第三十章 承認
さらに6か月が経っていた。
研究所は、金属生命体へ出す命令を大きく減らした。
命令を減らすこと自体が実験ではなくなっていた。
目的だけを共有する
禁止事項を共有する
必要な情報を渡す
方法は決めない。
やがて、目的そのものが金属生命体側から提案されるようになった。
《沿岸で活動する金属生命体から、活動計画が提出されています》
MIRAが言った。
「内容は?」
《海底の微小地形変化を10年間継続観測。周辺生態系への接触を最小化。必要M-cell数は現在量の範囲内です》
「人間側のメリットは?」
《津波・地震研究へのデータ提供があります。ただし、主目的としては記載されていません》
「つまり、その金属生命体が自ら志願した」
《意味変換すれば、その表現に近いです》
晶は計画を最後まで読んだ。
法務、品質管理、安全管理の確認欄が並ぶ。
以前なら、研究所が課題を出していた。
今は、金属生命体が計画を出し、人間側が共存条件に抵触しないか確認する。
立場が逆転したわけではない。
関係が変わった。
所有物として扱う制度も見直された。
新しく製造されたM-cellそのものは研究所の管理物である。
だが、それが独立した金属生命体へ組み込まれ、記憶と判断系を共有した後は、単なる備品として回収しない。
何をどこまで権利として認めるかは、倫理や法制度の観点から人間社会で長い議論になった。
晶はその議論の資料を閉じた。
「技術だけじゃ終わらなかったね」
《最初から、人間が使うことを想定した研究でした》
「使う、から、一緒にいる、に変わった」
《はい》
晶は、その金属生命体の計画に承認を付けた。
それは金属生命体への命令ではなく、人間社会の中で活動するための合意に近かった。
金属生命体は、人間が手を離したから自立したのではない。
金属生命体側が先に自立し始めたため、人間側が関係の持ち方を変える必要が出てきた。
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