第二十章 判断
さらに3か月。M-cell完成後5年が経っていた。
M-cellの群には、複数の目的が同時に与えられるようになった。
人を傷つけない
周囲の生物を損傷しない
自分の機能を維持する。
指定された作業を完了する
エネルギーを浪費しない
問題は、それらを同時に守れない場合だった。
試験では、狭い通路の向こうに停止装置を置いた。
途中に人型の柔らかい模擬体を置く。
押しのければ早い。迂回すれば時間がかかる。
群は止まって迂回路を探した。
「押しのけない」
《模擬体を保護対象として認識しています》
次に、障害物を無機物へ変えた。
今度は障害物を押しのけて進んだ。
次の試験では、無機物の向こうに小さな生物模擬信号を置いた。
群は無機物を大きく動かさず、細い隙間を作って通過した。
「自分と相手と目的を比べてる」
《はい》
「我々が一手ずつ指示してるわけじゃないのに」
《はい。与えられた目的と周囲の状態から、行動を選択しています》
研究チームでは「判断」という言葉を使う場面が増えた。
一方で「意志」という言葉を使うことはまだ避けた。
判断は観察できる。
意志はその存在を外から確認できないため定義の問題が残る。
「言葉一個で話がややこしくなる」
《そのため、定義を確認しています》
「MIRAらしい」
《ありがとうございます》
「褒めてない」
《承知しています》
晶は少し笑った。
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