裸の公爵様①
「ふっ……君が侍女だと?笑わせてくれる。」
「笑って欲しいなどお願いしていないですけどね。ピグミーさん、でしたか。あなた……私と何度かお会いしておりますよね?」
コレットは、ピグミーに声をかけた。
「……」
俯いているピグミーを騎士の一人が無理矢理顔を上げる。
「……っ。お、覚えていない。」
「まぁ……おかしいですわ。でしたら、こちらのお姫様はいかがですか?」
コレットはシルヴィアを前に引きずり出す。
「し、知らない。」
「まぁ、それはおかしいですわね。わたくし、あなたがたが一緒にいるところをつい最近見たばかりですのよ?」
「ファンラット国とエアデール帝国を繋ぐ関所前で……」
ピグミーの赤い瞳が揺れたが、コレットは気にも留めずそのまま話をすすめた。
「あなたと初めてお会いしたのはシルベリアン公爵邸で侍女が消え始めた頃でした。ちょうど、『笛の音』が聞こえる日は侍女がいなくなるという話が浸透してきた頃です。」
「……」
「その時、シバが居なくなったのです。」
「あれは……少し怖かったですね。ですが、今思えばあれもあなた方の演出だったのでしょう。」
「あれだけ広い屋敷です。わたくしが、夜な夜な誰にもバレずに外へ出ることも簡単でした。ということはですよ?」
コレットはズイっと顔を近付けた。
「逆に、忍び込むのも簡単だったはずなのです。シルヴィアさんはわたくしがいないことを知っていましたしね。わたくしがいない日に、忍び込んで侍女たちを運び込んだのでしたら、ふふっ……」
「……そんなことしていない!」
「全ての辻褄があってしまうのですわ。」
ピグミーの声とコレットの声が重なった。
コレットが口に手を当てて驚いたような仕草を見せると、リュシアンとアンソニーは肩を竦めた。
(あれは演技だな……)
(さすがだ……)
コレットは相手の表情をよく観察していた。
そのため、相手が嫌がることも、喜ぶことも、自分が何をすればいいのかも、全て知った上で動いている。
「これは……相手に勝ち目は無いな。」
リュシアンの声に、アンソニーは肯定するようにうなずいた。
「さてさて、お話を戻しましょう。えっと……どこまでお話したかしら……」
コレットは視線を上に向けて少し考えてから、ポンッと手を叩く。
「まぁ、いいでしょう。」
(面倒になったな……)
「とにかくですね……あなたとシルヴィアさんが親しい関係であることは知っているのです。ですが、わたくしだけでは証拠が足りないかと思いまして……こちらの方々をお呼びいたしました。」
その声と同時に、もう一度黒い花々が道を開けた。
すると――
そこには、あの日捕まっていた貴族令嬢たちが立っていた。
「これで……言い逃れは難しくなりましたわね?」
コレットは妖しげに微笑んだ。
「あの日、シルベリアン公爵様からお手紙が届きましたの。『妻がお茶会をしたいと言っている。ぜひ友人になってくれないか。』って。」
「わたくしもです。一度は断ろうかとも思ったのですが……その、シルベリアン公爵にはあまりいい噂がありませんでしたので……」
「そしたら、間を空けずに二通目が届きました。『もし、お茶会に参加しなければ今後お前たちの家がどうなるか……考えるだけで楽しいな』と……」
「わたくしの方には、『もしお茶会に参加すれば資金援助をしよう』と書かれておりました。」
「わたくしもです。」
調べていてわかったことだが、今回お茶会に参加していた貴族令嬢たちの家は、何かしら問題を抱えている家だった。
それと、爵位が低い家だ。
「なっ……私はそんなこと……」
「て、手紙を持ってきました!!」
アデラールの声を遮るように話す令嬢に、コレットはにこりと微笑むとゆっくり近づいていく。
これだけの大勢の前で、あの日あったことを話すのは辛かっただろう。
(寄り添ってくれる家族がいてよかったわ。)
「ありがとう。」
他の令嬢たちも手紙をコレットに渡した。
