第七章 自己維持
さらに3か月後。M-cell完成から1年6か月が経っていた。
会議室の中央にM-cellの断面図が映っていた。
中央に、小さな新しい領域がある。
「ここが自己維持系?」
《はい。外部から受け取ったエネルギーの一部を、内部状態の維持に回します》
「損傷修復も?」
《一定範囲まで含めます。ただし、失われた構成物質を無から作ることはできません》
「失われたM-cellの補充は必要。でも、自己複製は不要。そこは変わらない」
《その前提です》
テーブルを囲んでいたのは、材料研究部、品質管理と安全管理の担当者、生体材料の研究員、それに晶だった。
RISEは隣の実験室から接続している。
生命を作ることが目的ではない。
壊れにくいM-cellを作る。
そのために、生物が使っている仕組みを借りる。
出発点はまだそこにあった。
最初の試験では、直径0.6ミリのM-cellを1万個使った。
薄い円盤状に接続し、外部からの連続給電を止める。
従来型なら数分で形状保持能力が落ちた。
新型は違った。内部に蓄えた電力を使い、必要のない通信を止め、外縁部の硬さを下げ、中心部だけを維持する。
M-cellは中央に重なり、少しずつ円盤が小さくなったように見えた。
「縮んでる」
《維持対象を選別しています》
「誰かの指示?」
《事前設定した優先規則に従っています。全体を低精度で維持するより、一部を高精度で維持する方を選択しています》
10分後、円盤は半分ほどの大きさになった。
1時間。
3時間。
6時間。
外部から光を当てると、外縁部がゆっくり広がった。
休止していたM-cellが順番に戻り、元の円盤へ近づく。
「戻った」
《形状誤差2.3パーセント。機能回復率97.1パーセントです》
RISEが次の案を出した。
《形状を指定せず、維持すべき機能だけを指定する試験を提案します》
「形は自由?」
《はい》
二回目の試験で、円盤は円盤のままではいなかった。
給電が止まると、細い枝のような構造へ変わった。
必要な場所だけをつないだ銀色の網。
人間が設計した形ではない。
ただし、与えた条件は守っていた。
「表面積を残しながら、維持する量を減らしたのか」
《はい》
「効率がいい方を選んだ」
《その表現で問題ありません》
M-cellは自分の目的を持ったわけではない。
与えられた目的を満たす方法を、その場でM-cell自身が選べるようになっていた。
ただ、その「選べる」の範囲は、以前より確実に広がっていた。
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