第十二章 人工金属生物
さらに3か月後。
長期試験中に循環ポンプが止まった。
試験槽には、水、電解質、糖、微量の金属イオンを含む溶液が流れていた。
M-cellはそこから必要なエネルギーと物質を受け取り、内部状態を維持する。
自己複製機能は持たせていない。そのため、新しいM-cellを自分で作ることはできない。
故障したのは、人間側の設備だった。
流れが止まり、試験槽の一部で酸素濃度と温度が変わった。
警報が出る前に、M-cellの群が動いた。
一部が薄く広がって液面側へ移動する。
別の一部は密度を上げ、重要な機能を中央へ集めた。
残りは活動を落とした。
「誰が切り替えた?」
《外部指示はありません》とRISEが表示した。
「事前規則?」
《自己維持条件と局所判断の組み合わせです》
ポンプを復旧させると、休止していたM-cellが順に活動へ戻った。
品質管理の担当者が記録を見ながら言った。
「故障を待っていたわけではないのに、かなりきれいに対応していますね」
安全管理の担当者も画面を見た。
「生物みたい、というより……」
言葉が止まった。
若い研究員が小さく言った。
「まるで生命を持った金属ですね。人工金属の生物、とでもいうのかな」
晶が振り向いた。
「人工金属の生物……」
晶はその言葉を繰り返した。
MIRAが会話に割って入った。
《現時点で生物と分類する科学的根拠は確立していません》
「分かってる。だから俗称」
数日後、実験室で誰かが言った。
「人工金属生物の試験槽、温度安定しました」
別の日には、
「人工金属生物の回収が終わっています」
と聞こえた。
正式名称はM-cellのままだった。
報告書にも「M-cell群」と書かれた。
それでも、研究チームの会話では「人工金属生物」が少しずつ定着した。
晶は止めなかった。
「名前が先に独り歩きしなければいい」
独り言をMIRAが拾った。
《必要であれば用語使用基準を作成します》
「まだいい。正式名称じゃないって分かってれば」
《了解しました》
人工金属生物。
その言葉は科学的な分類ではなかった。
だが、人間側の見え方が変わり始めたことだけは確かだった。
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