第8話 超国宝級の古代鏡
3か月ほどが過ぎた。
日曜日を除いた毎日が家庭教師の授業の日々だが辛くはない。学ぶ内容は新鮮に感じるものが多いし、半分は雑談みたいなものだし。
勉強以外にすることもないので、授業の時間もできれば長いほうがいいと思ってるくらいだ。
結果としてそれは、イケメン家庭教師と部屋にいる時間が長いほうが嬉しいということにもなるので、脳がそういう錯覚起こしたらまずいと警戒はしている。
対策はある。
まず目を瞑ります。
次に脳内にイーメン先生を想像します。用意が出来たら先生を脱がします。
最後に私があおむけに横になります。先生が
無理!
男とセックス無理!
イケメンでも無理!
よし、セーフ。
私は男。
結婚無理。
たまにこの儀式が必要です。
授業時間ははっきりとは決まってない。
午前中の適当な時間、だいたい9時から10時くらいにイケメン君が来る。
昼前くらいに部屋で家庭教師君と朝昼兼ねた食事。
午後の勉強となり適当な区切りで終わる。16時くらいが多いかな。
最近はその後に取締役夫妻と3人で、つまり家族で食事をとるようになった。
が、気まずい。
あまり会話がないから。
夫婦の会話はそこそこあるが、私はあまりそこに入れない。蚊帳の外だ。
特に夫人が私に話しかけてきたことは未だ一度もない。私から話しかけるとかもちろん無理。
家族の食事が毎日ではないのは、おそらく夫人がいやがってるからではないだろうか。つまり、私が夫人に嫌われてるように感じる。
無視されてるし。
愛人の子だからかな、仕方ないか。
◇
先生が来る前に、専属侍女に着替えと身だしなみを整えてもらう。
侍女に手鏡を渡されるが私はいらないと断った。私が美少女なのは確定的に明らかだから。
ちなみに侍女も下女もいわゆるメイド服ではない。
繰り返す。
メイド服ではない。
初めて彼女たちに会ったときはその服装に地球滅亡かってほどにショックを受けた。裏切られたと思った。
誰を恨めばいいかわからなかったのでとりあえずイケメンイーメンを恨んだ。
確実にショックが顔にも出てたと思うので、彼女たちには申し訳なく思ってる。
「全身鏡が欲しいな。これじゃ私の美少女っぷりを十分に楽しめない」
「全身鏡?」
侍女が不思議そうな顔をする。
不思議そうなのが不思議だ。なにが引っかかってるんだ?
「そう。私は元男だから今のアイになるまで使ってなくて意識してなかったけど、考えてみたら娘の部屋に全身鏡ないのっておかしくない?」
「全身鏡ってもしかしてホールにある鏡のことでしょうか」
「なんでそんな確認いるの。まあそうそんな感じの」
「さすがにそれはオコンネル家でも難しいと思いますよ。国宝級ですし、お金があってもそうそう手に入れられるものでは」
「え?あの鏡国宝級なの?よくわからないけど、もちろん国宝級なんかじゃなくて私は普通の鏡でいいよ」
「普通の鏡?」
なんだか話がかみ合ってないようだ。
うーん、先生が来たら先生に聞こう。
◇
「おはようございます、先生。メイド服の恨み忘れてないですから」
イーメン先生は一瞬またかよって表情を見せる。
失敬だな。
「おはようございます。アイ嬢は今日もお美しくてなによりです」
「ありがとう。でっしょ?だから全身鏡が欲しいと思ったんだよ。私の美少女っぷりを楽しみたくて」
「全身鏡?」
「それを侍女に言ったら話が通じなくてさ」
「アイ嬢、淑女らしい言葉を心がけてください。ふむ」
先生は少し考えるそぶりをみせたが、すぐになにか気づいたようだった。
「ああ、なるほど。アイ嬢、まずは席に着きましょう」
「はい」
◇
「さてアイ嬢。まずは鏡について今日は話しましょう。あなたが生きていた科学時代では鏡が大量に流通してましたね」
