第二十二章 理由
さらに3か月後。
金属生物の行動が複雑になるほど、一つの問題が大きくなった。
「なぜ金属生物はその行動を選んだのか」
晶は最初から、理由を説明できない挙動を増やさないことを条件にしていた。
説明できないものを増やさない。
だが、M-cellの群には中央の一人がいない。
1万個、10万個、時には1億個を超えるM-cellが、それぞれ近くの状態を見ながら小さな選択を重ねる。
最終的な行動は、その積み重ねで決まる。
「後から理由を一個にまとめたら、嘘になるね」
《はい。単一理由への要約は情報を失います》
MIRAとRISEは、判断の履歴を階層化して残す仕組みを作った。
高温区画を避けた群の記録を開く。
過去の損傷履歴
現在のM-cell残存量
周辺温度
代替経路の距離
エネルギー残量
任務の緊急度
隣接群の状態
何百もの小さな判断が重なり、「進まない」という一つの行動になっていた。
「小さな判断の積み重ねか」
《同意します》
「人間だって、一個の理由だけで決めてないこと多いし」
《その比較は可能です》
金属生物の判断過程は、人間の言語へ意味変換できた。
ただし、原信号は文章ではない。
複数の状態量と評価の変化だった。
研究者はそれを「理由」と呼ぶようになった。
言葉を持つ前に、説明可能な選択の履歴を持ち始めていた。
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