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14:その夜

 すっと冷たい風が体に当たったような気がして目を開ける。毛布が掛かっていない。蹴った?そこかしこから薄く漏れる月明かりで完全な闇ではないが、真っ暗だ。

 白っぽい影が足元に見えた。


 ひぃいいいい!いやおばけではないおばけはいない人間のほうが怖い。誰!?

 固まっていると声が聞こえた。

「お情けを頂戴しとうございます。」

 白ゴブ娘だ。ゴブ嬢いやれいかではなく、もう少しちっこい方だ。

 と思っていると三つ指ついて頭を下げ、おもむろに近寄ってくる。

 いやいやいやいや。あかんから。まじであかんから。もうなんというか。

「待て。」

「はい。」

「待て。」

「はい。」

 筵端に座ってこっちを見ている。

 ゴブリンの顔……もうほんとうにあれだ、ゴブリンはゴブリンだ……有名な屋敷妖精に似ているがもっとゴツゴツしい。目はちっこい。なおかつイメージが間逆だが、真っ白な肌をしている。おまけにこの娘は妙に小さい。大人のゴブリンで120~130cm位っぽいが、この娘は1mもないのだ。どうしろというのか?

「伽か?」

「はい。」

「誰かに言われたのか?」

「……」

「嫌であろう、自らの寝床に戻るがよい」

「嫌でございます。」

「だろうな、拙者も疲れておるからさっさと寝ることだ。悪いことは言わないからな。」

「戻るのは嫌でございます。」

「……?」

「生娘はお嫌いにございますか?」

「待て。いやそういう。いや。」

 俺は伊○博文か!

「命ぜられましたがあたくしは嫌ではありません。」

「まて。だからちょっと考えるから。」

「はい。」

 どうしようどうすればいい?絶対召し上がりたくない。ホブ父の差し金か?好意はありがたいが本気でありがた迷惑だ。かわいい、いやせめて人間なら、いや。それでもこれはちょっと、素人童貞をこんなことで捨てる気にはなれへんぞほんま。

「ほんとうに今日は疲れておるので、今日のところは戻ってくれぬか。」

「では添い寝だけでも。」

「いや結構だ一人でないと眠れぬのだ。申し訳ないが……」

 見るからに意気消沈したゴブ娘。悪いことをしたような気にはなるが、自らの貞操は守らねばならぬ。

「名はなんと申す。」

「捨と申します。」

 ガン!と何かきた。衝撃のようなものが、頭から胸にかけて走る。なんじゃこりゃ?

「……。今、もしかすると、真名を申したのか。」

「はい。貴方様に全てを捧げます。」

「いやそれは早すぎひん!?」

「はい?」

「あー、そうか。ありがたいが、拙者はまだまだ未熟な旅の身の故、伴侶などまだまだ……」

「そのような高望みをしているわけではござりません、あなた様に一夜の情けをいただきたいだけにございます。」

 あー。何でこんなに頑ななんだ。奉公者だろうが、親はどうしたんだ?

「親はすでになくなっております。姉妹兄弟もどこに居るかわかりません。名主様には本当によくしていただいております。でもご恩返しのためだけではありません。本当にそうしたいと思っているのでございます。」

 エスパー!?

「あたくし生まれは東の国のおっきな街であったということでございますが……」

 この娘こんなに雄弁だったのか。ちょっと引くわー。

 延々と話しているが興味もあまりなく聞き流しながらどうやってこの窮地を凌ぐかばかり考える。

「そんなに子供の頃に離れ離れになったのなら、どうやって真名を知ったのか?」

 つぶやくと、捨は大事そうに懐から匂い袋のようなものを取り出す。きれいな錦の端布で造られたであろうそれは革紐で首に掛けられていたが、外して掌に載せると口を開け、布切れを取り出した。

「ここに書いてありました。」

 何度も取り出して見たのだろう、大分変色しており、字もかすれて殆ど見えない。

「そうか。苦労したのだな。」

「はい。」

 そういうと、ぽとりと目から何かこぼれた。

 ……あかんわ。おっさん、こんなんあかんわ。こないだト○ロで何故か号泣したんや、年を取ったらあっかんねん。

「そうか……」

 ふと、たもとにある棒を思い出す。取り出して魔力を込めると明るく輝き、かすれた字が見えた。捨か。どうなんやろこんな名前現代ではありえない。でも昔は……よくわからんな。武家なら、あるいは男子なら、あえて悪い名をつけるという話は色々伝わっている。でもこれはどうなのだろう?

捨はキラキラした目でこちらを見ている。

 何の気なしに筆でその字をなぞった。


 光が溢れた。目の前が真っ白になる。

 うわっー!!ち、力が抜けるー!ラピ○タかよぉーー!!気が遠くなりながら視界の先のゴブ娘自身が白く光っているのがわかった。


 闇の中で残像が赤や緑にチラチラする。基本的には無音だったようだ。

 たたたたっと足音がする。

 あまり騒いではいなかったはずだがあんなに光ったら、そりゃ何事かと思うわな。

 娘は自分に倒れ込んで、気を失っているようだった。なんか大きい。物理的に大きくなってる。

 ……。思考放棄に近い。もう驚くのも何をするのもめんどくさくなってきた。とんでもなさすぎるわー。神様は何をさせたいんやー。力でーへんわー。

 ロウソク皿を持ったゴブ嬢が襖(戸板?)を開けて覗き込む。

「かねかつら様!一体何事……。そちらの娘は……あ、失礼します。」

「いやいやちょっ、待てよー、って違う!この娘はすてでござるよ。」

 ゴブ嬢が勘違いして引こうとしたので慌てて声をかける。

「!!」

 れいか嬢が近寄って娘を抱き起こす。

 蝋燭の灯で周囲が大変明るい。

 白い薄布の夜着を纏っている。それがやけに短くてコスプレなんちゃって和服みたいになっている。身長140cm位か?白い肌は変わらない。顔が変わっていた。

 人間の顔だ。しかもそこそこ美人だ。

 うっそーん。進化?ポ○モン?

 あー。しんどい。しんどすぎる。再び意識が闇に飲まれていく。

 もうええやろ。もう寝かせて。頭痛いねん。頼むでほんま。



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