第25話 魔法美少女アイ(挿絵有り)
※現在のアイの旅装 表紙と顔違っちゃってるけど
ジョジョ立ちを続ける(たまにピクリと動いたりふらついたりする)ナードと別れ、私と兄は再び道なき道を進む。
「科学の修行も大変だね。そこに痺れる憧れるぅとはならないね、あれは。本当にあれで科学を使えるようになるの?科学を使えるってなんだ」
「俺に言われても答えようがない。ナードはそう信じてる」
しかし頭の中にHOT LIMIT流れ続けてて困る。
別の曲にしたいんだけど変わってくれない。
無限ループって怖くね?たしかプログラミングでも避けるべきことだ。LIMITのくせに無限しやがって。
やがて無限ループもいつの間にかおさまり黙々と歩いていると細い道があった。
大人二人が並んで歩けるくらいの幅だ。
「道だよ、兄」
「そうだな」
「ここからは道を歩くの?」
「いや、このまま進む」
「どうして?」
「馬車が通れる道じゃない。おそらく一方が村で、もう一方は行き止まりだろう」
「そっか。今日は村には寄らないんだっけ」
視界の遠くに村はちょくちょく見える。
だが、どれだけ歩いても村が近づいてこない。兄がそのように、村と一定の距離を保つように歩いているからだろう。
村の時間の時間は今日じゃない。
さらにしばらく歩き続け、ようやく馬車も通れそうな道に出た。
村のある方向とは反対に向けて進路を定める。
もうだいぶ午後も遅い時間だ。
◇
「今日は野宿。明日は村だよね?」
「そうだ」
野営の準備をしながら兄が応えた。
さっきまで歩いてきた道からはまた離れた場所に火床を作り、薪を集める。私も薪集めを手伝う。
「私、村も初めてだよ。ちょっと楽しみかも。まず靴買うんだよね?」
「買う?いや、作る。無理そうなら今の靴を補修する」
村では靴は買えない。店がないのだろう。わかる。
作るってのはよくわからないな。お金も時間もかかるんじゃないか。
「よし。じゃあ飯を食べたら俺は寝る」
「え?寝るの?見張りは?」
「ずっと夜警してたんだ。今日は寝させろ」
焚き火もしっかりと燃え始め、私と兄はパンを頬張る。カラバーナにもらった鹿肉は明日だ。
「野宿って危険じゃないの?」
「もちろん家で寝るよりずっと危険だ」
「じゃあ私が夜警してようか」
「いや、アイも寝とけ」
「えー」
「野宿で一番危険なのはまず天気の急変だ。次に人だな。野盗の類だ。さっきも言ったが基本的には狼などは人を襲わない」
「やっぱり野盗いるんだね」
「そりゃな。けど相手が襲うつもりなら先にこちらを見つけてる。夜警をしてても最初からこっちが不利だ。それより明日以降も考えると疲弊を抑えるほうが良い」
そうして兄は食事が終わると本当にそのまま横になってしまった。
不安だ。
不安なときはどうする?やっぱり踊る?
さすがに今はやめよう。そのくらいアイちゃんもわかる。
兄の言う通りに寝ようかと思うも、まだ夜も早いので普通に眠れない。
今日も晴れていて夜空には月も出ていて周囲もそこまで暗くはない。
森の影はやっぱり漆黒で不気味だけど。
だんだん怖くなってきた。
カラバーナとの野営は怖くなかった。
2人きりだから怖い。私たち以外に周囲に人の存在、人がいる痕跡がなにもない。
それが怖い。不安だ。
だからと言って野盗が「こんばんわ!人です!」と出てきても安心するわけないけど。
焚き火を見ながら丸まって膝を抱えて座っている。
脳内BGMの選曲をしてるのだがなかなか決まらない。
夜の曲。なにがいいかな。
こんな夜にお前に乗れないなんて。違う。えっちなことは禁止です。
月の裏で会いましょう。夜をぶっ飛ばせは私はピチカート・ファイヴ版が好きだ。初めて聴いたのがそれだから。でもインディーズ時代のオリジナル・ラブ版が先にあったらしい。それは聞いたことがない、聞いてみたいぞ。500年もたってるから無理か。
っていうか都会の夜の曲で野営の曲じゃない。
野営の曲ってなんだ。
野宮の歌ならまたピチカート・ファイブに戻っちゃう。
「眠れないのか?」
1時間ほどたったろうか、寝たはずの兄が声をかけてきた。
「うん、まだちょっと」
「そうか。じゃあなにかあったら起こしてくれ。それと言い忘れてたが、俺も夜中には起きる」
「わかった」
「適度にそこの草や落ち葉も火に焚べて煙を出してくれると助かる。虫除けになる」
「うん」
「・・・アイ。二人で旅するというのは危険を受け入れるということだ。できることはするが、最後は神頼みだ」
そう言って兄は再び寝てしまった。
◇
3時間くらいはたったんじゃないだろうか。
兄はまだ起きてこない。
眠れない。
そしてやっぱりちょっと怖い。
焚き火のはぜる音、風が草を撫ぜる音、虫の声。遠くに聞こえる遠吠え。狼だろうか、襲ってはこないらしいが。
音が怖さを少し和らげるが、聞こえるのは自然の音だけで人が立てる音はしない。脳内BGMも今は流れてない。
500年前、夜中に山道を車でたった1台だけで走ってるときに感じた怖さもこれか。建物の明かりもなく街灯も乏しい夜の暗さが怖いと思っていたが、人の気配がないことの怖さだったのかも。
人の気配がなくて怖いが、でも人の気配がしても今は怖いぞ。
すぐそばで今突然人の声が聞こえたら漏らすぞちきしょう。
「私きれい?」
私のほうが美少女に決まってるだろちきしょう。
あれ?
