11:現状把握
案内されたところは離れのような建物で、やはり板敷きだった。
そりゃあこの時代名主でも畳は持ってないか。
いや、名主という呼び名もやはり変な感じはある。江戸以降の役職でもないけどそう言う公的な呼び名っぽい。
俺は割りと上等そうな筵をもらい、身を横たえた。
あー。まだ昼くらいか。なんか無性に疲れた。
これからどうしようか。
と言っても選択肢はほとんどない。
食客としてたくさんの傭兵を常時預かれるほどの村ではないよな。
背嚢を枕に毛布を取り出す。
その時、きれいな棒がコロンと落ちた。
魔法の筆か……
よくわからないが何かの木材に銀色の金属が蔦のように巻き付いている。木材と思っているだけで、本当は何かよくわからない。黒くて軽いがプラスチックではなく、木目のような模様が僅かに伺える。
微妙に老眼の兆しのある灯潮は顔から遠ざけてまじまじと観察する。
きれいやね、この石。もちろん独身の自分に石の種類や価値がわかるはずがないが、オパールではないか?白っぽい透明っぽい石の中に色々な光が煌めいている。
魔力を込めるとかゆうてたけどどないするんや?
そもそも魔力ってなんや?
なんか溢れ出ていると言ってたなあの天狗かハーピーかわからんやつ。見えるもんか?ドラ○ンボールの気みたいなもんか?ミワセンセが言ってはったオーラみたいなんか?
手をじっと見つめてみる。
うん?
なんかうっすい湯気みたいな透明なもんが手から揮発しているように見えた。
手品の種にこんなん有ったなあ。
手にこすりつけると湯気が出る水みたいなんやったっけ?
気がつくと露出された肌という肌から何か立ち上っているのが見えてくる。
え!と思って目を擦ると普通だ。別に何もない。
またじっと見る。だんだんぼやけるように湯気が見える。湯気というより陽炎か。
ふーん。これか。んで、これをペンに込めると。
灯潮は「ペンに湯気行け湯気行け」とブツブツつぶやく。息を止めながら集中していると石がじわじわ光りだした。おぉっ!集中が切れても石は光っている。石の反対側にライターの炎のように薄ぼんやりした湯気が出ており、透明な筆のようだ。
これか、これやな。やった、すげーな俺。
にまにまと気色の悪い笑いを浮かべるが誰も見ていない。
で、漢字を書くと。どこに?
とりあえず中空に「水」と書いてみた。
ダザッパァーーーン!!
風呂桶をひっくり返したくらいの水がすぐ前に出現し、そのまま毛布から筵ごと灯潮に落下する。
「うひょーーー!」
!冷てーよ!何なんよ!板の間全面水浸しじゃねえかよ!どなすんねんほんま!
叫び声に驚いた白ゴブ娘にお願いして藁や別の筵であらかた水を外に落とし、着替えを借りた。浴衣みたいやけど麻なのかゴワゴワしてチクチクするが贅沢は言えない。おまけに褌まで借りた。
その時ようやく自分の姿を多少は確認できた。
まず全身が黒っぽくなっている。といっても日焼け程度だろうか。ただ、今まであんまり焼けたことのない手首の裏側とか腹の辺とか全てがじんわり色が濃い……茶色人種とでも言うべきか。
顔立ちはあまり変わっていないようだ。と言っても桶の水に写ったのを見た限りだが。それよりも、髪の生え際付近、ヤンキーが剃り込みをする場所あたりに瘤のような……角のようなものが、左右に生えている。鬼か?
更に問題というか、目がおかしい。白目が黒い。黒目が赤い。
気持ち悪いような気もするがかっこいいような気もする……。
いやいやいや。普通には見えてるし。以前より遠くがよく見えているような気もするけど老眼になりかけなのは相変わらずやし。
「かねかつら様よろしいでしょうか。」
外観の微妙な変化についてあれやこれや考えていると白ゴブ嬢が呼びに来た。昼餉ということだった。顔合わせを兼ねて体調が大丈夫なら来て頂けないかと。
ふむ。とりあえず水を出す魔法はできた。他の状況は分からないが、ちょっとは手伝えるかもしれない。 それに世話になるならご挨拶くらいはきちんとしないとな。『全社員が営業である!』って社訓に有ったくらいでその辺はわきまえてるしな。
「少し休んで着替えたせいか、落ち着いたようだ。では参ろう。」
読了ありがとうございます。




