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侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
シルベリアンの笛吹き人。後編

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35/60

爆弾片手に愛を叫ぶ男と逃げる女。

ピチャン、ピチャン――


外が騒がしい中、コレットは『行くな』と言われた扉の前へと来ていた。


カサカサ、カサカサ


「誰かいるの!?」


チュチュ、チュチュ


カサカサと音が聞こえる方へ視線を向ければ、赤い瞳をした小さな生き物が小さな穴へと入っていく。


「なんだ……鼠かぁ~……」


コレットはほっと息を吐くと、古びた鉄扉の前に立った。


そして、黒い輪のようなドアノブを持つと、勢いよく引っ張る。


すると――


ギィー


重い扉がゆっくりと動き出した。


(鍵が閉まっていないの……?)


ムワッと甘く湿った空気が押し寄せた。花の香りに混じって、人肌の熱が残るような匂いが鼻をつく。


コレットは近くにあったロウソクを手に取ると、そのままゆっくり中へと進んだ。


「うっ……うっ……」


「ママ……助けて……」


「怖いよ……」


(これは……酷いわね……)


中に入ってみれば、一人ひとりが檻の中に閉じ込められている。


女性は裸で、鞭のようなもので打たれた跡があり、鬱血痕が身体中に広がっていた。


子供たちは、これといって大きな外傷は無さそうだが、痩せ細り、食事をきちんと与えられていないのが見て取れる。


それはまるで売り物にでもしようとしているような、家畜のような扱いに等しかった。


(よくもまぁ……今まで隠せてこれたこと……)


コレットはギュッと強く手を握る。


「絶対助けるから……待ってなさい。」


普段から正義感が強いわけでもない。どちらかといえば自由にのんびり暮らせればいい。


今の作家としての仕事をしながら――


だが、この状況を見て、そんなことを言える者は誰一人としていないだろう。


コレットがゆっくり中へ進んでいくと、大人が数人は入れそうな大きな檻の中に吊るされた女性に目が止まった。


「シ……バ……?」


鎖に吊るされた女性の肩がわずかに震える。


そこにいたのは、寮で同室だったシバ本人だった。


「……ん……うっ……ア、レット……?」


シバに声が届いたのか、シバはコレットを見るとニコリと微笑む。


「良かった。あなた、は無事、だったのね……」


その言葉に、コレットの目にうっすらと涙が浮かんだ。


「シバ……ここは……一体……」


シバは意識を保つのが精一杯なのか、途切れ途切れに話し出した。


「連れて来られた男たちは、奥で何かを作らされているみたい。私たちは売られるみたいで……反抗してたら、こうなってしまったわ。」


(何を作らせようとしているのか……気になるわね。)


コレットは少し考えてから、シバへ視線を戻した。


「そう……必ず助けるから、もう少し耐えられる?」


シバは安心したのか、「……うん」と小さく返事をすると、そのまま静かに眠りについた。


「……スゥ……スゥ……」


(良かったわ……)


眠るだけで少しは体力が温存できるだろう。


コレットは先ほどより少し穏やかになったシバの顔を見て、ホッと息を吐いた。


それからさらに奥へ進むと――


もう一つ、先ほどよりもさらに厳重な扉が見えた。


ガチャガチャ


(ここは開かないのね……)


どうやら鍵がかかっているらしい。


コレットは何か鍵を壊せるものがないか、後ろを振り返った瞬間――


「アレット姫。なぜここにいらっしゃるんですかな?」


そこには顔を歪めた白髪の男が、鎖の付いた腕輪と首輪を持って立っていた。


(これは……ピンチってやつ?)


コレットの背に嫌な汗がたらりと流れる。


「爆発音がしたから、怖くなって……ここで止まるのを待っていたの。」


何とかやり過ごそうとアレット姫として微笑むが、男はただ睨みつけるだけだった。


「……もういいですよ。そういうお芝居は……あなたが本当のアレット姫でないことはわかっておりますから。」


男はギリギリと拳を握りしめる。


「よくもまぁ……今まで騙してくれたな。」


(勝手に騙されたのはそっちでしょ?)


鼻息を荒くしながらズカズカと近づいてくる男を、コレットはひらりとかわすと、一目散に扉へ向かって走り出した。


「つ、つ、捕まえろおおお~!!」


男の怒号が地下室に響く。


バタバタバタ――


そして、その声に呼応するように、どこからともなく現れた男たちがコレットに向かって走り出した。


(これは……結構ヤバいかも……?)


コレットは、背後から迫り来る足音を聞きながら、必死に地下通路を駆け抜けた。


その頃、シェアパード邸では――


バタバタバタ


「セドリック様ああああ!」


「セドー!」


「セドリックー!」


屋敷中の者たちがセドリックを探していた。


「どこにもいらっしゃいません。」


「馬もないようです。」


「やはりか……俺たちもすぐに向かうぞ!」


セドリックを追いかけるために準備が進められていた。


「パドリック、俺は別ルートから行かせてもらう。」


「わかった。マリウスはどうする?」


「セドリックを追います。パド兄は……」


「シルベリアン公爵邸へ向かおう。」


それぞれ行き先が決まると、そのまま目的地へ向けて出発した。


***


(コレットが見つかった……コレットが……)


パドリックたちが準備していることを知らないセドリックは、一人で馬を走らせていた。


(役に立つことはないと思っていたが……作り方を学んでおいて正解だったな……)


セドリックの腰には丸い玉のようなものがいくつもぶら下がっている。


応接室の外で偶然耳にしたコレットの情報が頭をよぎる。


『貴族街の端にあるらしいが、父が見に行った時、屋敷はなかったらしい。』


「見えない所にある屋敷か……」


セドリックは馬を走らせながらボソリと呟いた。


地図にも載らない場所……


「どこに隠れていても関係ない。」


「見えないなら、隠しているものを壊してしまえばいい。」


セドリックは丸い玉を確かめるように握った。


「待っていてくれ、コレット。」


セドリックは丸い玉に火をつけると、道を探すために丸い玉を投げた。


ドンッ! ドンッ!!


「俺が必ず助け出してみせる!」


セドリックが貴族街で爆発騒ぎを起こしたせいで、当のコレットが必死に逃げ回る羽目になっていることを、この時の本人はまだ知らなかった。

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