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13:人物紹介2

 口の端をじわりと持ち上げて笑顔のようなものを作る。これ、目が細いからか目つきが悪いとか怖いとか子供の頃からよく言われた自分が編み出した、コミュニケーションツールのようなものだ。ゆっくり表情を変化させることにより感情を相手に伝えるのだ。普通に笑ったのでは笑顔に見えないらしい。頼むわほんま。

 ふと見るとゴブ嬢が顔を赤くしてこちらを見つめている。やべー、こんなフラグへし折らねば。

「くく、そうじゃな、この鵺じゃが。寝ているのは、まだ子供なので容赦願いたい。まだあまり話すこともできぬのでな。」

 なんと!話せたんかワレ!ペット枠かと思ってたよ。

「どうやら親を殺されたらしく、我が鎮守の森に遠くから紛れて来おったらしくてな。仮の名をやとりと呼んでおる。これでなかなか強い技を持っておるので、侮れぬのじゃよ。」

 やっぱ声なんだろうなあ。なんやったか。ぶっぽーそーじゃなくて、とりつぐみ、いやトラツグミ?まあいいか。それっぽい声で啼いてたし。


 うむ、と頷いておく。ちょっと尻が痺れてきた。板の間に胡座なんて、現代人はあんまりしないよなあ。

「後はあの娘じゃが、川上に有る大きな池の龍神様の眷属でな。」

「はい。私気多けたはあずむの娘あおいとお呼びください。」

 やっぱり生臭い。これは彼女由来の分泌物のせいなのか、桶の水のせいなのか。

「湿気が多いときは大丈夫なのですが、ここのところ日照りが続いており、肌が少し辛う御座いまして、水浴みなどさせていただいておりました。不調法にもお目汚ししてしまい、申し訳ございません。それに水があまり良くないのか匂いがきつく、お許し願えればと存じます。」

 ああ、やっぱり水のせいか。

「いや、突然訪のうた拙がそもそも不躾であったろう。こちらこそ申し訳ない。」

思ったよりも大変まともな感じで、丁寧な対応をしてみる。

「では、水を出しても良いかな。多分、水ならかなり出せるぞ。」

「かねかつら様は、水の魔法を使えるのでございますか!」

「はい、先ほどとてもたくさんの水を出されておりました。本当に素晴らしい魔法使い様ですよ!」

ゴブ嬢がニコニコして大きな声で答える。……。もしかしてどこからかずっと見ていたのか?どこの家政婦やねん!

「うん、まあそうだな。」

 ちょうど尻や脚が痺れてきていたので、ゆっくりと立ち上がり土間に向かう。

 直径4尺深さ2尺ほどの大盥だ。井戸は離れているし、早々水を入れ替えるわけにもいかんのだろうな。放置した金魚の水槽めいた匂いが漂っている。

 では試してみるか。まずは力。

 先ほど借りた下駄を履いて桶の上部を抱え込み力を入れてみる。

 おおー!持ち上がるわ!結構水入ってるよ200リットル位は入ってるんじゃね?すげー!などという喜びの叫びは押し殺し淡々と持ち上げて外に運ぶと開けた土地にザバッと撒く。大丈夫だ、腰痛くない。 

 いやー、まいったな、俺すげー。

 おおっ、とか わー!とか背後から歓声が上がっている。

 そういえば体自身はすごく軽い動きをしていたな、と気づく。山道を歩いても疲れとかまったくなかったし。

 懐から棒を取り出し、集中する。湯気が見える。湯気行けー湯気行けーと念じていると玉が光る。あれ?光りすぎじゃね?いやでもどうしようもないぞ解除の仕方がわからん。しょうがない、このまま行くか。

 光った筆の先で楷書を意識して大きめに「水」と書く。

 目の前に巨大な水の玉が浮かんだ。自分の身の丈を遥かに超えた玉だ。

「うぉぁあ」

 変な声を上げると同時に一気に桶に水が入り、溢れた水が四方に押し寄せた。


 開けた場所だから良かったものの、それでも表に出ていた者達は皆足首まで濡れてしまった。俺も、下半身がずぶ濡れだ。

 ペンを持ったまま振り返る。

 皆唖然とした顔をしていた。

「いや、すまぬ。」

 テヘペロ的な(つもりの)表情を浮かべ、謝った。



 そうこうするうちに日は傾き、夕餉となった。

 昼と同じような雑穀の粥、今度は大根か蕪のようなものが入っていた。

 まあ、米はそう簡単に喰えんよな、年貢は要るし多分貨幣みたいなものなんだろうしな。そもそも収穫前の時期にそれを望んじゃいかんやろうしな。


 寝床は土間の片隅で、敷き藁少しと筵をもらい自前の毛布を被って寝ることにした。

 離れは眷属の女衆が眠るということでこちらからご遠慮した。間違いが合ったら困るし。ほんま困るし。


 油とか高級品なのだろうし、どうも魔法使いみたいな便利な人種はあまりいないのだろうな。日暮れとともに寝て朝日が登る前に起きる。やっぱこれが正しいのだろうね。そもそも江戸時代までは、いやいっそ昭和初期くらいまでは昼くらいで仕事を終える庶民がほとんどだったのだ。戦後でも残業しまくるなんて時代はほんの数十年くらいのはずだ。これが悪いのかどうかはわからないけれど、今の自分には心地良いように感じる。

 隙間風は入るが、まだ初秋だ。風を引くこともないっしょ。


 ああ。怒涛のような一日だった。

 なんとまだ12時間位しか経っていない。

 目を閉じて大きく息をつく。


 これ、前から思っていたんだが、魔法使いは寝ぼけて魔法を使ったりしないんだろうか?大惨事になるよね?

『大丈夫、とりあえずその世界では表層意識下の集中による弱い力の行使しか発動せんよ、それが汝等の日常に影響を及ぼすことはほぼない……』

 うん?神様?まあいいや。意識が吸い込まれるように薄れていく。おやすみなさい……。




『まだだ。まだ終わらせんよ。』(メタな声)

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