第二十六章 共存
それから1年が経った。
金属生命体が研究所の外で活動する機会は増えていた。
最初の用途は、災害現場や人が入れない場所の調査だった。
その後、保全、観測、補修へ広がった。
崩れた斜面では、細い根に似た構造を作って地中へ広がる。
水分と圧力を測り、必要な場所だけを補強する。
河川では薄い膜になり、流速を測る。
海中では魚のような輪郭を作ることもあった。泳ぐために、その形が効率的だった。
乾燥地では、昼に薄く広がって光を受け、夜は塊になって熱を逃がさない。
建築物の隙間では、石のように動かず何年も監視を続ける。
見た目だけなら、植物や動物や無機物に似ることがある。
ただし、本物と同じではない。
近くで見れば、銀白色の微細な反射がある。
表面の質感も違う。
植物の葉脈に見える構造は金属の導電路であり、動物の筋肉に見える部分はM-cellの密度変化だった。
自然の生物を置き換えることは、運用原則で禁止された。
生息域を奪わない。
動植物などの生体組織へ意図的に接着・侵入しない。
微生物等との偶発的な接触は、安全性評価の対象とする。
必要以上に地形を変えない。
地中では、地層の観測や地下資源の調査にも使われるようになった。
金属生命体は自然を模倣して自然になったのではない。
自然の中で、自分たちに有利な構造を選んだ結果、似ることがあった。
ある現場で、晶は斜面を見上げた。
本物の草の間に、光を受けるため薄く広がった銀色の構造がある。
遠目には葉に見える。近づけば違うと分かる。
「これくらいがいいね」
《何についてですか》
「自然の植物と共存している。でも、自然の植物になろうとしているわけじゃない」
《記録しますか》
「独り言まで全部残さなくていい」
《すでに記録対象です》
「知ってた」
※毎日更新します。




