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33:くろめ1

 昨日の火は消えていた。じわじわと弱くなっていたのであえて色々せずにほっておいたのだが、幽体離脱したときには既に消えていた。決して忘れていたわけじゃないから!


 庫裏は南北に長く、全部開け放つと三十畳の宴会場、木の引き戸というか襖に三つに区切られている。

 俺が普段いるのは本堂に近く厨から遠い一番広いところで、十二畳ほどの広さだ。六畳間×2、もともと余り物がなく、一人だとだだっ広いが5人と一匹もいればそれなりに狭い。何で杖が人化してんだよ!狭いねん!おまけにれいかとすてがすぐ横に座っている。


 朝飯は雑穀の雑炊と菜っ葉の味噌汁、菜っ葉の漬物。それなりに美味い。さっさと食べ終えて、膳を二人に下げさせると、俺はくろめと差し向かいに腰を落ち着けた。

「くろめ殿は天狗はくらいが娘といわれましたね。」

「そうだ。もう先に父はいってしまわれたが、偉大な父でござった。」

「そうですか。まさか八天狗の方ではないでしょうな。」

「いや、すまぬが四十八天狗でもござらぬが、後に調べたのだがあれはたいそう昔のことで今はきっと変わっておるとのことじゃった。だから今なら、選ばれているかもしれんな、それほど偉大な神通力を持っておられたのじゃ。」

 ……ありがとうございますファザコンです。

「そうなんですか。白雷様というくらいで雷の魔法など使われたのでしょうか。」

 気がつくとれいかがおれのすぐ左横、少し下がったところに座っている。ゆきは最初から狐の姿で右横にちょこんと座っている。

「おお!そうなんじゃ!わがちちは我と違って白い羽を持ち、空を飛びながら右手に錫杖左手に五鈷杵を持って魔を打ち払う、大層な法力の持ち主でな。赤い瞳は火が燃えるように光っていてな。化物や物の怪を神通力で退治した話をよく聞いたものじゃったよ。」

 遠い目で昔を思い出しているくろめの前に水の入った湯呑みをおくと、すてが俺とれいかの間、すぐ後ろに座る。……狭くないか……。

「そうですか、白い羽で飛び両手で。修験者の姿のようですな。」

「おお。そうなのじゃ。お父様のご先祖は役小角様ゆかりのとてもお強い方であったらしい。」

 前鬼様か後鬼様か……天狗だから前鬼か。

「それは、くろめ殿も良い父上を持たれましたな。」

「あぁ、そのことで、すまないが相談があってな……。いや、それよりも先に、下郎な奴らをどうするか決めねばならん。」

「そうですか、私はどちらが先でもいいですよ。まだそいつらが来襲するのは先の話でしょう?少なくとも五六日はあるように思うのですが。」

「ああ、そうだがわからんのだ。実は四日ほど前に先触れみたいなやつが訪れたらしく、それで今回のことがわかったらしい。」

「ああ、そうですか。」

「……、その前に、かねかつら殿のすぐ後ろの長い包が、妙に気になるのじゃが……。それが先程言われておった杖であるか。」

「そうです。名前もつけました。せじろと…」

 包が光ったと思うと、人化してしまった。うわっ、ええのかこんな直ぐ正体現して!あれ、なんか着物纏ってる……?

「はい、こちらご紹介に預かりましたせじろこと鹿杖でございます。以後お見知り置きください。」

「かねかつら様、袋の代わりに着物で包み、帯で留めるようにいたしました。これでいざという時も問題ないかと思われます。」

 やっぱすてすげーよ!秘書に雇いたいわ!

「はい。不躾者で申し訳ありません。まだ縁起はよくわかっておりませぬが、大昔に功徳を積んだ高僧様の杖であったらしく、元は鹿でありその霊が宿ったのでしょう。名付けとともにこうして人の姿を取ることが出来るようになったようですな。」

「これはまた何とも面妖な……いや失敬、角が人になるという話は聞いたことがないので、驚き申した。しかしあの倉にあったのなら、そういうことなのじゃろう。」

 納得早いね!やっぱりこの世界の住人は、細かいこたぁいいんだよ!的なメンタルなんだろうな。眼前の事実が全てであり不可知のことはほっておける。理由付けは神様仏様。楽だろうが、現代日本人としては納得いき難い感が無きにしもあらず。

 それにしても、勢揃いしやがった……、割と広い部屋だと思ったが、妙に暑苦しい。だいたいれいかとすては何でこの部屋にいるん?この烏天狗は木にせず話しているんや?気にせえへんのか?そんなもん?

