白馬の王子様ならぬ白いシーツ。
「どこに行った!」
バタバタ
「いたぞ~!!こっちだ!」
ドンッ! ドンッ!
屋敷中に怒号と爆発音が響き渡る。
(本当にしつこいわね~……)
地下から脱出したコレットは、出口を探して屋敷内を駆けていた。
外を見れば至る所で煙が上がり、庭にも男たちが集まっている。
(これじゃあ……外に逃げるわけにはいけないわね。)
コレットは履いていたヒールの靴を脱ぎ捨てると、ドレスの裾を摘んで走り続ける。
(ドレスなんて着るもんじゃないわね。)
「いたぞ!」
「こっちだ!」
コレットは息を切らしながら、屋敷の中を駆け抜けた。
背後から近づいてくるのは、一人や二人ではない。
ドンッ! ドンッ!
「きゃああああ!!」
「くそっ……また爆発だ。」
「なんでこんな所で爆発が!」
「この国に爆発物はなかったはずだぞ!」
爆発音が響くたびに窓ガラスが震え、侍女や従者の悲鳴まで聞こえてくる。
(さっきから一体誰よ。あんな危ないことしてるの!)
コレットは外から響く爆発音を聞きながら、ひたすら長い廊下を走り続ける。
道なりに行き、角を曲がると――
「やだ、行き止まりじゃない!」
まさかの行き止まりだった……
「ふっ、ついに追い詰めたぞ!」
「はぁ、はぁ……もう逃げられないからな。」
(小物感溢れるセリフね……これはネタになるかしら……)
コレットは追い詰められているはずなのに、全く違うことを考えていた。
背中に壁、目の前には男が数人……
(とりあえず、この場をどうにかしなきゃいけないわね。)
その時、不意に頬をひんやりとした風が撫でた。
(……風?)
ふと、風を感じる方へ視線を送る。
(扉……でもあるのかしら。)
貴族の屋敷内には何かあった時のために、隠し扉が設置されていることもある。
見た目は壁にしか見えないが……
(角を曲がって行き止まりっていうのも変な話よね……)
コレットは男たちに悟られないよう、わずかに身体をずらすと、後ろ手で風の吹いてくる壁を探った。
ガラガラ……
その瞬間――
扉が開き、コレットは勢い余って後ろへ倒れ込んだ。
「うわっ……」
(ここは、いつもの螺旋階段……)
そこは、数週間コレットが過ごしていた塔の下だった。
「消えた!?」
「いや、ここに隠し扉があるんじゃないか……?」
「ここは塔の下だ!外から回って入り口を塞げ!」
扉の向こうで話し声と足音が聞こえる。
(上に行くしかないか……)
コレットは螺旋階段を駆け上がり、最上階の部屋へ飛び込むと、息を整える間もなく周囲を見回した。
「何か扉を押さえるものはないかしら……」
コレットは歯を食いしばりながら机を引きずり、扉の前へ置いた。
そして、さらに机が動かないようにベッドをずらす。
「ふぅ……これで少しは持つでしょ。」
額の汗を拭いながら、息を整える。
ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!
「出てこい!そこにいるのだろう?もう逃げ道はないぞ!」
「ハハハ、残念だったな。早く出てこい!」
ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!!
扉を叩く音が激しくなる中、コレットはここからどうやって逃げるかを必死に考えていた。
窓の外は断崖絶壁……
森の中……
部屋にあるのは、机、椅子、ベッド、窓……それにシーツ……
その瞬間――
コレットの脳内に、とある動物が浮かび上がった。
「ムササビは……飛ぶ時に手足を広げて飛んでいたわね……だったら……」
コレットは近くにあったシーツを取り出すと、手足に結びつけた。
(無茶なのは分かってる。でも、このまま捕まるくらいなら、賭けてみるしかないわ!)
そして、窓枠へ飛び乗ると――
「女は度胸!!」
ピョンと外へ向かって身を投げた。
ドンッ! ドンッ!!
バゴンッ!!
「開いたぞー!!」
追ってきた男たちが扉を壊す頃には――
そこは既にもぬけの殻だった。
「……いない……」
***
同じ頃――
パドリックたちと別れたアンソニーは、樹海『アルカ・ファウナ』へと足を踏み入れていた。
崖伝いに、前へと進む。
「確か、この辺りだったよな。」
カァーカァー
ガサガサッ……
木々が生い茂っているからか、昼間だというのにやけに暗い……
隙間から陽の光がキラキラと入り込んではいるものの……それ以上に不気味さの方が勝っていた。
アンソニーは落ちてきた手紙の辺りまで戻ってくると、ふと崖の上へ目を向けた。
その時――
「うわぁぁぁ~!!」
叫び声と一緒に、空から何かが落ちてくるのが見えた。
「なんだ……動物……?いや、人……か?」
「止めて、止めてぇぇ~!!」
「あの声は……」
ガサガサッ……
アンソニーは森の奥へ飛び込んでいった影を急いで追いかけた。
「いたたたた……」
(やはり……)
森の奥から聞こえてくる声は、トニーの店に来るあの声と瓜二つだった。
アンソニーは生い茂った草木を掻き分けながら前へ進む。
そこにいたのは――
木の枝にシーツを絡ませたまま、コレットがぶら下がっていた。
「コレット……か?」
「あら、その声はトニー……?」
あまりにも落ち着いたコレットの声に、アンソニーは思わずため息を漏らした。
(危機感はないのか……?)
しかし、アンソニーの気持ちなど知らないコレットは、いつもの調子で話を続けた。
「シーツが絡まっちゃって、降りられないのよ。」
「見ればわかる……」
「だったら、早く降ろしてくれないかしら……」
アンソニーはコレットに近づくと、両手足についたシーツの結び目を綺麗に解いた。
「ねぇ、トニー。こういう時は『コレット、君が無事でよかった。生きた心地がしなかった』って言うべきじゃないかしら。」
「……それだけの軽口が叩ければ大丈夫だな。それより、お前には聞きたいことが山ほどある。さっさとここを出るぞ。」
アンソニーは木の上からコレットを降ろすと、コレットの手を握ったまま森の出口へ向かって歩き出した。
「聞きたいこと?って、この騒ぎと何か関係あるの?」
「……それは戻って見ればわかるだろ。」
アンソニーはそれ以上のことを語ろうとはしなかった。
一方、その頃――
「コレットを返せぇぇぇ!!」
コレットが無事脱出したことを知らないセドリックは、屋敷の周りで大暴れしていた。
「コレットなんて人、この家にはおられません!」
「そうです!なにかの勘違いです。お引き取りください。」
従者が出てきてセドリックを止めようとするが、怒り狂ったセドリックを止めることができる者は誰一人としていなかった。