なんかいる?
10メートルは離れてないだろう、草むらになにかがいる。
焚き火の明かりが届くか届かないかってあたりだ。
一瞬驚いたが、意外と私は冷静になった。
生き物だ。幽霊みたいな感じじゃない。むしろ少し安心したまである。
人みたいに見えなくもないのだが、だいぶ小さい。
はっきりとは見えないが、向こうもこちらをじっと見てる様子だ。
「アラン兄さん」
寝ている兄の身体を揺すり小さな声でそっと呼ぶ。兄はすぐに起きた。
「なにかいます。あそこ」
指でささずに視線で伝える。
兄はゆっくりと上半身を起こし、黙ったまま私の視線の先を見る。
そして。
次の瞬間、兄はなにかを草むらに向かって投げた。
斧だ。
同時に兄は立ち上がり、手を腰の小剣に添えて駆け出していった。
鈍い音がした。草むらに隠れていたなにかに斧が命中したようだ。
走ってそこにすぐ辿りついた兄は、そのなにかに剣でとどめを刺した。
兄が戻ってくる。
血のついた戦斧と剣を布で拭い、兄は再び腰を下ろした。
「なんだったの?」
「ゴブリンだ」
「え!ゴブリン!」
「アイは本当にゴブリンが好きなんだな」
「好きというわけではないんだけど。見てきていい?」
「いや、朝になってからにしてくれ」
「はーい。そうかーゴブリンだったかー。やっぱり危険だったの?」
「襲われる危険はない。おそらく、寝しずまってから食料や荷物を盗むつもりだったのだろう」
「なるほど。躊躇なく殺したね?」
「ゴブリンは繁殖力が高い。ハグレも放置すると群れになる可能性があるからな。ハグレを見つけたら殺すものだ」
なんか兄がどっかの世界は救わないゴブリンを殺すだけの人に見えてきたぞ。
じゃあ私は神官ちゃんポジ?この未来にも回復魔法ないのかな。
「後は俺が見張る。アイはそろそろ寝たほうがいい」
「うん、わかった。おやすみ」
怖さ、不安は急速に薄れた。
けれども私はしばらくの間、やっぱり眠れなかった。
◇
「これがゴブリン・・・」
朝。私はさっそくゴブリンの死体を見に行った。
緑色の肌の、指輪物語やD&Dや洋ゲーに出てくるようなイメージそのままのゴブリンだった。
大量の血の流れた跡があるが、内蔵が出てたりはしてないのでそこまでグロくはない。
グロくはないが。
動物の死体というよりは、やはり人の死体に近い感じがした。
オコンネル家の長男は戦死している。
戦争その他でこの未来が500年前よりも危険な世界であるのは間違いない。死が身近な世界だ。
しかし私は未だ人の死体を見たことはなかった。
この時代において、それはやはり恵まれていたことを意味するだろう。
私が今見てるのはゴブリンの死体であって人の死体ではない。
それでも人に近い。私にはそう見える。
私は命が簡単に失われる時代であることを確認する思いでゴブリンを見ていた。
「そろそろ出発するぞ。なるべく早く水場で武器を洗いたい」
「で、ゴブリンってなんなのよ。ファンタジーじゃん!」
「ゴブリンはゴブリンだ」
「遺伝子操作で作られたって聞いたんだけど」
「そういうことは俺にはわからん。魔法使い・・・科学者にでも聞け」
「それもよ。魔法ってなんなの。私の知ってる科学とは違うようにも思うんだけど?修行とか」
「だから俺に聞かれても困る」
「そうだ。私も魔法使えないかな?回復魔法とか。ジョジョ立ちすればいいの?」
いやナードにはなりたくないけど。
「勉強だな。貴族なら勉強することもできたろう。いや貴族出身者でなくても科学者になる者はいると聞く」
「へえ。どこで勉強するの?」
「そりゃ科学者の元でだろう。詳しいことは俺もわからないよ。ああ、でもやっぱり科学ならLAじゃないのか?」
「LA・・・」
科学(魔法)都市LA。
LAのことはイーメン先生から聞いてはいた。
500年前のロスアンジェルスという名称は今ではほとんど忘れ去られたらしい。
「私が科学を学んだら魔法美少女になっちゃうね。魔法美少女アイ。あれ?いやちょっとやばくないかそれ。ゴブリンもいるしこの世界は触手もいたりするの?えっちなことは禁止!」
「いいから行くぞ」




