41:りく1
アンジェリークwを背負い、ゆきの着ていた着物を風呂敷に包んで腰に巻く。出発。
くろめと狐のゆきが先導し、あおいさんが藪をかき分け、杖を持って俺が続く。しろは適当にウロウロしている。なんか動物ばっかりやな。アオイさんがまだ人型でよかった。この娘を背負ったまま藪を直接かき分けるのはちと辛い。あ、なんか魔法使われんのかな。こう楽ちんに移動する方法、いや思いつかんな。
「くろめ、お前さんが烏に变化したこととやにあや皆の件は少しの間黙っておくことにするが良いか?」
「……わかりました。でも私はどうも騙すことが苦手です。」
「……知ってる。屋根にでも止まって様子を見ていてくれぬか。いつ眠っても構わんよ。」
「はい!そういたします。」
「しろも、ちょっと離れていてもらって構わぬか。」
「いいにゃよ。今はねずみも虫も多いし、気にしなくていいにゃ。明日の暮にでも見に行くにゃ。」
「助かるよ。」
しろはさっさとどこかに消えた。
寺に帰り着くと既に夕方になっていた。幸い娘は眠ったままだ。良かった。
「お帰りなさいませ!」
「お疲れ様でした。」
二人が出迎える。ああ、なんて説明しよ。
「うむ。只今。遅くなってすまない。」
「いえ!大丈夫です!」
「はい。皆さんはどうされたのでしょうか?」
「ああ、ちょっと氏神様の祠でな(色々あって姿形も変わったけどな)。あおいさんは一緒に帰ってきたのだが。それでな。」
背負った娘を前に回し、お姫様抱っこの状態で顔を見せる。
「ちょっと妖怪に襲われていた娘を保護してな。少しの間世話をしなければならなくなった。」
できるだけ嘘は言わない。
「まあ!かわいいですね!」
「では、食事の用意を致します。」
「すまない。湯で体を洗ってやりたい故、大桶をこちらに運びたいが良いかな。」
「はい!いいと思います!」
「では少しこの娘を預かってくれぬか。取ってくるとしよう。」
「わかりました!あの、お父さんには明日お会いすることを話しましたので!」
「ああ、ありがとう。」
名主宅にあおいさんと共に向かう。
名主宅は相変わらず人の気配は多いが、母屋の前に立っても家人は居なさそうだった。代わりにと言うか、牛鬼さん=とつかさんか、が所在なげに夕涼みをしている。
「おお、かねかつら殿。」
「とつかさん、一日ぶりです。」
「そうだな、どうにもすることがなくて、話し相手もおらず、退屈しておったのだ。今日はこちらにおられるのか?」
「いえ、寺の方に……とつかさんも行かれますか?」
「……そうだのう、くろめもいないのか?」
「……ええ、くろめ殿とはくやとやとりは祠の庵に。」
「なら、よければ寺に寄せてもらいたい。無聊をかこちすぎて少々気が塞いでおったのだ。」
「ではちょっと断ってまいります。」
俺は杖を持ったまま土間に入り、声を出す。
「すみませーん、どなたかおられますかー!」
「はいはーい。かねかつら様ですか、少々お待ちください……。」
ややあって女衆が顔を出す。まあ、あれだ、白いゴブリン顔。これって、狐が言ってた餓鬼扱いなんやな。餓鬼って無茶苦茶種類があったけど、低位のやつとかはそもそもずっと燃えてるとか無理があるから、高位系?あるいは別分類の何か?
「あおい殿ととつか殿に話があり、寺に泊まってもらおうと思っているのですがよろしいかな。」
ちょっと強めに言う。断られると面倒だからな。
「あぁぁ、はい、承知いたしました。あるじに申しておきます!」
「すまんな、よしなに頼む。」
杖を袈裟懸けに背負い、桶を持ち出す。水を外で捨て、空いた肩に担ぐ。二人を連れて寺に戻る。
きれいな夕焼けやね。急いで飯食べへんかったら日ぃ暮れてまう。
本堂に入ると、アンジェリークが目覚めた。今度はゆきは狐姿で起きていて、布団に寝かされた娘の傍で行儀よく座っていた。
「起きましたか。体の具合はどう?」
「……なおってる。……なおってる。」
顔を赤くして、手や足を見、触り、顔や髪に手をやる。
「……うれしい。」
「良かったね。名前は、アンジェリークで良いのかな?」
驚いたように目を見開き、コクコク頷く。
「はい、りく。」
「りくちゃんでよいかな?」
「はい!」
「お家はどこかわかる?」
「……。」
更に顔を赤くして、ブンブン首を振る。ま、そらそや、二歳児くらいやしなあ。
「ええんやで、ええんやで、おっちゃんと探しに行こな。」
ハッとした顔をすると、またコクコク頷く。
「……おっちゃん。おなか。ごはん。」
立ち上がるとててっと走ってきて、中腰の俺にタックルする。転けそうになるのをぐっとこらえて、抱き上げる。
「そうやね、ご飯にしよか。」
左腕に座らせて、杖を右手に持ち、庫裏へと向かう。狐はくるくる足元を歩いている。
突然二人増えた分にも対応してもらって、暗くなる前には麦飯と大根の煮物、生の瓜、それに辛く煮いた小鮒のようなものが付いた夕餉を終えることが出来た。あおいさんも無理なく食べられたようで良かった。
りくは俺の膝の上だ。離れない。しょうがなく、とりあえずあーんとかしてやり先に食べ終わらせる。食べ終わると同時に船を漕いでいる。服が汚れるなあ、代えの着物がないか聞かんと。にしても色々お世話になりすぎてる感がある、雑事はこなすとしても、この恩を返すことが出来るんやろか。




