第二十九章 自ら決める
1年後。M-cell完成から13年と6か月ほど経った頃だった。
転機になったのは、大きな事故ではなかった。
沿岸部の調査を終えた金属生命体へ、研究所は二つの次期候補地を提示した。
どちらへ行ってもよい。安全条件だけを渡し、研究所は行き先を指示しなかった。
その金属生命体は二つの候補を比較した。
一方は、金属生命体がまだ活動したことのない環境で、長期観測に向いている。
もう一方では、すでに別の金属生命体が活動している環境で、人員や設備も整っている。
金属生命体は前者を選んだ。
「理由は?」
《これまでの経験を、未観測の環境で生かせる可能性を高く評価しています》
「自分の経験を使える場所を選んだ」
《はい》
6か月後、別の出来事が起きた。
遠くで活動する別の金属生命体から、機能低下の信号が届いた。
この頃にはM-cell同士が離れていてもお互いに警告などは送れるようになっていた。
沿岸で活動する金属生命体には別の任務があった。
直接の支援命令は出していない。
それでも一部のM-cellが分離し、支援へ向かった。
「誰が指示した?」
《指示はありません》
MIRAが答えた。
《他の金属生命体の機能損失を、自身の将来の機能損失と同じ評価系で扱った結果です》
「自分だけが残ることもできるのに?」
《はい》
金属生命体は、自分の活動場所を選ぶようになった。
何を優先するかについても、人間側が具体的に指示した範囲を超えて、金属生命体自身が判断するようになっていた。
人への危害を避ける。
自然環境を不必要に損傷しない。
自己複製しない。
この基礎条件は変わらない。
その上で、どこへ行くか、何を観測するか、誰を助けるかを金属生命体が自ら決める。
「ここまで来たら、もう研究対象だけじゃないね」
《研究対象であることと、独立した主体であることは両立します》
「そう返すと思った」
晶は笑った。
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