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侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
灰かぶりのお邪魔虫夫人。

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吾輩は幽霊ではなくコレットである。

「ハスキーとポメラニアンですって……」


「やはり……どの世界でも愛人を囲う人はいるのですね。もし旦那がそんなことをしていたら……即刻離縁ですわ。」


「わたくしも即刻離縁ですわね。というか……結婚早々こんな仕打ち、あまりだと思いますけれど……」


「しかも『名前だけ貸してほしい』って……せめて名前を貸してほしいのならちゃんとした家くらい用意しろってんですわ……」


「ふふっ、言葉遣いがどんどん酷くなりますわね。」


「……まるでお邪魔虫夫人が乗り移ったみたいで、かっこいいですわよ?」


***


「これからどうしようかしらねぇ……」


ガラガラ


コレットはロバが引く荷台の上で、風に吹かれながら景色を見渡していた。


黄金の稲穂がキラキラと揺れる。


遡ること数分前、コレットは森の中を何時間も彷徨っていた。


そして、獣道すらない森を何とか抜けると、たまたま走っていたロバの荷車と鉢合わせしたのだ。


『ひ、ひぃ~……ゆ、幽霊じゃ』


『あら、驚かせてしまってごめんなさい。って、幽霊じゃないわ。私は人間よ。ほら、手も足もあるでしょ?』


コレットは手足を動かしておじいさんに見せつけた……


『ひ、ひぃ~……わ、儂はまだ死にたくないぃぃ~』


だが、おじいさんには届いていないのか、尻もちをついて身体を震わせている。


(これは……何を言っても聞こえていなさそうね。)


コレットはしれっと荷台の上にトランクケースを乗せ、おじいさんの肩に手を回して立ち上がらせると、そのまま荷台の上に座らせる。


そして、自分は御者席へと腰を下ろした。


『おじいさん、このままでは通行の邪魔になりますから、近くの街まで荷車を運びますね。』


『死にたくない、死にたくない……』


返事のないおじいさんをいいことに、コレットは荷車を走らせた。


(ちょうど荷車に出会えるなんて。おかげで歩かなくてすむわ。)


――そして今に至る。


馬車よりもゆっくり進むが、そよ風が心地いい。


ガラガラ


ロバは御者が変わったことに気づくことなく、ゆっくり進んでいく。


(この辺りの地理……全然詳しくないのよね。)


シルベリアン公爵領が王都の次に広いのは知っている。


数年前、現国王の王弟が公爵の地位をもらう時に、周りの貴族たちから無理やり領地を奪ったのだ。


それもいい所だけ……


コレットは生まれていなかったが、暴動があったことはこの国の歴史として本に記されていた。


「本……本ね……」


そんな時、脳裏にトランクケースに入っている一冊の本が浮かんだ。


それは母が生前にくれた唯一の本だ。


お姫様が、王子様と出会い困難を乗り越えて結ばれる。


なんて、いい話ではない。


結婚予定の男が愛人と駆け落ちして、捨てられた主人公は自分のやりたいことをして成功を収める話だ。


「お母様の気持ち……今ならわかるわね。」


きっと、相手を信じ切るなと言いたかったのだろう。


「そうだわ……」


コレットは母のことを思い浮かべながら、ひとつの答えにたどり着く。


「小説……でも書いてみようかしら。」


その瞬間――


まるで背中を押すように風が強く吹き抜けた。


「ふふっ……お母様……?そういうことですね。」


コレットは風に向かって微笑んだ。


「ひっ……ゆ、幽霊が笑っておる……」


「ですから、幽霊ではないって言っているではありませんか……って……おじいさん……?」


おじいさんは、今度こそ泡を吹いて気絶していた。


「本当……どいつもこいつも……あまりではありませんこと?」


コレットはガラガラと荷車を引き続けるロバのおしりを軽く撫でた。


ロバは尻尾をゆらゆらと揺らしながら返事をする。


「まぁ……やりたいことは決まりましたし、良しとしましょうか。」


この日の小さな思いつきが、後に国中を震撼させることになるとは――


まだ誰一人知る由はなかった。


「……そうね……題材は男女のもつれがいいかしら……ちょうどいい所に見本があるし……この顔なら気づかれることはないでしょう。」


ガラガラ……


コレットは少し大きめの街に着くと、おじいさんを寝かせたまま荷台を降りる。


そして、ロバの頭をひとなでしてからその場を立ち去った。


「こ、ここはどこじゃあああああ~!!」


コレットが居なくなってからしばらくして、おじいさんの声が辺り一面に響き渡ったが、コレットは知る由もなかった。


「まずは胡椒を売って、原稿紙とペンを買わないとね。それから……化粧道具と……ウィッグもほしいわ。」


コレットの足は荷台の上で休んだこともあり、森の中を抜けたあとよりも軽やかだった。


きっと、悩みの種が一つ解決したというのもあるのだろう。


コレットは軽い足取りのまま近くの商会に足を踏み入れた。


「すみませーん……これを売りたいんですけどぉ~……」


手のひらサイズの小袋を台の上に乗せる。


店の主人は町娘の格好をしたコレットと小袋を交互に見た。


そして、小袋の中身を開けた瞬間、主人は目が飛び出そうなほど大きく見開く。


「な、なななな……なぜ……これを君が!?」


おじいさんよりも叫び声が、店内に響き渡った。


「何?今の流行りは叫び声をあげることなの?」


高価な胡椒をただの町娘が持ち歩いているのだ。


商人なら驚かないはずがない。


だが、当の本人は何に驚かれたのか、さっぱり理解していなかった。


「こ、これは胡椒じゃないか……な、なぜ君のような小娘が持っているんだ。」


「小娘って失礼ではありませんこと?買っていただけないなら他のところに行きますので結構ですわ。」


コレットはムッと頬を膨らますと、台の上に置いた小袋を手に取って踵を返した。


「す、すまない。まさかこんな所で胡椒に出会えるとは思わなかったんだ。ここで買う。い、いや買わせて欲しい。」


深々と頭を下げて謝る主人を見て、今度は目を細めた。


(どうせ、町娘だからってバカにしてたのね。)


きっと相手が貴族だったらこんなことはなかったはずだ。


もしかしたら、この領地の人達は女を軽視している人が多いのかもしれない。


「そうですか。でしたらお約束してください。お客様に対して、そのような態度はよくありませんわ。皆平等でお願いいたします。貴族であろうが、町娘であろうが、皆同じお客様ですもの。それが出来ないのであれば……」


コレットはそこで一旦区切ると、口角を上げた。


「このお話はなかったことに……」


今度は小袋をトランクケースへきちんとしまうと、もう一度踵を返した。


「ま、ま、待ってくれ!わ、わわわかった。今度からはそのように接しよう。」


「そうですか……ならよいのです。約束してくださるのであれば、定期的に胡椒をお渡しいたしますわ。勿論、こちらの商会のみと取引をいたします。ですから、必ず守ってくださいね?」


有無を言わさぬ一言に、商人の男はぐっと息を飲んだ。


そして、聞こえるか聞こえないかの小さい声で「承知しました」と応えた。


その言葉を聞いて、コレットは満足そうに笑った。

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