第6話 モヒカンが決まりでしょ!
「現代文明、500年前に私が暮らしていた世界は滅んだんですね、先生」
「そうですね、そのように言われてます」
予想の範疇ではあった。
私、平岡晴にとって今は500年後の未来だというのにここに未来を感じさせるものはほとんどなかった。
むしろ500年前の現代よりももっと古い時代を感じさせるものばかりだった。
会話から貴族のいる身分制社会なのは明らかだったし、館の様子も人の服装も中世をイメージさせるものだった。
現代そして未来を象徴する科学技術が今ではすっかり衰退したという予感はほとんど確信だった。
それでも「滅亡」という言葉が口に出されると衝撃がある。カタストロフィ的ななにかが起こったということだろう。
たとえば第三次世界大戦、核戦争とか。
とはいえ、不思議にそれも違うように思えた。
だいたい今が核戦争後の世界ならなによりまずモヒカンがいてくれないと困る。決まりでしょ。でもまだモヒカン見てない。
ケ〇シロウもまったくいてそうにないし、あ、でも海のリ〇クはちょっといそうかも。なんならこの館にも。
「完全に滅亡したというわけではありませんけどね。たとえばAI技術は今も多少は残ってます。500年前のようには使えませんが」
翻訳インプラントとかか。
そもそも私の記憶が美少女に転送されたのもそうか。
「急速に文明が衰退したというのがより適切かもしれませんが、一般に科学文明が崩壊・滅亡したと言われます」
「どのように、どうして現代文明、科学文明は滅んだんでしょう」
「それは今この場で説明するのはなかなか難しいですね。様々な原因が言われますし、現在も歴史学者の研究テーマのひとつになってます」
それはそうだろうな。
「500年前にあなたが生きていた科学文明は滅んだ、今はその事実だけ知っていればいいでしょう。機会があれば今後私もより詳しく説明しますし、興味があるならあなた自身で調べてみるのもいいでしょう」
「私自身で調べろって言われてもスマホもないし。あ、スマホってやっぱりないですよね?先生」
「なんですか?そのスマホとやらは。とでも言うと思いましたか?残念、私は歴史が好きなのですよ。500年前にあったというスマホくらいは知ってます」
「え、すごい。いやむしろ怖い。中世っぽい屋敷の中世っぽい部屋で中世っぽい服装の中世っぽいイケメンからスマホって言葉出てくるの違和感すごくて怖い。脳バグる。あ、でもその言い方はやっぱり今はスマホないってことですよね。大丈夫です、期待してませんでしたから。期待してませんでしたとも!それにもしスマホがあってもネットがないですよね」
「ネットってなんです?あと中世っぽいイケメンってなんなんです?」
「スマホ知っててネット知らないのかよ!」
「冗談です。今はスマホもネットもありませんね。ネットは完全になくなったとも言えないところはあるのですが、あなたにとってはないも同然です。でもこのお屋敷には書庫がありますよ。なにせオコンネル取締役家ですからね、書庫の充実度もなかなかのものですよ」
「それはいいですね。暇も潰せそうです。あ、でも本も英語なんじゃないですか?英語の本・・・翻訳インプラントで文字も翻訳できないでしょうか」
「無理です。すみません、僕が無責任なこと言ってしまったようですね」
「はい。いい加減脱線してないでそろそろ授業を進めましょう、先生」
「え?僕のせいなんですか?」
「はい」
姿勢をまっすぐ正して目は先生に気づいていながら先生をまるで無視するかのように先生の顔から少しずれた方向をじっとまっすぐ見つめる。
美少女のこれは男には効く筈。
たとえイケメンであろうとも!
