モテる秘訣。
「先週の朝刊小説……ハラハラドキドキしましたわね。」
「わかりますわ。大富豪……子供の頃によくやりましたよね。」
「えぇ、お話を読んでいたらわたくしも久しぶりに大富豪をやりたくなりまして……子供たちとはしゃいでしまいました。」
「まぁ、それは楽しそうですわね!わたくしも……久しぶりに子供たちとやってみようかしら。」
「子供たちが成長するにつれて話す機会も無くなりますし……いいきっかけになりますわよ。それに、最近は色々なデザインのトランプが出ていまして……」
一人の貴婦人がいくつかトランプを取り出す。
動物の柄、花柄、景色。様々な柄に貴婦人たちは目を奪われた。
「まぁ、可愛いですわね!もしよければどちらに売っているか教えてくださらない?それと……大富豪のルールを教えていただけると嬉しいのですけれど……」
「もしよろしければここで大富豪しませんか?それと、こちらのトランプはボルダコリー伯爵家が運営しているシアン・ドゥ・ベルジェで買えますので是非。」
「まぁ、シアン・ドゥ・ベルジェですのね。わたくしあそこの商品のファンですの。とてもいい品が揃っておりますわよね。アロエ化粧品を使い始めてから肌の調子が良くなりましたの。」
「わかりますわ。わたくしも化粧品はシアン・ドゥ・ベルジェと決めていますもの。それ以外の商品もいいものが揃っていますわよね。」
朝刊小説の話から話題はそれていく貴婦人たちだったが……
時間が経つとすぐに話題は戻り、お邪魔虫夫人の話が続いていく。
「そういえば、次回は新たなお家に侍女としていかれるようですわね。」
「ラッセル侯爵領でしたわよね。ネズミの国とすぐ隣の……次は何が起きるのでしょうか。」
「何も起きなければ……と思いますけれど、何も起きないのは、お邪魔虫夫人の小説では有り得ませんわね。」
「そうですわね。そろそろお話も佳境……という感じでしょうか。益々目が離せませんわ。」
「出来ればずっと続いて欲しいところですけれど……我が家では朝刊一冊では足りず、五冊取っておりますの。一人一冊という感じになっていますわ」
「わかりますわ。我が家もそうなっておりますもの。だからこそ続いて欲しいのですけれど、そろそろハスキーには痛い目見てほしいところですわよね。」
「「「そうですわねぇ~!」」」
こうして今日も貴婦人たちの話は日が落ち始めるまで続くのだった。
***
ボルダコリー伯爵邸――
バタバタ
「マリウス!!」
「なんだ……またお前か。セド……」
マリウスの前にはセドリックが顔を出していた。
(こいつ……暇なのか?)
留学から帰ってきてからというもの、毎日のように来ているセドリック。
王都にある屋敷は隣同士ということもあって近いは近いが……
毎日現れるセドリックにため息しか出てこない。
「そんなことより、これを読んでくれ!!」
セドリックはマリウスの仕事道具の上にバサッと朝刊を広げた。
「お前、俺の仕事を邪魔しに来たなら帰れ。」
マリウスも『お邪魔虫夫人』の小説は欠かさず読んでいるため、朝刊を広げられなくても今日までの内容は全て頭の中に入っていた。
「邪魔はしていない。」
「いや、これのどこがしてないんだよ。」
マリウスは朝刊をトントンと指で叩きながら鋭い視線でセドリックを見た。
「いや、だが……」
セドリックはマリウスから視線を逸らし、肩を落とした。
その姿はまるで、捨てられた子犬のようだ。
(この顔をすればなんでも許されると思ってるんだよな……)
「だが……なんだ?今日はやらなくてはならないことが多いんだ。もし話があるなら、パド兄に聞いてもらえ。」
マリウスは朝刊を綺麗に折り畳むと、セドリックの胸に押し付けた。
「姉上を心配してくれたんだろうが、大丈夫だから。」
コレットが王城で勤めるようになってから、頻繁に手紙が届いていた。
内容は近況報告か、商品を思いついたという連絡のみ。
本当に小説を書いているのか?というくらいシンプルなものばかりだが、それでも何も連絡がないよりはマシかと思っていたほどである。
