第十七章 覚える群
さらに3か月後。
M-cellへ長期記憶を持たせた時、最初に起きた変化は学習らしい派手なものではなかった。
同じ失敗を繰り返しにくくなった。
高温域で損傷した群は、次の試験で同じ場所へ近づく前に探索密度を上げた。
一度切断された場所では、再接続の経路を複数確保した。
「前の試験、覚えてるみたい」
《履歴情報を参照しています》
「言い方は違うけど、やってることは近いね」
記憶は一つのM-cellに保存しなかった。
群の複数箇所へ分散させた。
一部を失っても、残りから復元できる。
M-cell同士が履歴情報を共有するのは、物理的に接続して同じ群を構成している時だけだった。偶然触れただけでは共有されない。
群を二つに分けると、分割時点までの記憶は双方へ残る。
その後、別々の経験をする。
再び合流すると、両方の履歴が統合される。
研究所では、M-cell群に保存された履歴情報を、すべて、または指定した一部だけ消去することもできた。すべてを消去すれば、履歴だけを初期状態に戻せる。ただし、保存された経験の内容そのものを書き換えることはできない。
「同じところから分かれて、違う経験をして、また戻る」
《はい》
「戻った後は、分かれる前と同じ?」
《同一ではありません》
M-cellの数も基本設計も大きく変わっていない。
変わったのは経験だった。
その頃から「同じM-cell」という言い方が使いにくくなった。
個々のM-cellを指すなら同じ型と言える。
だが、群として見れば、経験によって違いが生まれていた。
人工金属生物という俗称は、形ではなく、その履歴まで含む言葉になり始めていた。
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