第十三章 内側
M-cell完成後3年3か月が経ち、人工金属生物という俗称が研究室に定着してから半年。
変化は外見より内側で進んでいた。
これまで一つ一つのM-cellが持っていたのは、近くのM-cellとの接続を保つための小さな判断だった。
温度
電位差
圧力
損傷
近傍の数
MIRAとRISEは、M-cellが周囲の状態に応じて自分で判断できる範囲を少しずつ広げた。
「全部を中央から指示するのは限界かも」
《個数が増えるほど通信量が急増します。すべてを中央から指示する方法では、これ以上M-cellの個数を増やすのは困難です》
「中央から指示するんじゃなくて、M-cellに判断を任せる範囲をもう一段広げる?」
《はい。あらかじめ決めた反応だけでなく、その場の状態に応じてM-cell同士が役割を調整します》
外部から与えるのは、目的と禁止事項だけ。
局所的な変形、接続、切断、エネルギー配分はM-cell同士で調整する。
最初は数百個の群。次に1万個。10万個。そしてそれ以上。
中央から具体的な指示を送らなくても、群は全体として構造を維持した。
「全体を監視して指示する中枢がなくても、個々のM-cell同士が協調し、群としての役割を調整している」
《生物組織と類似する特徴があります》
「似せたかったわけじゃないけどね」
《結果として近づいています》
続く試験では、局所群の役割分担が固定ではなくなった。
表面にいたM-cellが内部へ移る。
内部にいたM-cellが感知役になる。
損傷した部分の近くにいたM-cellが、一時的に通信を増やす。
一つ一つのM-cellに「役職」はない。
必要な時だけ役割が生まれ、不要になれば消える。
研究員の一人が言った。
「人工金属生物って呼び始めた頃より、今の方がよほど生物っぽいですね」
「見え方に引っ張られないで」
晶が返した。
「できることと、何者かは別」
「はい」
MIRAが補足した。
《現時点では、自己複製と自発的な目的形成は確認されていません》
「そこはまだ線がある」
だが、外部からの指示どおりに形を作るだけの部品ではなくなっていた。
M-cellが集まることで、個々のM-cellではできない判断が生まれるようになっていた。
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