隕石の王子様。
それからしばらくして――
(アリスはどこにいるのかしら……)
アデラールの話を聞いたあと、コレットは侍女の仕事をしながらアリスを探していた。
理由は一つ。
家では仲睦まじい様子を見せる二人だが、どうも裏がありそうな気がしてならないからだ。
(本当に好き合ってるようには見えないのよね……)
コレットは二人で話している姿を思い出していた。
『ウエディングドレスは白がいいと思うんだけど……』
『アリスならなんでも似合うよ。』
そう言ったアデラールはアリスを見ることなく、近くにいた侍女のおしりを眺めていた。
それ以外の時もそうだ。
二人でディナーをしていても、
『今日はアディ何をしていたの?』
『特に何も……』
『……』
話は続かず終わってしまう。
アリスはもう少し話したそうにしていたが、アデラールは興味が無いというのがひしひしと伝わってきた。
(ヴィンテージ・レディーンの名は伊達じゃないのよ。)
夜会やお茶会では壁と同化し、周囲を観察。
商人たち相手には、相手が今何を欲しがっているのかを先読みし、考えていた。
そのおかげで、人の考えを読むのが誰よりも得意になってしまった。
(本当に……どこに行ったのかしら。)
会場内を探すが、アリスらしき令嬢は一人もいない。
コレットは仕方なく、庭園に出ると……
月明かりに照らされた綺麗な花と一緒に、男女の笑い声や囁き声があちこちから聞こえてきた。
「あぁ……夜会の日は、何故かカップルが増えるものね。」
皆、自分たちの恋愛に夢中なのか、侍女が一人で歩いていても誰一人アレットを気にすることはない。
「今日の君は美しいね。まるでこの月光花のようだ。」
(夕顔ですけどね……)
「君はこの薔薇のように美しいよ……」
(花言葉の意味知っているのかしら……)
「君には夜空に浮かぶこの星をプレゼントしよう。今日からこの星は君のものだ。」
(星なんて燃えているガスか隕石ですけどね。)
相手の女性たちは男性の言葉を聞いて頬を赤くしている。
(案外、雰囲気だけで何とかなるものなのね……)
コレットは小さなメモ帳を手に取ると、今聞いた言葉を一言一句書き写した。
(これが恋愛……と言うのね。私にも恋愛小説がかけるかしら……)
今まで書いてきたのは、皮肉と人間観察ばかり。
甘い言葉を書こうとすると――
(手が震えちゃうのよね……)
不倫や浮気者なら書ける。
けれど、相手の裏ばかり書いてしまって、甘い恋愛物語にならない。
だが、ここにいる令嬢たちが頬を染めているのだ。
きっと恋愛小説としては正解なのだろう。
カリカリとメモを取り続けていると、パッと頭の中に新しい文字が降ってきた。
「隕石よりも美しいね……って言わせましょう。タイトルは……『隕石の王子様』とか良さそうね。」
コレットは甘い空気の流れる庭園を何も感じることなく歩き続けた。
すると――
奥の方から誰かの話し声が聞こえてくる。
「…………さま!」
「……い……ぞ!」
(揉めてる?)
「…………ませ!」
「…………ない!」
(恋人同士の喧嘩ではなさそうね……)
コレットは足音を立てないように慎重に近づくと、近くの物陰に身を隠した。
(ふふっ……ネタになるといいんだけど。)
コレットは小さく息を吐くと、耳を澄ませる。
「なぜ、お祖父様がここにいらっしゃるのですか。」
(この声……アリス?)
「お前には関係なかろう。それより、あやつとの関係は上手くいっておるのか?」
(あやつ……って、アデラールのことよね。)
「も、もちろんでございます。このまま行けば……ですので、あの子たちに手を出すのだけはやめてくださいませ。」
「ふん。あいつは使い物にならなかったからな。全てはお前にかかっておる。もし失敗でもしてみろ?」
「お前もあの女と同じように消えることになるかもしれんな。それだけじゃないぞ?」
「お前の弟たちがどうなるか……今から楽しみだ。」
暗闇で顔は見えない。
だが、赤い瞳がきらりと光った。
「そ、それだけは……必ず成功させてみせます。ですから、ドルダムとドルディーには手を出さないでください。」
(弟……たち?)
アデラールのことを義兄と言っていたから、てっきり二人は義兄妹かと思っていたが、どうやら違うらしい。
「お前がそんなこと言える立場か?そんなに心配なのであれば、早くあやつの子でも孕むんだな。」
「……。」
「……何も言い返せんか。もうよい。お前があてにならんのは今に始まったことではないからな。」
「こちらはこちらで動いていく。種はすでに撒かれているんだ。これからどうなるか……」
男はそこで区切ると歯を見せてニヤリと笑った。
白い歯がきらりと光る。
「ククッ。今から楽しみだよ。」
男は不気味な笑い声と共にこの場から姿を消した。
この場には顔から全ての表情が消えたアリスだけが取り残された。
ドサッ
アリスは男が居なくなったのを確認すると、その場に力なく崩れた。
「ドルダム、ドルディー……」
その声は場内から聞こえてくるオーケストラの音楽でかき消された。
(ドルダムとドルディーね……)
コレットはメモ帳を一枚捲ると、「ドルダム」「ドルディー」とだけ書き加える。
そしてメモ帳を胸元へしまうと、口元を緩めた。
「ふふっ……いいネタが手に入ったわね。」
「さっ、次はどこに行こうかしら……」
その姿は、まさに『お邪魔虫夫人』そのものだった。




