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侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
シルベリアンの笛吹き人。後編

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38/58

私の仕事は侍女ですので。

―――――


塔の上のラフコリー


作者:お邪魔虫夫人


もう逃げきれないと思った私は、塔の上から飛び降りることに決めた。


白馬の王子様?


そんなの信じない。だって私の相棒は、この白いシーツだもの。


私は意を決して塔の上から飛び降りると、待っていたのはまさかのあいつだった……


「ゴールデン様……?」


―――――


王都サロン――


貴婦人たちは朝刊小説を読み終えると、ほっと息を吐いてから紅茶に手をつけた。


「やっぱりお邪魔虫夫人の作品はこうでなくてはなりませんわね。」


「白馬の王子様……? まさかのシーツが相棒にも笑ってしまいましたけれど……」


「まさか待っていたのがゴールデン様だなんて……」


「シェアパード様はどこへ行かれたのかしら……」


「分かりますわぁ……あと地下で何が起きていたのかも気になりますわよね……」


「そうそう……ここだけの話なんですけれど……」


貴婦人の一人が、扇子を広げると顔をテーブルの中央に近づける。


それに合わせて、他の婦人たちも耳を近づけた。


「この貴族街にも隠れた建物があったらしいのです。」


「わたくしも聞きましたわ……ドンドンッと外が騒がしかった日に見つかったそうですわね……」


「ちょっと見に行ってみたいと思っていますの。良かったら皆さんもご一緒にいかがです?」


「「「まぁ、それはいいですわね!」」」


貴婦人たちの声が重なった。


「では……一週間後に……この場所で……」


そう告げると、一人の貴婦人は小さく口元を緩め、誰よりも先に席を立った。


***


「コレット! お前、無事だったのか!?」


「お父様……」


コレットはアンソニーに付き添われ、ボルダコリー伯爵邸へ戻ってきていた。


「『無事だったのか?』と言う割に、また色々やらかしてくれたそうじゃありませんか。」


「なっ……」


マーティスは目を瞬いた。


「知らないとでも思っておりましたか? まぁ、まさかハスキーと取引するなんてバカな真似はしないと信じていたんですがね……」


コレットはつり目がちな目を緩め、口元に笑みを浮かべた。


「おかげで、わたくしの小説がさらに面白くなったではありませんか。たまにはお父様も役に立つんですのね。」


「そ、そんなに褒められてもなぁ……」


マーティスは頬を赤らめながら、ポリポリと頭を掻くと――


「全く褒めておりませんわ。本当に調子がいいですわね。」


「ぶふっ」


アンソニーは二人のやり取りを見て、思わず肩を震わせた。


二人の視線がアンソニーに突き刺さる。


「す、すまない……気にしないでくれ。」


アンソニーは口元を押さえ、必死に笑いを堪えた。


「では、お父様はあちらに行っていてくださいませ。」


「そ、そんな!? 私は仲間に入れてくれないのか?」


なぜ仲間にしてもらえると思ったのか……


コレットは目を見開くと、大きく頷く。


「むしろ、仲間に入れてもらえると思ったのでしたら大違いですわ。お父様が今まで何をしてきたか、胸に手を当ててよーく考えてみてくださいませ。」


「うっ……」


どうやら何も言い返すことができないらしい……


マーティスはちらりちらりと名残惜しそうに振り返りながら、応接室を後にした。


(あれはあれで可哀想だな……)


アンソニーは部屋から出ていくマーティスを見て、やれやれと首を横に振った。


それからしばらくして――


パドリックとマリウスが応接室へと入ってきた。


「姉上。」


「コレット。」


二人の声が重なった。


「マリウスもパドリックも久しぶりね。ニコレットは元気かしら?」


「あぁ、久しぶりだな。ニコレットも会いたがってたよ。『お邪魔虫夫人のサインを貰わなきゃ~』って騒いでたぞ。」


「まぁ、それは嬉しいわ。今度、ニコレットにお願いしたいことがあるのよ。パドリックから伝えてくれる?」


コレットは口元で両手を重ねると微笑んだ。


(あの顔……また面倒なことにならなきゃいいが……)


コレットと出会って数か月だが、アンソニーにとっては数か月が数年にも感じるほど濃厚な時間だった。


そのおかげで、コレットの笑顔の違いは何となく分かっている。


もちろん、幼い頃からコレットを知るパドリックが、その笑顔に気づかないはずもない。


パドリックは苦笑しながら肩をすくめた。


「はぁ……頼むから面倒なことには巻き込むなよ?」


「分かっているわ。ただ、一週間後に貴族のご令嬢やご婦人を集めてほしいのよ。」


「……どこにだ?」


「それはまた近くなったら話すわ。」


「分かった……」


コレットは「ありがとう」と短く返すと、マリウスの方に向き直る。


「マリウスにもお願いがあるのだけど……」


「面倒なことでなければ……」


「ん~……そこまで面倒ではないはずよ……」


マリウスは眉を顰めた。


「それは……絶対面倒なことですね……」


「大丈夫、大丈夫。ほら、最近お父様がハスキーから譲り受けた屋敷があるでしょ? あそこを使えるようにしてほしいのよ。せっかくだから、お邪魔虫夫人のサイン会をしようと思うの。」


「「「サイン会!?」」」


コレット以外の声が綺麗に重なった。


「あら、パドリック……まだいたのね……バレちゃったじゃない。」


「いや、お前……あそこに人が住んでいるのは知ってるだろ? どうするんだよ……」


「そこはマリウスがなんとかしてくれるでしょ?」


「いや……なんとかって……そう簡単ではないかと……」


マリウスの声がどんどん小さくなっていく……


(無茶振りにも程があるな……)


アンソニーはマリウスに思わず哀れみの目を向ける。


「確かに……相手は公爵だものね。だったらアンソニーも連れてくといいわ。きっと役に立つはずよ?」


「は? おい、ちょっ……」


アンソニーはうなずく前にグイッと背を押された。


「期間は一週間よ? じゃあ、お願いね……」


それだけ言うと、コレットは応接室の扉に向かって歩き出した。


「いや、お前は何するんだよ。」


「私は……」


そしてドアノブに手をかけて振り返ると、無邪気な笑みで微笑んだ。


「もちろん……侍女に戻るわ!」


たった一言告げると、コレットはそのまま屋敷を後にした。


その一方で――


セドリックは屋敷で大暴れするだけして、シェアパード公爵邸へと戻ってきた。


神のいたずらか――


セドリックがコレットに会うことはなかった。


「コレットー!! 待っててくれー! 俺が必ず助けてやるからなぁあ~!!」


――そして、あっという間に一週間が経ち、サイン会当日を迎えることになる。

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