第二十八章 意思疎通
さらに2年が経った。
M-cell同士の情報交換はすでに当たり前になり、外部から指示しなくても必要な情報を選んで共有するようになっていた。
位置
危険
エネルギー源
接続可能性
周囲の生物の状態
それは人間の言語ではなく、状態や危険度、行動の優先順位を電気信号で伝える情報交換だった。
ところが、異なる地域で長く活動した二つの金属生命体を同じ試験区域へ入れた時、予定にない情報交換が増えた。
片方の金属生命体が作業範囲の一部から退くと、もう片方がその空いた領域へ移動した。
少し後、役割が逆になる。個々の金属生命体は、互いの状態に合わせて作業領域を分担していた。
外部から分担は指定していない。
「何を送ってる?」
《変換します》
MIRAの画面に、人間の言語へ置き換えた文が出た。
〈私はこの領域を担当する。あなたは別の領域を担当した方が全体効率が高い〉
晶は表示を見た。
「翻訳すると会話みたいになる」
《人間の言語に変換しているだけです。原信号に人間の言語はありません》
「でも、人間の会話みたいだ」
別の信号が出た。
〈この場所には保護対象がある。接触を避ける〉
続いて、もう一方の金属生命体が応答する。
〈確認。迂回する〉
研究員が言った。
「音声会話がないだけで、金属生命体同士では意思疎通しているんですね」
「そう見える」
晶は答えた。
「でも、人間の会話に直した文を、金属生命体たちの言葉そのものだと思わないようにしよう」
MIRAが記録した。
《意味変換文と原信号を併記します》
金属生命体は、人間と同じ言語を持たなかった。
それでも、相手の金属生命体の状態を知り、自分の行動を変え、役割を調整した。
人間は便宜上、それぞれを「個体」「集団」と呼んだ。
だが、金属生命体は必要に応じてさらに結合し、あるいは別々の金属生命体として分離する。
人間が「机」「建物」など、一つのものとして切り分ける境界と、金属生命体の側の境界が一致するとは限らなかった。
ことばより前に、伝えるものはあった。
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