「先触れじゃが、聞いた話なのは断っておくぞ、わしが呼ばれたのはその翌日のことでな。見たわけではないのだ。」

 やっぱり声大きいなあ。なんかだんだん顔が近づいてくるように思うがどうか。

「そいつは山犬の眷属なのか、狗のような顔で牙を生やし、棒を振り回しておったらしい。くるくる回ったり、下品な歌を歌ったり、しまいには手裏剣を懐から出して樽に穴を開けた。名主殿は危ないところであったらしい。」

「ほう!それは危ないですな。」

「うむ。それで、借り入れが終わったら金をもってこいと。なんなら出向いてやると。こういったそうじゃ。『金を持ってくりゃいい目を見せてやるぜ、金が無いならおしまいだ。』

 名主殿が塩を撒くと小馬鹿にしたような顔で不敵に笑い、オナゴにデレデレと笑いかけて手を握ったり尻を触ったりしておったらしい。何とも下賤なやつだ。」

「わたしは遠くから見ただけですけど、すごく嫌な顔でした!」

「すみませんが私は見ておりません。お役に立てず申し訳ありません。」

 何でこいつら皆、話が進む度に寄って来るんだろう……。

『それは、あなた様の素粒子のフィールド、いや魔力場に惹かれておるからです。半分は無意識ですわ。』

 残り半分は!……、まあ理由はあるんだな、下以外の……。

「わかりました。そいつというかそういう奴らは以前此方に来たことが有ったり、見たり、何か縁があったりすることはないんでしょうか。」

「わしが知る限りでは無さそうじゃが。」

「ありません!あんないやらしい顔のケダモノ知るわけがありません!」

「すみませんが知りません。私がこの村に拾われてから、徴税官様か商人の方、繕い屋さん以外の方は、神様と眷属の方を除いて見たことがありません。」

「……ありがとう。でも後ろから話しかけられると、こう、話しにくいから席を少し変えようか。すてさんれいさん、前に回りなさい。後せじろは話がなければ杖に戻りなさい。宜しいですか。」

 前に回った二人をよく見ると、いつの間にかえらく髪が伸びている。すては黒髪が既に数センチは生えているのではないか?れいかも、茶色っぽい髪が1センチ位生えている。これが、俺の近くにいる理由か?しかし、れいかって目の色も薄いし、誘惑の陰り?、実は美少女じゃね?まだ眉毛もまつげも薄くてよく分からんが、何かハーフっぽいような、緊張してしまう……。すては、純日本風だ、落ち着く。シュッとしてるけどそこはそれ、まだ14やしな。いやいや。

「他に気づいたことはありますか?」

「姿がとても奇抜で、ギラギラして、怖かったです!」

「大分傾いた姿であったようだな。腹とか肌が多分に見えていたようだ。」

「なるほど。」

 これはあれか。今の話を聞く限り暴力沙汰を起こそうとしているとは、現代日本人感覚からは全く感じない。金銭にしても、強引に奪うという感じでもない。こいつは女に手は早そうだが、逆に言うとそれだけだ。

「村というか山というかここから降ったあたりはどうなっているんでしょう?街道の方に抜けるんですよね?そのあたりに広場とか、屋根のあるところ、近くに村や町のある場所は無いですか?」

「ああ、街道筋まで一時ほどだが、さらに半時ほど歩くと割と大きな村がある。その手前に荒れ寺か荒れ屋敷みたいなものがあって、川沿いでちょっとした広場になっている。」

「なるほど。そうですね。明後日か明々後日、そこに私一人で行ってみましょう。それで解決できるかもしれません。」

「なっ……それは危険ではないか!」

「そうです!無法者です!」

「私も、お一人は危ないと思います。私の魔力なら、きっとお役に立ちますので、連れて行ってもらえないでしょうか。」

「そうだ!私も行くぞ!」

「いえいえ、ここは私とそこの狐と杖だけで全く問題ないですよ。逆にあなた方が行くほうが心配です。……れいかさんすてさん。ふたりとも村は出たことがないんですよね?」

「はい……。」

「私はこの村で拾ってもらったのが10年位前になります。それから、出たことはありません。」

「なら、私に任せてください。こういうことは私に合っているんです。」

 れいかは明らかに不満そうだ。

「れいかさん、お父さんとお話するのは明後日にします。今日は魔法の練習をしておいてください。」

「すてはれいかについて。れいかも魔法の練習をしてください。あ、その前に二人で名主様に野伏の件をどうするか明後日相談しに行くと告げてください。それから、今日の昼はちょっと出かけますので、お弁当を作ってもらえますか。」

「はい!」

「わかりました。」

「くろめ殿、ちょっと本堂まで来てもらえますか。」

「わかった。」

 さあ、そろそろ行動しようか。じっとしているのはだいたい苦手なんよね、本を読むのでもじっとしてられへんからなあ、ようお母ちゃんに行儀悪いて言われたわ。




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