第十八章 逃げる
さらに3か月後。
事故は予定していない時に起きた。
試験槽の温度制御系が故障し、一部の温度が急上昇した。
警報が鳴るより先に、M-cellが動いた。
銀色の群が熱源から離れ、冷却側の壁へ集まる。同時に、外縁部のM-cellが薄い断熱構造を作った。
「停止命令、まだ出してないよね?」
《停止命令はまだ送信していません》
「誰が避難経路を指定した?」
《誰も指定をしていません》
温度がさらに上がると群は二つに分かれた。
一つは冷却側へ移る。もう一つは試験槽のセンサー付近に残り、温度情報を送り続けた。
「全部逃げないんだ」
《監視機能の維持を優先した群が残っています》
数分後、実験設備の安全装置が作動した。
試験槽が冷え始めると、残っていた群も移動した。
損失は想定より少なかった。
報告会で、安全管理の担当者が言った。
「自己保全行動と書いて問題ありませんか」
MIRAが答えた。
《機能的な記述としては妥当です。ただし、主観的な恐怖や苦痛を意味しません》
晶が画面を見たまま言った。
「怖がった、とは書かない。でも、壊れる場所から離れたのは事実」
人工金属生物は、壊れることを避けるようになった。
その行動は、外部からの命令より先に始まっていた。
※毎日更新します。