イケメンイーメンの説明によると、今の時代全身鏡は生産できないらしい。
技術が失われたわけではない。知識としては今も鏡の製造法はわかってる。しかし生産が不可能になってるらしい。
私が使ってる、いや今日は使わなかったけど使ってる手鏡のような小さな鏡であれば今でも作れるが、それでも高価なのだと。
では館のホールにある全身鏡はなんなのかというと、科学時代の遺跡から発掘されたものだという。
全身鏡に使えるほどの大きさのものは非常にレアで、侍女が言っていたように国宝級の価値と値段がするとのことだ。
やっべ、うっかり割っちゃったらと思うと怖い。鏡怖い。
「ホールの全身鏡はオコンネル家の財産ですが、その周囲にいくつか飾られてる小さめの鏡は夫人のコレクションです。夫人は古代鏡コレクターなんですよ」
「埴輪や土器みたいなもんかな。でも埴輪だったら夫人絶対コレクションしてないだろうな」
「科学時代の鏡でも小さいものは国宝級と比べたら高価ではありませんが、なにより夫人のコレクションですので注意してください。もし割ったら大変ですよ」
それはヤバいな。鏡怖い。
◇
今日も家庭教師の時間が終わる。
「せんせー、疲れました。身体的な疲れというよりも精神的に?でも勉強疲れじゃなくて、毎日毎日勉強してることに?」
「それは勉強疲れとは違うんですか?」
「ちょっと違くて!勉強じゃなくて毎日毎日同じ生活が続いてることに?日常になんか慣れちゃったことに?わかります先生?」
「正直わかりませんが、あなたが意味わからないことを言うのはいつものことなので、つまりいつものアイ嬢ですね」
「えーわかってくださいよ。あ、そうだ質問があります」
「なんでしょうか」
「結婚ってやっぱり貴族にとって重要なんですよね?わかってますわかってますけど。私に結婚の、その選択の自由なんてあっちゃったりしないですよね?」
「もちろん貴族であれば婚姻はとても重要なものです。本業と言ってもいいくらいです。あなたの婚約はオコンネル家にとって絶対に破談にできないものと聞いています」
「ですよねー。あー困ったな」
「結婚が嫌なんですか?たしかにあなたに選択の自由はありませんが、あなたの婚約相手は決して悪くはありませんよ。いえ、かなり良いほうです」
「えー、その人せんせーみたいにイケメン?」
「それは僕からはなんとも」
やばい。
今私かなり美少女しちゃってなかった?美少女っていうか普通に女みたいになってなかった?
やばいやばいやばい。
私は男だ。美少女だけど。
たぶん先生っていうのが悪い。先生は女を狂わせる。いや違う、男が狂う?え、どっちだ。
いやいやいやいや冷静になろう。
まず目を瞑ります。
次に脳内にイーメン先生を想像します。用意が出来たら先生を脱がします。
最後に私があおむけに横になります。先生が
無理!
男とセックス無理!
イケメンでも無理!
よし、セーフ。
私は男。
結婚無理。
◇
夕食の時間、食堂に向かう。
テーブルの席にはダグ取締役と、そして夫人の代わりにドクター・ピーター・デュエルが座っていた。
疑問に思いながら自分の席に着いたとたん、取締役が話し始めた。
話し始めたというより喋りだした。すごく。
「アイ!いやあ今日この時間をとても楽しみにしてたんだよ!」
え。
なんか取締役キャラ違くない?
一瞬だけ固まり、そしてドクター・ピーターのほうを見ると私のほうを見て苦笑している。
「いや苦労かけるなアイ!アイの中身君!すまないね、君の名前はなかなか覚えられないんだ。ああ、やっと自由に話せる。ほんとずっといつ胃に穴が開くかって気持ちだったけど久々に解放された!」
どういうことですか。




