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侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
シルベリアンの笛吹き人。中編

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塔の上のコレット。

「暇ねぇ……」


ここに来て数日――。


コレットは塔の上の窓から外を眺めていた。


外を見渡しても、視界に広がるのは切り立った崖と、そのはるか下で黒々と広がる森だけだった。


崖下まで落ちれば、まず助からないだろう。


(よくこんなところに塔なんて建てたわよね。)


ガタガタッ


深い森から風が吹き上がり、塔の窓を揺らす。


(本当に王都なのかしら……)


王都だからといって整備できていない所があることは知っている。


特に平民街や商店街などの裏路地に行けばなおさらだ。


だが、ここは貴族街……


すぐ隣がシルベリアン公爵領だとしても、森と崖に阻まれているこの空間に違和感しかない。


(長い間整備されてなかったということなんでしょうけど……それ以外にも使われていそうよね。)


逃げ場のない塔の上でコレットはため息をついた。


その時――


「アレット姫様。」


扉を叩く音と同時に、女の声がコレットの耳に届いた。


「はい。」


「ため息が聞こえたようですが、何かございましたか?」


(どれだけ耳がいいのよ……)


人のことを姫と言いながら、コレットが逃げないように塔の前には常に誰かが立っている。


そのおかげでコレットのストレスは限界に達していた。


部屋の中に入ってこないだけまだマシなのだろうが、そこでも一悶着あったのだ。


(小説でも書ければいいんだけど……)


森をぼんやり眺めていたコレットは、ふと口角を上げた。


(そうだ……いいこと思いついた。)


刹那――


ガチャガチャ!


扉の鍵を開ける音が室内に響き渡る。


「アレット姫様? 大丈夫ですか? 体調が悪いなど……」


少し返事がないだけで、心配しすぎだ。


「大丈夫だから! それより……退屈なのよ。だから大量の紙とペンを用意してくれないかしら?」


「大量……ですか?」


「そう。せっかくエアデール国に来たんだもの。今まで見聞きしたことを記録しておきたいの。」


「……ですが……」


侍女は眉を下げて口ごもる。


(一押し足りないって感じかしら……)


コレットは視線を落とし、ここに来てから話したことを思い返した。


(そういえば……私、家出してエアデール国まで来たことになっているのよね。)


「そしたらファンラット国の役にも立つでしょ? お父様に怒られたくないのよ……」


二人の間に沈黙が流れる。


吹き抜ける風が窓をガタガタ揺らした。


「はぁ~……承知いたしました。旦那様に聞いてみましょう。」


侍女は諦めたようにため息を吐くと、そのまま塔を出ていった。


(そろそろ……トニーが動いてくれている頃かしら。)


(あとは、『地下には行くな』というのが気になるところだけど……)


何となく、その先に何があるのかは想像がつく。


だが、それが本当なのか、そして無事なのかは分からない。


「せめて、ここから出られればいいんだけど……」


コレットが窓を開けると、冷たい風が部屋の中を満たした。


(ここからは無理よね……)


コレットは何度目か分からないため息を吐いた。


そのため息は吹き込む風にさらわれ、崖の向こうへと消えていった。


***


「アディ……アレットがいなくなってしまったのよ。それに最近侍女が減って……どうにかしてちょうだい!」


「どうにか……と言われてもな。なかなか募集しても入ってこないんだ。」


その頃、シルベリアン公爵邸では侍女や従者が消え、仕事が回らない状態が続いていた。


特にアリス付きの侍女は、ほとんど姿を消していた。


「来週は王妃様主催のお茶会があるのよ? 一人じゃ準備もできないわ。」


「ふん……前々から思っていたが、お前、わがままが過ぎるぞ?」


「はぁ? それが奥様であるわたくしに言う言葉?」


「はっ……正式には妻でもなんでもないがな……」


アリスは目の前にいる男を見て、ため息を吐いた。


いつからだろうか。こんなに冷めた関係になったのは――


義兄妹だった頃は、まだここまで冷たい視線を向けられることはなかった。


(コレットと結婚してからね……)


今まで成りすましをする期間はここまで長くなかった。


夜会やお茶会に参加すれば、すぐにアデラールの妻が本物じゃないとバレてしまうからだ。


そして、妻の両親が乗り込んでくる。


ここまでがお決まりだった。


妻が消えたと伝えても、アデラールが公爵である以上、誰も口出しはしなかった。


しかし、今回は違う。


コレットが消えてから数ヶ月。


夜会やお茶会に参加しているものの、娘に興味がないのか、誰一人家には乗り込んでこない。


そのおかげか、『妻』であることが定着しつつあった。


(逆境にこそ燃える恋って感じね。)


アリスは目の前の男を見据える。


(この男の……どこが良かったのかしら……)


陽の光に当たるとキラキラ輝く白銀の髪。


鼻筋が通っていて、誰がどう見ても『美男』と言うだろう。


だが、それだけの男だ。


「はぁ~、分かった。この金をやるから好きな侍女を探してこい。この際、身元に多少問題があっても構わん。」


アデラールは諦めたようにため息を吐くと、袋にたくさん入った金貨を後ろに控えていた従者に渡した。


(私は侍女や従者を戻してほしいという意味で言ったんだけど……)


従者はニヤリと嫌な笑みを浮かべると、「承知しました。」と一言だけ伝え、部屋を飛び出した。


「それから……ここに署名を……」


アデラールは契約書を数枚とペンをアリスの前に置く。


「署名……?」


「そうだ。侍女の補充には、女主人である君の署名も必要なんだ。」


「えぇ、構わないわ。」


アリスは中身を確認することなく、契約書に署名をした。


(これでお茶会にも参加できそうね……)


「アディ、ありがとう。」


アリスは嬉しそうに頬を緩めた。


だが、その笑みとは裏腹に、金貨を受け取った従者は人目を避けるように裏門から屋敷を出ていった。


「まさかここまで上手くいくとはな……」


この時の行動が自分の首を絞めることになるとは、アデラール自身知る由もなかった。

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