表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
シルベリアンの笛吹き人。前編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/59

姿を消した侍女。

「アレット。今日は年相応に見えるように化粧してくださる?」


「年相応……でございますか?」


夜蝶の館から戻ってきて数日――。


コレットことアレットは、今日もアリスの専属侍女として働いていた。


(っていうか……いくつか知らないんだけど……)


「えぇ、今日はお茶会があるんですの。いつもはアディの妻として、コレットという女と同じ年齢に見えるようにしていたのですけれど、アディも妻は若く見えた方がいいのではないかと思ったのですわ。」


初めて会った時にはあれほど『お茶会しましょう』と口にしていたのに、コレットのことをこれっぽっちも気にしている様子はない。


(まぁ、別にいいのだけど……)


「大変申し上げにくいのですが……奥様はおいくつでいらっしゃるんですか?」


鏡越しにアリスを見れば、アリスはぽかんとした顔でこちらを見ている。


恐らく知っていると思ったのだろう。


(いや、聞いてないから知るわけないでしょ……)


すると、アリスはぷくっと頬を膨らませた。


侍女になってから知ったが、見目麗しい顔は化粧あってのものだった。


素顔でいくら頬を膨らませても、かわいいとは感じなかった。


(これならセドリックの方が可愛いわね……面倒だけど……)


「十四歳よ。」


「……」


まさかの年齢に、アレットは思わず言葉を失った。


(二十歳くらいかと思っていたわ……)


「何ですか? 何か言いたいことがあるなら、はっきり言ってくださらないかしら?」


「いえ、まだ十四歳だと思っておらず……では、十四歳に見えるような、かわいらしいお化粧をしましょう。」


十四歳と言われれば、初めて会った時にツインテールをしていたのもうなずける。


もしかしたら、この我儘も年齢を考えたら普通なのかもしれない。


(アリスがここに来たのはいくつくらいなのかしらね……)


アデラールの年齢は二十八歳。アリスとは十四歳差ということになる。


義妹ということだったが、貴族名鑑にアリスの名前の記載はなかった。


公爵家である以上、養女であっても貴族名鑑に載らないことはないはずだ。


だが、本気でなくても大切にしているところを見るに、何かしら意味があってのことには違いない。


(アリスの出自は全く分からないのよね……)


普段も化粧や名前で見た目を変えているせいで、周囲から情報を取ることも難しい。


(今回はチャンスかもしれないわね)


アレットは化粧道具を準備すると、アリスの顔をじっと見つめた。


まずは下地からだ。


「下地クリームを手に入れたので、使ってみてもよろしいでしょうか。」


「下地クリーム?」


「はい。なんでも顔色がよく見えるそうなのです。まだ試作品ということなのですが……私も使用しておりますが、化粧崩れがしにくくなるので、とてもおすすめです。」


先ほどまで怒っていたはずのアリスだったが、下地クリームの話をすると、ぱっと顔が明るくなった。


「お願いしますわ。それ、手に入らないものなのですか?」


「えぇ、まだ試作品ですので……今後商品化すれば手に入るかと思いますが……」


実は、下地クリームを作ったのはコレットだった。


先日パグールから譲ってもらった亜鉛鉱石を砕き、すり潰して作ったのが、この下地クリームだ。


「そう、それはとても楽しみですわね。もし商品化したら教えてくださいませんこと? あなたが持っている化粧品を使ってから、肌の調子がすごくいいのですわ。」


「それはよかったです。では、化粧を始めますので、目を閉じてください。」


アリスはアレットが化粧しやすいように少し体をずらすと、目を閉じた。


(こういうところは素直なのよね……)


アレットは下地クリームをアリスの顔につけると、中心から外へ、顔を手で押さえるようにしながら優しく塗っていく。


ベースが終われば、次はアイシャドウだ。


ドレスが淡い紫なので、それに合わせて同系色のアイシャドウを選ぶ。


濃すぎると老けて見えてしまいそうなので、今回はピンクに近い紫にした。


続いてアイラインだ。


(年相応ということだし、目は大きく見える方がいいわね)


