第十九章 増えない
さらに3か月後。
M-cellが生物に近い振る舞いを増やすほど、研究所では一つの条件を繰り返し確認した。
自己複製を持たせないこと。
M-cellは自分の損傷を直せる。
ただし、失ったM-cellそのものを新しく作ることはできない。
外部から補充されたM-cellを群に取り込むことはできる。
「ここは変えません。自己複製はさせません」
晶は会議で言った。
法務担当者が確認した。
「将来も同じ方針ですか」
「少なくとも、この研究系統ではそうです」
《理由を記録します》
MIRAが会話に割り込んできた。
「制御できない増殖を避けるため。それと、増えることを生命らしさの条件にしたくない」
《記録しました》
自己複製がないため、群は失ったM-cellを取り戻せない。
その代わり、残った量に合わせて構造を変える。
M-cellの数が少し減れば、M-cellが自ら重要度の低い機能を止める。
M-cellの数が大きく減れば、M-cellが自ら活動範囲を狭める。
M-cellの数がわずかになれば、M-cellが自ら移動よりも記録の保持を優先する。
「自分で新しいM-cellを増やせない代わりに、失うM-cellの数を減らすよう、M-cell自身が工夫してる」
《その表現は適切です》
補充用の新しいM-cellは、人間とAIが管理する製造設備で作られた。
群は必要量を要求することはできるが、製造するかどうかは人間側の承認を経る。
この仕組みは、後になっても長く残った。
人工金属生物は自分で増えなかった。
だからこそ、M-cellは一つ一つを失わない工夫を積み重ねた。
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