お邪魔虫夫人、朝刊小説でも人気です。
「今日の朝刊小説読みました!?」
「えぇ、読みましたわ。侍女になってからのお話がますます面白くなってきましたわ。しかも題材探しのためにって言うのがまたいいですわよね。」
「それもそうですけど……本人を目の前にして、悪女とか言っていましたわ。むしろあの女が悪女だと思うのですけど……」
「わかるわぁ……貴族だからって毎日派手な格好している訳じゃないのよね。」
「そうそう……そんなの疲れちゃうもの。絶対無理よ~」
「貴族に夢見すぎよねぇぇ~」
***
――朝刊小説
『侍女として潜入しちゃいました。』
作者:お邪魔虫夫人
アリスの専属侍女となって数ヶ月が経った頃――
コレットはアリスのお気に入りの侍女として、彼女と行動を共にすることが増えていた。
新参者だから虐められるのではないかと危惧していたが、そんなことは一切ない。
それどころか他の侍女たちからは、
「あの女の世話をしてくれて助かるわ。」
「お陰で他の仕事が捗るもの。それにあの趣味の悪いドレス選びに付き合わなくていいし。」
「そうそう……可愛くもないのに可愛いって言うのも疲れてたしぃ~」
と、何故か喜ばれていた。
(まぁ、あんなわがままな人の近くに居たくないわよね……)
ことあるごとにヒステリックを起こし、クビだなんだと大騒ぎ。
(私も……作者としての仕事があるから付いているけど……それがなければ、直ぐに辞めたいところだわ。)
侍女となってすぐ、コレットは試しに短編小説を書いて出版社に突撃した。
タイトルは、『わがまま姫のお気に召すまま』だ。
もちろん、わがまま姫はアリスのことである。
わがまま姫に仕える侍女が、姫の言葉を容赦なくぶった切っていく物語で、意外にもその侍女のキャラクターが読者から人気となった。
それから、コレットは次々と色々な出版社に小説を持ち込んだ。
ちなみにわがまま姫の次は……傲慢王子だ。
そして、『お邪魔虫夫人』という名は、少しずつ読者の間で知られるようになっていった。
「さっ、今日もネタ探しよ。今日はどんな姿を見せてくれるのかしらねぇ~」
こうして今日も侍女アレットとなったコレットは、わがまま姫と傲慢王子を観察するのだった。
「ねぇ、結婚式は……白いドレスがいいと思うのだけどどう思う。」
「白いドレスが……アリスの白い肌が映えそうだな。初夜を迎えるのが今から楽しみだ。」
アデラールはアリスの腕をいやらしい手つきで撫でると、彼女は頬を赤くして微笑む。
「ふふっ……皆が見てるからやめてちょうだい。」
(私しかいないですけどね……)
他の侍女たちは紅茶などを部屋に運び終えると、そそくさと部屋を出ていった。
「アディ?そういえばぁ……今度の夜会はわたくしを連れていってくれるの?」
先ほどまで恥ずかしいと言ってきた割に、アリスはアデラールの膝の上に座ると、ぐったりと身体を預ける。
「あぁ、名前があるからアリスを連れて行けるぞ。」
「アリスと呼べないことは残念だが……君を見せびらかせると思うとそれだけで幸せだ。」
(名前ねぇ……。)
侍女になってわかったことがある。
アリスが外ではコレットと名乗っているということだ。
そう――シルベリアン公爵夫人、コレット・シルベリアンとして。
「わたくしも……アディと一緒にいられるだけで幸せよ。外で名前を呼んでもらえないのは少し寂しいけれど……その分、ここで沢山呼んでちょうだい。愛しているわアデラール。」
「あぁ、わかっている。アリス。私も愛している。」
二人は熱い抱擁を交わすと、そのまま顔を近付けた。
(あま……激甘ですわ……)
そして、アレットは顔に出さないよう無表情のまま二人のやり取りを一言一句逃さぬよう記憶していった。
(次のタイトルは夜会で決まりね……)
「アリスお嬢様。そろそろドレスを作成いたしませんと、夜会まで時間がございません。」
「そうね……アディ、わたくしのドレス姿……楽しみにしていてちょうだいね。」
「ああ、楽しみにしている。」
アデラールはアリスの額に口付けした。
アリスも満足したのか、そのまま立ち上がってアレットの所へ向かう。
「アレット。あなたも付いてきなさいね?もちろん地味な格好でよ?」
「もちろんでございます。奥様……わたくしはあくまで侍女ですので……」
アレットが微笑むと、アリスは満足したのか「それならいいのよ!」と一言だけ返した。
***
「この作者……誰かに似ているんだよな。」
「父上もですか?しかもアレットという名前……姉上にそっくりではありませんか……」
「……」
コレットが嫁いでから数ヶ月。
巷ではとある小説が一世を風靡していた。
初めは一冊の短編集から始まり……
生活や恋愛など全てが物語とは言えないほど現実的だと話題になったのだ。
それが今では、貴族御用達とも言える新聞。
朝刊小説に顔を出すまでになっている。
貴族夫人や令嬢たちで流行っていたものが、今では貴族で知らぬものはいないと言うほどにまでなっていた。
「まさかな……」
「そうですよね。そのまさか……」
マーティスとマリウスは小説から顔を上げると目を合わせた。
そして、パッと小説へと視線を戻す。
「い、いや……コレットならやりかねんぞ……」
「ですね……姉上のことです。暇だからとか何とか言ってなにかしでかしても……」
二人の顔はみるみるうちに真っ青になっていく。
そして、マーティスは近くにいた従者に急いで指示を出した。
「お、おい!お邪魔虫夫人が書いている小説を持ってこい!今すぐにだ!!」
「は、はい……」
ボルダコリー伯爵家の使用人たちはバタバタと走り始めた。
(そこまで気にしなくても大丈夫だとは思うが……)
「父上……もしかしてこの話は……」
「まだ分からん……だがあいつのことだ。何かしらやらかしてもおかしくはない。」
二人は深くため息を吐くと、コレットがいるであろうシルベリアン公爵領へと目を向けた。
こんにちは✨ゆずこしょうです!
この度は、お邪魔虫夫人をお読みいただきありがとうございます。
明日からは8:20、12:20、20:20の更新予定です。
よろしくお願いいたします。




