第二十七章 別の存在になる
3年が経った。
M-731研究開始から11年以上、M-cell完成後から10年6か月ほど経っていた。
外で活動する金属生命体が増えると、研究所へ戻らない時間も長くなった。
1週間。
1か月。
1年。
同じ設計から始まった金属生命体でも、経験の差が大きくなる。
海辺で活動する金属生命体は塩分変化への対応が速い
寒冷地で活動する金属生命体は、熱を逃がさない構造を選ぶ傾向が強い
都市部で活動する金属生命体は、人工的な電磁環境を利用する
森林で観測を続ける金属生命体は、生物への接触回避が細かくなった
違いは遺伝ではない。
経験と学習履歴だった。
新しいM-cellを補充すると、金属生命体は自分の記憶の一部を新しいM-cellに共有する。
そのM-cellは同じ材料と基本設計を持つが、加わった金属生命体によって役割の学び方が変わる。
晶は系統図を見た。
「さらに家系図っぽくなってきた」
《生殖系譜ではありません》
「分かってる。似てるってだけ」
どこから分かれたか。
何を受け継いだか。
何を経験したか。
何を選ぶ傾向が生まれたか。
図は枝分かれしていった。
金属生命体は自分で増えない。
だが、同じもののままでもいなかった。
一つの金属生命体が二つに分かれ、それぞれが別の場所で何年も活動すれば、再び結合しても完全には一つにならないことが増えた。
記憶を共有することはできる。
それでも、別々に積み重ねた判断の履歴まで消えるわけではなかった。
そのため、判断の傾向まで一つにそろうとは限らなくなったのだった。
「同じ起点から別の存在になる」
《はい》
「生まれるって言葉は使えないけど、分かれるってだけでもないね」
《新しい用語が必要ですか》
「今はまだいい」
名前を急がない。
それは研究の初期から変わらない晶の癖になっていた。
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