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侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
シルベリアンの笛吹き人。中編

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お待ちしておりました。

「……ここは……」


馬車を降ろされると、そこには以前一度だけ訪れたことのある大きな屋敷が建っていた。


快晴だというのに、この屋敷だけが日差しから取り残されたように薄暗い。


カサカサ


カァーカァー


「ひっ……」


カラスが鳴いているだけだが、妙に重々しい空気を放っている。


敷地を囲む鉄柵は人の背丈を優に越え、重厚な門扉は昼間だというのに固く閉ざされていた。


(まるで……ここだけ夜みたいね……)


大きな木が囲んでいることもあるのだろう。


別世界へ迷い込んだような錯覚に陥る。


ギィー……


コレットが目の前の重厚な扉を見ていると、ゆっくり扉が開いた。


「お待ちしておりました。アレット様。」


(……様?)


「……はぁ……?」


声をかけてきたのは――


以前アリスと来た時に出迎えてくれた老執事だった。


老執事はコレットに近づくと、腕に着いた可愛くない腕輪の鍵を外す。


「アレット様はこちらへ……他のものはいつもの所へ。」


そして指示を出すと、そそくさと歩き始めた。


一緒に乗っていた侍女たちの視線がコレットに突き刺さる。


しかし、侍女たちは何も発することはなく……肩を震わせながらそのまま別の場所へと連れていかれた。


(……なんで私だけ……)


侍女たちの『裏切られた……』というような顔は、一生忘れることができないだろう。


それからしばらく――


コレットは老執事の後ろを無言でついて行く。


(以前も思ったけど……気味が悪いわね。)


庭は広いはずなのに、色鮮やかな花壇もない。


噴水はあるが、何年も使われていないのか蔦が噴水に巻きついている。


窓も多く、日当たりも良さそうな屋敷は重いカーテンが引かれている。


「どうぞ……」


ぼんやりと建物を眺めているうちに、いつの間にか屋敷の扉の前まで来ていたらしい。


「あ、ありがとうございます?」


正直、なぜ自分だけこちらに通されたのか分からない。


コレットがお礼を伝えれば、老執事は口角を上げて笑った。


(えっ……なに……?)


パンパンッ


老執事が手を叩くと、侍女が数人出てきた。


自分より遥かに小柄な侍女に目を見開いた。


(ちっさ……)


思わず出た言葉を飲み込む。


「アレット様。旦那様がお待ちでいらっしゃいます。ですが、その前に……」


老執事はそこで一旦区切ると、全身を見回すように視線を動かしたあと、わずかに眉をひそめた。


「今のお召し物も似合っておりますが、他の物へ着替えていただきます。」


「は、はぁ……?」


一体何が起きているのか……。


(ここは、静観した方がいいわね……)


コレットは小さく息を吐いてから、老執事に言われるまま侍女の後ろへ続いた。


***


「クククッ……」


「ブフッ……」


その頃、シェアパード邸では――


二人の男がとある令嬢を見て笑いを堪えていた。


「……兄上がいるのは分かるが……なんでお前までいるんだ……マリウス……」


「クククッ……似合っているぞ。セドリーナ。」


「お前……」


セドリーナはわなわなと拳を顔の前で握る。


「ブフッ……ブハハハハ!!」


その瞬間――


黙っていたパドリックが腹を抱えて笑いだした。


「兄上まで……」


(なんで俺がこんな目に……)


セドリーナの格好をしたのには理由があった。


(いや、これも愛しのコレットのため……)


『ゴールデン商会』を探し始めてから数日。


手がかりを得て辿り着いた文具店まで行ったはいいが、コレットに会うことは出来なかった。


それどころか、その日から『お邪魔虫夫人』の朝刊小説がパタリと止まってしまったのだ。


セドリックは兄上とマリウスに相談したが、返ってくるのは……


『あいつなら大丈夫だろ? 神経図太いからな……少し待っていれば連絡くるさ。それより俺はほかのことで忙しい。』


『姉上なら大丈夫だ。どうせ今ごろ相手のこと観察して懐に入りこんでるよ。なんだかんだ味方を作るのだけは上手いからな……それより姉上に頼まれた仕事があって忙しいんだ……』


誰一人慌てる様子はなかった。


そこでセドリックは最後の一人、義姉であるニコレットに相談した。


セドリックはこういう時、コレットの父が役に立たないのをよく知っていたのである。


『姉上……コレットが心配なんです。彼女を探し出すのに力を貸してくれませんか。』


『まぁ、なんて美しいの。それならいい考えがあるわ!』


ニコレットは両手を顔の前で重ねると、にこりと微笑んだ。


そして出来上がったのが――


セドリーナである。


「ブフッ……それで? 姉上のことはなにかわかったのか?」


「……」


セドリックは小さく首を横に振った。


「だろうな……そもそも隠れるのが上手いんだよ。昔から、かくれんぼとか強かっただろ?」


「いや、それとこれは別だと思うが……」


パドリックの言葉にすかさずセドリックが返す。


「でも、一つわかったことがある。」


セドリックはニヤリと口角を上げた。


「「……なんだ?」」


二人の声が重なる。


「実はな……小説の中の話だが、とある領地で侍女がいなくなっているそうだ。これがもしかすると本当の話かもしれないという噂があった。」


パドリックとマリウスはごくりと息を飲む。


(ふっ……どうやらこれは知らなかったらしいな。)


すると二人は顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らした。


「あぁ~それは……シルベリアン公爵邸だな。」


「それは知ってる……」


「……へ?」


二人の返事に、セドリックは言葉を失った。


「気づいていなかったのか……?」


「てっきり気付いていると思ったが……。」


どうやら二人ともセドリックが知っていると思っていたらしい。


しかし、セドリックは何も気づいていなかった。


「パド兄が伝えたんじゃ?」


「伝えたぞ……だが……あいつの事だから聞いていなかったんじゃ……」


「あぁ~……姉上が絡むと人が変わったようになるからな……」


二人はセドリーナの格好をしたセドリックを見た。


「セド……お前その格好でいた方が姉上喜びそうだぞ?」


「確かに……ああ見えて、意外に可愛いものが好きだからな……」


「本当か!?」


自分のドレス姿に目を輝かすセドリックを見て、二人は盛大にため息を吐いた。


一方、そんなことが起きているとは知らないコレットは――


「どうやってこの状況を伝えようかしら……」


どこぞの王族が着るような煌びやかなドレスに身を包んだコレットは、塔の窓から物憂げに外を見つめていた。

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