地味な顔だと、目の印象でがらりと変わる。


だが、それだけ化粧映えしやすいということだ。


アイラインを終えると、仕上げに頬へ紅いチークをのせれば完成だ。


「さっ、できましたよ。」


アリスはゆっくり目を開けると、鏡で自分の顔を見つめ、微笑んだ。


「良いですわね! いつもと全然違いますわ!」


「お気に召していただけたようでよかったです。では、仕上げに髪を結いましょう。」


(この年頃だと……やっぱりツインテールとかがいいのかしら……)


アレットは自分が子どものころを思い出そうとしたが、出てくるのは本を読んでいた姿ばかりだった……。


母を早くに亡くしたこともあるのだろう。


後妻として家に来た人に、何かをしてもらった記憶もない。


(ポメラニアンっぽく二つのお団子でいいか)


考えるのが面倒になったアレットは、ブラシを手に持つと左右半分に分けてお団子を作り始めた。


「奥様、こちらでいかがでしょうか?」


肩をぽんっと叩くと、鏡の中のアリスを見つめる。


すると、アリスは満面の笑みで微笑んだ。


「うん、いいわ。ありがとう!」


今まで一度も感謝の言葉を伝えたことがないアリスが、初めて伝えた感謝の言葉。


その一言に、アレットだけでなく、その場にいた侍女たちが固まった。


誰もが目を丸くし、部屋に一瞬だけ静寂が落ちた。


しかし、アリスは侍女たちの様子に気付くことなく、一人の侍女を呼んだ。


「シバ、着替えを手伝ってくださらないかしら?」


「……?」


「シバ、いないのですか?」


「シバ……!?」


その後もアリスは何度もシバを呼んだが、シバが姿を現すことはなかった。


「奥様。今日は私が着替えのお手伝いもいたしましょう。」


アレットが声をかけると、アリスは捨てられた子犬のような顔で呟いた。


「お願いしますわ。」


侍女の中でも一番長く仕えていたシバがいなくなったのは、アリスにとっても衝撃な出来事だった。


「奥様。シバのことはこちらにお任せくださいませ。奥様は今日のお茶会を楽しんでくださいませ。」


「そうね……アディも最近帰ってこないから……少し不安定になってしまっていたみたい。公爵家の奥様だもの。しゃんとしないといけないわね。」


アリスはその場でくるりと一回転すると、鏡に向かって無理やり笑顔を作った。


***


「うっ……。」


シバが目を覚ますと、いつもいるはずの寮内ではなく、見覚えのない場所にいた。


「ここは一体……」


真っ暗な部屋。窓もなければ灯りもない。


ピチャン、ピチャン


そのせいか、水の滴る音がやたらと頭に響く。


(あれからどのくらい経ったのか……)


あの時、シバはベッドに寝転がると、アレットに背を向けていた。その時、アレットが背中越しに小さな声で「ありがとう」と言ったのだ。


今までもアレットが部屋を抜け出していたことは知っていた。


自分では気づいていないようだが、身なりや話し方で彼女がただの平民ではないことは、侍女たちの間では周知の事実だった。


だからだろうか……。


アレットなら、閉鎖的なこの屋敷をどうにかしてくれるのではないか――。


そう思ったのは……。


「まさか……自分がこんなことになるなんてね……」


今度は自分の声が頭の中に反響する。


あの時……目を閉じると、どこからともなく笛の音が聞こえてきたような気がした。


(あの音は……幻聴だったのかしら……)


それからの記憶は少し朧げだ。


いつの間にか、アデラール様の部屋の前にいて、誰かと何か話をしているのが聞こえてきた。


内容までは覚えていないが、あの話があまり良くないということだけはわかる。


少しずつ目が慣れてきたのか、周囲が少しだけ見えるようになってきた。


ジャラ


どうやら手首と足首には錠がはめられているらしい。


服装はあの時のままのようで、ワンピースを一枚着たままだった。


試しにワンピースの中を見てみたが、何かをされた様子はない。


(少なくとも……まだ無事みたいね。)


ほっと胸を撫で下ろしたその瞬間――


ピーッ――。


あの時と同じ笛の音が、静寂を裂くように響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