私の仕事は侍女ですので。
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塔の上のラフコリー
作者:お邪魔虫夫人
もう逃げきれないと思った私は、塔の上から飛び降りることに決めた。
白馬の王子様?
そんなの信じない。だって私の相棒は、この白いシーツだもの。
私は意を決して塔の上から飛び降りると、待っていたのはまさかのあいつだった……
「ゴールデン様……?」
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王都サロン――
貴婦人たちは朝刊小説を読み終えると、ほっと息を吐いてから紅茶に手をつけた。
「やっぱりお邪魔虫夫人の作品はこうでなくてはなりませんわね。」
「白馬の王子様……? まさかのシーツが相棒にも笑ってしまいましたけれど……」
「まさか待っていたのがゴールデン様だなんて……」
「シェアパード様はどこへ行かれたのかしら……」
「分かりますわぁ……あと地下で何が起きていたのかも気になりますわよね……」
「そうそう……ここだけの話なんですけれど……」
貴婦人の一人が、扇子を広げると顔をテーブルの中央に近づける。
それに合わせて、他の婦人たちも耳を近づけた。
「この貴族街にも隠れた建物があったらしいのです。」
「わたくしも聞きましたわ……ドンドンッと外が騒がしかった日に見つかったそうですわね……」
「ちょっと見に行ってみたいと思っていますの。良かったら皆さんもご一緒にいかがです?」
「「「まぁ、それはいいですわね!」」」
貴婦人たちの声が重なった。
「では……一週間後に……この場所で……」
そう告げると、一人の貴婦人は小さく口元を緩め、誰よりも先に席を立った。
***
「コレット! お前、無事だったのか!?」
「お父様……」
コレットはアンソニーに付き添われ、ボルダコリー伯爵邸へ戻ってきていた。
「『無事だったのか?』と言う割に、また色々やらかしてくれたそうじゃありませんか。」
「なっ……」
マーティスは目を瞬いた。
「知らないとでも思っておりましたか? まぁ、まさかハスキーと取引するなんてバカな真似はしないと信じていたんですがね……」
コレットはつり目がちな目を緩め、口元に笑みを浮かべた。
「おかげで、わたくしの小説がさらに面白くなったではありませんか。たまにはお父様も役に立つんですのね。」
「そ、そんなに褒められてもなぁ……」
マーティスは頬を赤らめながら、ポリポリと頭を掻くと――
「全く褒めておりませんわ。本当に調子がいいですわね。」
「ぶふっ」
アンソニーは二人のやり取りを見て、思わず肩を震わせた。
二人の視線がアンソニーに突き刺さる。
「す、すまない……気にしないでくれ。」
アンソニーは口元を押さえ、必死に笑いを堪えた。
「では、お父様はあちらに行っていてくださいませ。」
「そ、そんな!? 私は仲間に入れてくれないのか?」
なぜ仲間にしてもらえると思ったのか……
コレットは目を見開くと、大きく頷く。
「むしろ、仲間に入れてもらえると思ったのでしたら大違いですわ。お父様が今まで何をしてきたか、胸に手を当ててよーく考えてみてくださいませ。」
「うっ……」
どうやら何も言い返すことができないらしい……
マーティスはちらりちらりと名残惜しそうに振り返りながら、応接室を後にした。
(あれはあれで可哀想だな……)
アンソニーは部屋から出ていくマーティスを見て、やれやれと首を横に振った。
それからしばらくして――
パドリックとマリウスが応接室へと入ってきた。
「姉上。」
「コレット。」
二人の声が重なった。
「マリウスもパドリックも久しぶりね。ニコレットは元気かしら?」
「あぁ、久しぶりだな。ニコレットも会いたがってたよ。『お邪魔虫夫人のサインを貰わなきゃ~』って騒いでたぞ。」
「まぁ、それは嬉しいわ。今度、ニコレットにお願いしたいことがあるのよ。パドリックから伝えてくれる?」
コレットは口元で両手を重ねると微笑んだ。
(あの顔……また面倒なことにならなきゃいいが……)
コレットと出会って数か月だが、アンソニーにとっては数か月が数年にも感じるほど濃厚な時間だった。
そのおかげで、コレットの笑顔の違いは何となく分かっている。
もちろん、幼い頃からコレットを知るパドリックが、その笑顔に気づかないはずもない。
パドリックは苦笑しながら肩をすくめた。
「はぁ……頼むから面倒なことには巻き込むなよ?」
「分かっているわ。ただ、一週間後に貴族のご令嬢やご婦人を集めてほしいのよ。」
「……どこにだ?」
「それはまた近くなったら話すわ。」
「分かった……」
コレットは「ありがとう」と短く返すと、マリウスの方に向き直る。
「マリウスにもお願いがあるのだけど……」
「面倒なことでなければ……」
「ん~……そこまで面倒ではないはずよ……」
マリウスは眉を顰めた。
「それは……絶対面倒なことですね……」
「大丈夫、大丈夫。ほら、最近お父様がハスキーから譲り受けた屋敷があるでしょ? あそこを使えるようにしてほしいのよ。せっかくだから、お邪魔虫夫人のサイン会をしようと思うの。」
「「「サイン会!?」」」
コレット以外の声が綺麗に重なった。
「あら、パドリック……まだいたのね……バレちゃったじゃない。」
「いや、お前……あそこに人が住んでいるのは知ってるだろ? どうするんだよ……」
「そこはマリウスがなんとかしてくれるでしょ?」
「いや……なんとかって……そう簡単ではないかと……」
マリウスの声がどんどん小さくなっていく……
(無茶振りにも程があるな……)
アンソニーはマリウスに思わず哀れみの目を向ける。
「確かに……相手は公爵だものね。だったらアンソニーも連れてくといいわ。きっと役に立つはずよ?」
「は? おい、ちょっ……」
アンソニーはうなずく前にグイッと背を押された。
「期間は一週間よ? じゃあ、お願いね……」
それだけ言うと、コレットは応接室の扉に向かって歩き出した。
「いや、お前は何するんだよ。」
「私は……」
そしてドアノブに手をかけて振り返ると、無邪気な笑みで微笑んだ。
「もちろん……侍女に戻るわ!」
たった一言告げると、コレットはそのまま屋敷を後にした。
その一方で――
セドリックは屋敷で大暴れするだけして、シェアパード公爵邸へと戻ってきた。
神のいたずらか――
セドリックがコレットに会うことはなかった。
「コレットー!! 待っててくれー! 俺が必ず助けてやるからなぁあ~!!」
――そして、あっという間に一週間が経ち、サイン会当日を迎えることになる。