◇
「まあ、いいでしょう。始めますよ。あらためて、オコンネル家の由来と歴史です」
正直、あんまし興味持てないんだよなあ。系図とか。脳バグる。
それでも黙ってイーメン先生の話を聞く。
「科学文明崩壊、そして続く大混乱時代については記録が散逸していてよくわかっていません。オコンネル家についても同様です」
はい。わかりました。
わからないということがわかりました。
「新時代、ああこれも説明が要りますか。500年前のあなたが生きていた時代を科学時代と呼ぶことは言いました。そのころの世界を科学文明、あるいはAI文明と私たちは言っています。しかし科学文明は滅亡し、世界は大混乱時代に突入します」
どうして滅亡したのか、そのときなにがあったのかは気になるけど、先生説明する気ないみたいだしな。
記録も少なくてわからないことが多いのはそうなんだろうけど。
「いつからというのは明確にはないのですが、その後の世界、時代を私たちは新時代と呼んでいます。ニューノーマルと言うこともあります。文明崩壊前と世界のありようが大きく変わったからです。考え方も変わりました」
私にとって、今の時代・社会は私がいた500年前よりもさらに昔、まるで中世社会みたいに見えるので新時代と言うのはとても違和感がある。
でも、イーメン先生はじめこの時代に生まれ育ってる人にとってはそんなことはないのだろう。
「新時代のオコンネル家の歴史でまず絶対覚えておかなければならないのは、勇者サムス・オコンネルです」
は?勇者?
「ちょっと待ってください先生。さっきまでプロジェクトXみたいな話してましたよね?CEOとか言ってましたよね?勇者?小麦王はわかります。称号っていうのがちょっと引っかかるけどわかります。勇者?」
「はい。オコンネル家のルーツは科学時代にまで遡りますが、それは伝説・神話みたいなものです。勇者サムスの登場によって実際のオコンネル社史が始まるのです」
「逆でしょ!勇者こそ伝説・神話でしょ!魔王とでも戦うんですか?逆でしょ逆!あと社史って言うのはさらに脳バグるから勘弁してください」
「魔王伝説はたしかに存在しますが、もちろん空想でしょう。実際にいた証拠はありません。サムス・オコンネル取締役が勇者と呼ばれたのは事実であり歴史です」
いやいやいやいや飛躍がある。
「先生やっぱり無理です!サムス取締役兼勇者って何?もしかして勇者も会社の役職なの?まともな会社に就職できたことないから私が知らなかっただけ?わかりません!科学文明は滅亡しました。はい。わかります。世界は核の炎に包まれた、そういうことですよね。核でも地震でもなんでもいいですけど。そしたらその次に来るのは伝説は伝説でも世紀末救世主伝説でしょう?汚物消毒モヒカンでしょう!どうしてドラ〇エ三部作サムの伝説になるんですかジャンル間違ってます!」
「あなたが何を言ってるのかよくわかりませんが、混乱してるのはわかりました」
私は反省した。
ここは日本じゃない、アメリカだった。
世紀末救世主伝説はアメリカ人には通じにくいかもしれない。ヌカコーラを言えばよかった。
「先生、断絶があります。私がいた時代と私のいる時代がこれではつながりません。このままでは私が今いるこの世界は私にとって完全に異世界です。私は魔王と戦いたくないし、悪役令嬢にもなりたくありません」
「アイ嬢、できるだけ英語で喋ってもらえますか?」
「黙れってことですね?先生」
私の返しにイーメンは口ではなにも答えず笑顔で返事。
ちくしょうイケメンめ。
「仕方がありませんね。科学文明滅亡の話をしましょう。私が話せることも限られますし、またそれが正しいのかもわかりませんが、あなたにとっては大事なことのようです」
さすがイケメン素敵!
◇
そうしてイケメンイーメンは現代文明滅亡について語り始めたが、私はその話を聞くのに予想外に苦労した。
まず、言葉の使い方が違う。
同じ単語でもイーメンがそれを口にするとき500年前の意味や使い方とズレがあるのだ。また、私が現代の感覚で問題に感じるようなことをイーメンは当然のことのように話す。
私が苦心してイーメン先生の言葉を私の言葉に翻訳したところ、現代文明の滅亡とは次にいうような出来事だった。