(いつも急に言うから困るんだよな……)
だが、マリウスはそんな姉を尊敬していた。
(まぁ、そのお陰で助かっているのも事実だが……)
発想力の天才とは、きっと姉のような人間を言うのだろう。
「大丈夫ってどういうことだ……?」
セドリックは首を傾げる。
(パド兄は何も話していないのか……?いや、面倒で話していないだけか……)
小説を見る限り、ジャッセル侯爵領に行くのは間違いないだろう。
(これは……言っていいのか……いや、下手に言ったら突撃しかねないな……)
「ほ、ほら、この間のことを思い出してみろ。姉上は一人できちんと脱出しただろ?」
「確かに……そうだな……せっかく俺が助けて、コレットを娶る予定だったんだが……」
「いや、あれでも一応旦那いるからな。」
「コレットの旦那を殺せば万事解決だ!」
(なんで、そうなる……)
マリウスは首を横に振った。
「まぁ、とにかく大丈夫だ。お前はお前の仕事をしろ。パド兄から何か言われているんじゃないか?」
「『静かにしていろ……お前はステイだ…』とだけ……」
セドリックは更に肩を落とす。
「そ、そうか……だったら、騎士団の入団試験を受けてみたらどうだ?お前なら王族直属も夢じゃないだろ?」
「だが……五年も待っていてくれるだろうか。」
(そんなに好きなのか……?)
「なんで、姉上がいいんだ?こう言ってはなんだが、お前なら選び放題だろう。別に姉上にこだわらなくても……」
今まで視線を落としていたセドリックの目がマリウスを捉える。
「コレットは俺のことを好きだと言ってくれた。」
(姉上がそんなこと言うか……)
マリウスはセドリックが留学する前のことを思い返す。
『セドリック。私、あなたのこと好きよ。とても従順なわんちゃんみたいだもの。あなたと結婚する女の子は幸せね。』
『セドリック。あなた、そこで素振りしてなさい。百回……いえ、千回できたらモテるわよ。』
『セドリック、『待て』よ?私がいいって言うまで動かないでちょうだい。動かなければ頭を撫でてあげるわ。』
『セドリック。一緒に買い物行きましょ?男は女性の買い物に付き合ってこそ、花開くのよ。』
しかし――
思い返す内容に『好意的になる要素』はひとつも入ってなかった。
「それに俺に男とはどんなものなのかを教えてくれたんだ。」
「そ、そうか……」
読書している時や、事業で忙しい時にセドリックが来ることが多かったから、邪魔にならないようにしていたのだろう。
(何かに打ち込んでいれば静かだからな……)
「五年は長いかもしれんが……騎士になったら姉上も……振り向いてくれるかもしれんぞ?」
(可能性は低いが……)
この間の爆破事件のことだって、姉上が知ったら怒るだろう。
あれのお陰で救えたはずの人たちが姿を消したのだから……
「それに、何かあれば騎士団として助けに行くこともできるだろう。そんなお前を見て姉上はどう思うかな。」
セドリックは目を閉じると頬を赤らめた。
(想像通りにはいかないと思うがな……)
「きっとパド兄も喜ぶぞ。もちろん俺もだ。」
「本当か!?」
セドリックの顔がパッと輝いた。
「あぁーお前の乳母兄弟として、弟が王族直属騎士団に入ったら鼻が高いってもんだ。」
「そうか……なら騎士団の試験受けてくる。コレットにも立派な騎士になったら迎えに行くと伝えてくれ!」
セドリックはそれだけ言うとバタバタと走り去っていった。
マリウスはその背中を見てため息を吐いた。
「やっと静かになった……さて、仕事するか……」
その頃コレットは――
「本日からこちらでお世話になります。スカーレットと申します。」
ジャッセル侯爵領にあるお屋敷で、挨拶をしていた。
肩までのウェーブがかった栗色の髪。
切れ長の目は、化粧でパッチリ二重に変わり、唇はぷるんとした厚みがある。
「よろしくお願いしますっ!」
コレットはにっこり笑うと元気よく頭を下げた。
誰一人、その侍女がコレット・ボルダコリーだとは思いもしない。




