、無視無視。
くろめに聞いておぶい紐になるようなものを探す。
「くろめ、また来ようと思えば来れるが、何か持っていきたいものは有るか?」
「……無いです!」
「わかった。じゃあ、この手紙はもらっていくぞ。」
「あっ。それの差出人は結局だれなのか……かねかつら殿はおわかりか?」
「さあなあ。ま、調べてみるよ。そうだ、おくるみを見せて。」
「はいな。」
おくるみと言うが、俺の印象だと大きめのポンチョとかマントっぽい。夏だし、薄手の生地で出来ている。可愛いピンク色だ。
「この娘を拾った、いや助けたのはいつ頃だ?」
「一月ほど前です!」
「そうか。」
この暑いのにポンチョとか、とも思うが乳幼児の場合はこんなものなんか。よくわからん。
タグが有る!ブランドェ……。更にその下に縫い取りが有る。アルファベットとカタカナの並列表記やん……。
タグにはこう書いてある。
『My Little Lady 私の愛しき淑女』
うわーっ、すげー意訳!てか何このセンス!
下は筆記体で美しい刺繍や……。
『Angelique アンジェリーク』
おい!何人やねん!ハーフか!欧米か!どうみても東洋人の顔つきなんですけど!