「ふふっ。シルベリアン公爵様。知っていますか?字にも人の個性があるのです。この手紙を書いた方はどんな個性をお持ちなのかしら。これから調べるのが楽しみですわね?」
「……私は、確かに彼女たちにお茶会に参加するよう手紙を書いた。だが、それだけだ。その後のことは何も知らん。」
「『何も知らん!』ですむと思っているのでしたらくそくらえですわ。あなたの行動は法律上もアウトのものばかりですもの。」
「行動……だと?ただ、私は手紙を書いただけだ。」
「その手紙の内容がアウトだと言っているのですわ。貴族だからといって、他家を脅していいという法律はありませんの!それが分からない時点であなたにこの国の国王になる資格は一切ございません。」
「だ、だが……」
「だがもへったくれもないのです。それとも……王族だからなんでもすむと?」
「残念ですわね。リュシアン王太子殿下の体調が悪いと思っていたようですが、あの通り――」
コレットがリュシアンを見ると、にこやかな笑みで手を振っている。
「ピンピンしておりますわ!」
「因みにこの手紙以外にもあるのですよ?」
コレットがそう言うと、会場の後方から一人の男が歩み出てきた。
「お久しぶりですね。シルベリアン公爵。」
そこには、偽金貨の時に話を聞かせてくれたパグール・ブルドルクが立っていた。
アデラールの顔から、先ほどまでの余裕が消えていく。
「パ、パグール……貴様!今更顔を出すなんていい度胸だな!」
「あら、彼のことは知っているのですね。」
パグールはコレットに近づくと、一枚の羊皮紙を差し出した。
それは貴族同士の契約で使われる、正式な書面だった。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「ありがとう。助かったわ。」
「こちらをご覧くださいませ。」
コレットは羊皮紙を高く掲げると、その内容を読み始めた。
そこには――
亜鉛鉱石の契約に関する内容が細かく書かれていた。
その契約書を見た瞬間、アデラールの瞳が揺れたのをコレットは見逃さなかった。
「ふふっ……因みにこちらにあった亜鉛鉱石と、偽金貨に使われていた成分が一致いたしましたわ。」
とどめとばかりに、コレットの鋭い一言がアデラールに突き刺さる。
「なっ……俺は何も関与していないぞ!」
「関与していない……?たしかに、あなた自身が直接手を下したわけではありませんものね。ですが……ジャッセル侯爵に名前を貸し、取引を全て任せている時点で、関与しているというのですわ。」
「賭博場にも沢山の偽金貨を流してくれましたでしょう?あれが外の国に流れていたかと思うと……ゾッとしますわ。」
「あぁ、ジャッセル侯爵でしたら……すでに塀の中ですので……もうお会いできることはございませんけどね?」
ジャッセル侯爵は、子供を誘拐・監禁していた罪で、数日前にアンソニーが騎士団を率いて捕らえていた。
その時にジャッセルが全てのことを話したらしい。
偽金貨、誘拐事件、ファンラット国のこと。
「あなたは……まんまとファンラット国に使われたんですわ。」
その言葉を聞いた瞬間――
アデラールは崩れ落ちた。
「だが、私は本当に……」
「知らなかった?まぁ、それならそれで問題ですわね。これほどの事件が領地で起きていることすら把握していなかったのですもの。領主としての監督責任を、果たしていたとは到底思えませんわ。」
コレットはアデラールに近づき、俯いた彼の顔を覗き込んだ。
赤い髪がはらりと落ちる。
その姿がまるで赤い血を被った幽霊のようにも見えた。
「寒気が……」
リュシアンはコレットを見て、自分の両腕をさすった。
「シルベリアン公爵。いえ、旦那様……知らなかったで済まないことが一つあるのです。あなたの奥様方はいったいどこへ消えたのでしょうか?」
「ほら、『既にこの世にはいないかもしれん』と仰っていましたでしょ?わたくしのこの耳できちんと聞いていたのですよ?」
コレットは髪を耳にかけると手で耳を覆った。




