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32:俯瞰

 暑い。薄っすらと目を開けると、体温の高いものたちが絡んでいる。こいつらいつの間に……。

 結局、全員本堂で寝ることになった。布団は充分に離して二組。というか、布団有るとこには有るんやな。

 一組に俺。一組にれいかとすて。ゆき狐は離れたところに置いたお座布の上。杖もそのへんで布に巻く。そのはずが、暑いっちゅうねん!。このまま起きて逃げ出そうにも捕まってるしなあ。なんかこう、気配を殺して逃げるみたいなことが出来ひんやろか。うーん。移動、テレポート!いやこれ難しい言うてたなあ。くっついてきても面倒やし。とりあえずなんかやってみよう。

 気配を殺して抜け出す抜け出す気配を殺して抜け出す抜け出す抜け出す……あれ?浮いてるやん?俺が見える。絡みつく尼少女と幼女と男の娘。うわこれ幽体離脱?

 あわてて躯を重ねるようにし、戻れ戻れ戻れ、あ、戻ってる。ほほう。これはあれやな。

 もう一度幽体離脱幽体離脱幽体離脱……お、浮きそうや。今や。

 下半身をそのままで上半身だけ起こすようにして青猫もどきの声っぽく『ゆーたいりだつ~』……。

 ま、まあ、誰も見てへんしな……。

 そのまま浮いてみる。天井。屋根。くぐり抜けたぜ!くるっと下を向く。

 やうやう白くなりゆく山際少し明かりて、やな。幽体の割に清々しさを感じるな。風に流される感じはないな。そのまま浮いていく。寺や。倉や。庫裏や。お、あれは名主の家やな。あ、鶏が時を作ってるわ。川や。田圃は川の周りにあるんやな。水車が有るわ。粉挽き小屋か。徐々に上がっていく。

 割りと村が一望できるな……人家は20、30位か。もう外で働いてはる人が居るな。江戸時代とか、御家人が日の出とともに出勤して昼過ぎに仕事終わって帰るとか、合理的やな。夜はほんま暗くて何も出来ひんし、冬とか12時間以上夜なんて眠ってられへんからな、そうなるわな。

 そう言えば神社はないんかな?……無いな、山の陰かな。氏神の眷属が天狗やからなあ、木立に紛れるか。

 お、あれが街道に抜ける道か……すると街道はあれか。ん、街道の向こうの方から明かりが近付いてるようにみえるな。何や?おお、もっと向こうのほうが暗いのに明るいで。めっちゃ遠いけど、あれが街かな。でもこんなに明るいのも変な感じやな。火事でもあったんか?

 お、海?琵琶湖?そっちからお日さんが出てるな。これ、この距離感やと生駒らへんか、琵琶湖の西岸か伊豆半島か四国か九州か知多とか石川とかも有るんか……でも妙に訛がないよなあ、ここの連中。上方がどうこう言ってたから、近畿圏としたらやっぱ大阪付近やと思うけどまだ分からんなあ。

 白み始めると明けるのは早いな、っと、おしっこか。こうゆうタイでも尿意を感じるのはなんでや?優しさか?だいぶ上がってきてるな、とりあえず戻ろか。

 素早く降りていく。あ、烏天狗や。早いわ!もう名主の家から出てきとる。

 躯を重ね、戻れ戻れ、目を開ける。手や足に絡んだ手や足や頭を静かに丁寧に解す。出来るだき静かに抜け出して庫裏に向かう。軽く体を拭い、顔を洗い、口を漱いで昨日の着物に着替える。外に出ると、くろめが入ってくるところだった。軽い目礼とともに近付いていく。

「おはようございますくろめ殿。」

「おお!早いな!かねかつら殿!おはよう!」

 なんか被った挨拶やな。

「すみませんがちょっと厠にまいりますので、少々お待ちください。」

「あいすまぬ、こんなに早く来るつもりはなかったのだが、どうにも眠れなくてな!」

 眠ってない割にごっつ元気やな。

 紙はないですよね。瓶に水が入っていて柄杓がありますね。縄が数本釣ってありますね。作法がわかりませんね。ああ痔じゃなくて良かった!キレが良い家系でよかった!

 良く手を洗って出る。

「おぉ!倉が!倉がおかしいのじゃが!」

 くろめが息せき切って走ってる。いや飛びかけ?

「何か変わっているぞ!一体どうしたのだ!」

 ああこの、なんでもいつでも耳が悪いわけでもなく大声の人っておるよな。いろんな工場のベテラン職人に必ず一人は居ったわ。

「はい。大丈夫です。原因は私です。中に入りました。」

「ええ!本当に!はぁはぁ大丈夫!なのか!どうやったんだ!」

 ああもうほんまやかましねん、

「よくわからないのですが呼ばれまして。」

「……よく無事だったなあ、本当に大丈夫なのか?普通のものが入ると、命も危なのだぞ。」

「ええ、大大丈夫でしたよ。」

「比丘尼様に呼ばれたのか?」

「いえ、その横の杖です。」

「……杖?そんなのもあったか……。」

 おや?杖は知らないのか。……それにしても、本当ならやはりすてが入ったのは、闇深いことやったんやな。

「いや、すごいな!さすがかねかつら殿だな!比丘尼殿が建立してから何百年も経つということだが、これほど息災なのはかねかつら殿だけではないかな!」

「いえ、私は呼ばれたから大丈夫だったのかもしれません。ここで立ち話も何ですので、庫裏に向かいましょうか。」

「ああ、そうだな!」

「本日は野伏の件ですか。」

「あぁ、それもあるのだが、ちょっと違う話もあるのだが……。」

「はい、わかりました。恐らくそのうち朝餉でしょう、一緒にいただきましょう。それからゆっくり相談いたしましょう。」

「恩に着る」

 天狗って、本来中国では狗ってくらいで獣っぽい犬っぽいものなんだよな。それが日本では鳥になったんだよな鳶とか。飛ぶから。日本で大きい鳥といえば鳶。でも鳶は馬鹿にされてるよな、扱いが悪い。てんぐもそんなところがあるよな。なんかバカっぽい。その辺に親しみを感じるのかもしれんな。一般天狗って百万だかそのくらいいるとか。憎めないんやろな、顔怖いけど。あれ、何でこいつ腕組んでるの?何でコンナニニコニコしてんの?ええ、やっぱりこれモテキやん!いやや!こんな怖いのとか人外とか尼とか男とかなんでよ!

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