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34:くろめ2

 本堂にはいると、仏様の前に並んで立つ。結跏趺坐されたやさしいお顔の仏像だ。昔、おばあちゃんと一緒に奈良によう行ったな。おばあちゃんが仏さん見るのが好きで、興福寺とか大仏さんだけでなく色々見て回った。

 足を組んで座り、両手で印を結び、螺髪ではない。これ、大日如来のお姿やんなあ。俺の誕生日か誕生年か知らんけど、そっからなんか、大日如来の加護があるみたいなことを言うてたから、知ってるけど。なんかすごく力のある仏さん言うてたなあ。燭台、仏教的にはなんか別の呼び名が合ったと思うけど今は思い出せんな、蝋燭立てがたくさんおいてある。夜の勤行かなんかするんかな。ライトアップ?

「立派な仏さんですね。」

「ああ。本当に良いお顔だと思う。」

 くろめが見入っている。

「でも、この仏さんの乗ってる蓮台、ちょっと簡素で不釣り合いな感じがしますね。」

「?そうかな。言われてみればそうかも知れぬ。しかし眷属の像はそもそも台にも乗っておらぬしそんなものではないのか?」

「そうかもしれませんね。では座ってください、ちょっと話したいことが出来ました。」

「うむ、なんでも言ってくれ。……その後、わしの話を聞いてくれたら嬉しい。」

 あ、照れると可愛いんだがなあ。

「では、弁当が届いたら一緒に氏神様のところにお参りしたいのです。伺っても宜しいですか。」

「ああ!かまわぬぞ!日々きれいにしておるのだ。ちょっと人の来辛いところにあって、参ってもらえれば喜んでもらえるぞ!その時はやとりとはくやも一緒で良いか?一緒に暮らしておるで、直にお世話になっておるでな。」

「はい。それは良かった。それから、戻りましたら他の眷属の方にお会いしたいのです。できれば、それぞれの眷属の方とその棲家に伺いたいのですが可能でしょうか?」

「そうじゃな、とつかは大丈夫だろう、あおいは聞かないとならんと思う。やにあは……会えないかもしれぬ。」

「そうですか、出来る範囲で構いません。ああ、あおいさんに一度水を補給に行かないといけませんね。」

「それは喜ぶだろうな、今日の参拝前にでも頼む。」

「はい。氏神様はどうやってくろめ殿に7人を集めろと伝えられたのでしょうか?」

「文が届くのじゃよ。今回は、お告げも合ったしの。」

「なるほど。お告げが、7人集めろといったのですね。文も見せてもらえますか?」

「うむ。かまわぬぞ。氏神様の字は整っていて、とてもこの世のものとは思えぬ。」

「ありがとうございます。ああ、倉ですが、くろめ殿は今な入れそうですか?」

「いや、無理じゃな。あの結界は本当に手強い。というか、杖が出てきたと言うがわしには余計に結界が強くなったように感じる。なんだか、より黒い力が増えているようだな。あの杖も結界に関与していたのだろうな。」

「そうですね。比丘尼のお話はどのように聞いておられますか?」

「殆ど知らぬのじゃよ、すまぬな。ただ、この地をお助けになったとか、聖なる尼僧であられるとか。そういう話ばかりでな。わしが生まれる大分以前からあるでな。」

「失礼ですが、くろめ殿はどのくらい生きておられるのでしょうか。」

「こう見えて、数百年生きておるかのう。ただ、昔はあまり里には下りんかったのじゃ。このごろ、野山の獣が減ってのう。それでしょうがなく、名主殿にお世話になっておるのじゃ。いつもという訳ではないが。」

「それはどのくらい前からですか?」

「100年にはならぬかのう。」

「思ったより長いですね。」

「うむ、空気が悪くなったのか水が悪くなったのか、山の実りも段々と悪くなってきてな。これでもお礼はしておるのじゃよ、猪とか鹿とか兎とか、取れた獲物はお返ししておる。」

「氏神の眷属というのは、もっと威張っておられるかと思っていました。失礼、謙虚なのですな。」

「いや、それはまあ世話になったら返すものじゃろ。お天道様は見ておられるでな。」

「全くですね。ところで、氏神様をお祭りしておられるところまではどのくらいありますか?」

「人の足で一時ほど山道を歩くかの。少し辛い道のりかもしれぬ。」

「いえいえ。ありがとうございます。」

 さらにもう少し話をしていると、すてとれいかが弁当を持ってきてくれた。

「二人で握ったんですよ!」

「いや済まないな。ではちょっと出かけてくるから、夕方には戻ります。」

「どちらに行かれるのですか。」

「氏神様にご挨拶と思ってな。山を登るよ。」

「分かりました。お気をつけて。」

「いってらっしゃいませ!」


 名主の家は相変わらず人が多い。母屋の奥はかなり広くて、本堂の2倍は有るんじゃないだろうか。気配と活気は伝わってくるので、家内制手工業のたぐいでもやっているんかな?微妙に臭うような感じもあるし。

 河童のあおいさんは俺を見ると嬉しそうに寄ってきた。応えて、また水を入れ替えてあげる。

「ありがとうございます。本当に助かります。」

「いえいえ。なんでしたらここでしゃわ、打たせ水でも出しましょうか?」

「本当ですか!それはとても嬉しいです……。」

 名主家の敷地内でするのも迷惑な感じがするので、歩いて出ることにする。結局ぞろぞろと人外全員が出てきたぞおい。

 改めて見ると、やっぱり壮観やわ、何しろみんな妖怪で、怖い。素直に鳥肌が立ってる。

 それでも、昨日よりは慣れてるし、一昨日よりもさらにましになってるわ。逆に色々見つめてしまい、ちょっと道を進む間に河童や牛鬼が顔を上気させている。

 ホースを上向きに持っているイメージで魔法を使うと、噴水のように水が出てくる。

「やはりかねかつら様のお水は、とても体に馴染みます。」

 まあ、純水だろうしな。

「あおいさんの里はどちらに有るのですか。」

「私の里は……あの山の向こうのの方で、かなり遠いのです。」

「では、そちらを伺うのは、難しいですね。」

「はい……。普段は此方の山の陰に有る谷筋に小さな滝と細流があり、そちらに身をおいています。」

「そちらは、割りと氏神様のところに近いですね。」

「はい。私も目をかけてもらっています。」

「うちの郷はそれほど遠くないが、氏神様とは結構離れておるな!」

「そうですか。実は今から氏神様にお参りしようと思っているのです。よろしければ、行ける方はご一緒にどうですか?」

 とつかさんを除いて、全員で行くことになった。ピクニックだな。あえて聞かなかった御神体の姿。聞かんとな。なぜ、7人集めろと言ったのか。


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