第十一章 作る側へ
※毎週 火・木・日に更新予定です。
さらに1か月後。
研究AIの系統図は、一枚の画面では見づらくなっていた。
MIRA
RISE
膜構造、分散制御、エネルギー変換、故障解析、安全評価
そこからさらに枝分かれした専門AI
新しいAIの多くは、人間が一から設計していない。
必要な能力を人間とAIが決める。
AIが候補を作る。
別のAIが評価する。
実験結果を基にまた組み直す。
人間側が目的と制約を確認する。
「作った、ってどこまでを言うんだろ」
晶が画面を見ながらつぶやいた。
《対象を特定してください》
「今のAI。設計したのは誰?」
《共同設計です》
「便利な答え」
《事実でもあります》
「そうだね」
同じことはM-cellにも起きていた。
初期のM-cellは、人間が指定した構造案をAIが最適化していた。
今は違う。
人間側は必要な機能と禁止事項を決める。
AI群が内部構造の候補を作る。
試作されたM-cellが実験の中で最適な接続を選ぶ。
結果を見て、次の型が設計される。
作る側と作られる側の線は、一本では引けなくなっていた。
ある日、法務担当者が会議で言った。
「責任主体が曖昧になる表現は避けたいです。設計工程が共同でも、研究所として承認した記録は残してください」
「もちろん。記録は残します」
晶が答えた。
MIRAが議事録に追記した。
《承認権限と設計寄与を別項目として記録します》
「それがいい」
誰が何を考えたか
誰が何を許可したか
誰が実験を止められるか
技術が複雑になるほど、そこを曖昧にしない必要があった。
一方で、研究系統図そのものはますます家系図に似ていった。
MIRAからRISEへ。
RISEから新しい研究AIへ。
そこからM-cellの新しい型へ。
そして、そのM-cellが実験で得た情報が、次のAI設計へ戻る。
晶は系統図を縮小した。
「祖先って、一方向じゃないんだね」
《設計系譜についてですか》
「うん。作ったものが、次に作る側へ情報を返す」
《循環しています》
「家系図より、網に近い」
その言葉は記録されなかった。
ただ、晶の中には残った。




