第24話 ナマ足魅惑の美少女
「踊りたい」
朝、夜警から幌馬車に戻ってきた兄に私は言った。
「もう数日踊ってない。踊りたい。曲のリクエストある?おすすめはそうだなあ、HOT LIMITとかどう?」
転!生! アイが兄を刺激する 旅立つ未来はマジ中世~
これまでのあらすじ。
「ああ!昨日の水場でHOT LIMIT出来たじゃん!ああああなぜ踊らなかったし私。悔しい!次の水場で私HOT LIMITするからアラン兄さんは爆発して」
「爆発する?」
「本当に爆発しなくていいから爆発役やって」
兄は黙る。その目やめて。
「今は踊らないほうがいい。今日は体力を使う」
「うん?どういうこと?」
「今日の午前中にカラバーナとは別れる。徒歩で行く」
「ああ、もう3日目だね」
「今日一日はカラバーナに同行して明日の朝別れるつもりだったんだが、昨日の休憩がちょっと長くなったからな」
「なるほど?」
「万が一、追っ手にカラバーナが怪しいと勘付かれても3日は追いつかれることがないと計算していた。だが昨日の休憩で少し怪しくなった」
「そういえば私たち逃亡中だったね。ほとんど忘れてた」
「まず大丈夫だ。ここまでほぼ誰にも見られていないはずだ。これも念のためだ」
そう言うと兄は座ったままの眠りについた。
◇
「じゃあな」
3~4時間後、私と兄はカラバーナの一行に別れを告げる。
とは言っても道は一本、進行方向は同じなので、私たちがカラバーナを先行して歩いている感じだ。
「鹿肉もらえてラッキーだね」
餞別なのか私の14歳の誕生日プレゼントなのか、カラバーナの男は別れの際に一塊の鹿肉をくれた。
誕生日プレゼントと考えると何十年ぶりなんだ。美少女に生まれ変わって初めての誕生日プレゼントが鹿肉。ワイルドだな。
でも兄に肉を渡してたから誕生日プレゼントじゃないな。やっぱり美少女へのプレゼントが肉はないよな。
「どのくらい保つの?」
「干し肉でも燻製でもなく塩だけだから、2~3日ってとこか」
「じゃあ明日食べよう!昨日食べたから今日はいい」
「そうだな」
今日もいい天気だ。
14歳美少女の足とはいえカラバーナ隊よりは私たちの歩くペースは早く、徐々に距離が開いていく。
そして木々とカーブでカラバーナたちの視界から遮られる場所で、私たちは街道を外れて草むらに踏み入れた。
「さすがに歩くのもちょっと大変だね。道って偉大」
「怪我するのが一番危険だ。あまり急ぐ必要はないから、注意して歩けよ」
「わかった」
とはいえ今のところはそこまで悪路とも言えない。
それより街道から離れて人の手がまったく入ってない場所を歩いているということが不安を生む。
「アラン兄さん、狼とか出たりしない?」
「狼?狼が人を襲うことはまずないぞ。よほど飢えてたり病気で狂った狼くらいか」
「えっそうなんだ」
「それよりあれ」
兄が指さした方向を見ると牛の群れがいた。牛というか、あれはバイソンかな。
「ああいう群れに近づくほうが危ない。狼よりよっぽど攻撃的だ。絶対に近づくな。美味いんだけどな、俺一人では狩るのも無理だな」
「兄さんでも無理なの?」
「ああ。熟練した狩人なら1人でも狩れなくはないだろうが、それでも危険だ。俺は兵士で狩人ではないからな。弓も使えるってだけで上手いわけではないしバイソン狩りは無理だ」
「へえ」
たしかに闘牛見ても牛一匹でも危険なのに、その群れなんて戦車の大軍みたいなものか。
ごめん闘牛も見たことないけど。アイちゃん嘘言いました。
「まあこれだけ距離があれば大丈夫だ。心配することはない」
「そっか。そういえばさ」
「ん?」
「今どこ向かってるの?アラン兄さんはこのあたりの地理も詳しいの?」
「いや、さすがにもうここまで来ると俺も地理はわからない」
「えー、じゃあ適当に進んでるってこと?迷うんじゃないの」
「さっき遠くこの先に村があるのは見えた」
「ああ、じゃあ村に向かってるんだ」
「いや、まだ今日は村は避けようと思う。念のためにな。ただ、村があるなら道もあるだろう」
「ふむ。えーと、じゃあ今日も野宿ってことですか」
「そうなるな」
そうかー。まあもう野宿も慣れたし。ワイルドだろう?
「私ワイルド美少女って新ジャンルかもしれない。あ、家があるよ」
やや遠くにぽつんと1軒だけ家があるのが見えた。
家と言っても粗末な小屋で、あばら家とも言えそうか。
「ああ、あるな」
「人里離れて1軒だけ、森の端に。魔女でもいるのかな?」
「狩人が使ってるんだろう。一応あまり近づかないでおこう」
「魔女じゃないのか。残念。どう見てもお菓子の家じゃないしね。お菓子の家なら向かったのに」
「見え見えの罠でも引っかかるタイプか、アイは」
「そんな餌に釣られクマー」
もちろん兄には通じない。通じなくても気にしない。
なお兄もスルースキルを身に着けたようだ。兄は黙る。
そのまま無言で私と兄が道なき道を進むと妙なものが見えてきた。
岩の上に誰かが立っている?
さらに少し近づくとますます奇妙なものが見えた。
「なにあれ」
ジョジョがいた。
◇
岩の上にジョジョが立っている。
正確には、岩の上で粗末な服を着た男がジョジョ立ちをしている。
「え?なにあれ。ジョジョ?」
「ジョジョ?」
「ジョジョ立ちにしか見えない」
奇妙な男はジョジョ立ちのままじっと動かない。
あっ今ピクリと動いた。
「あれはナードだ。小屋は狩人じゃなくてナードの住まいだったんだな」
兄は男を眺めながらそう説明する。ナード?
「ナード?ナードってオタク?」
「オタク?」
「オタクっていうのはほら、ナードとかギークとか」
「ギーク?ギークはドクター・ピーター・デュエルみたいな科学者のことだろう」
ああ。ドクターがギークというのはわかる。
ナードはなんだ、ジョジョオタクなのか?ゲロ以下の匂いがプンプンするのか?ちょっとしそう。ジョジョ男の見た目は粗末なだけでなくちょっと汚い。
「じゃあナードって何?」
「うーん、隠者とでも言えばいいか?」
「隠者?仙人みたいな?」
「人と交流を絶ってこうして修行をしてる人間だ」
「修行?なんの修行なのこれ。スタンド?」
スタンドって修行で身につくんだっけ?
「魔法だな」
「えっ!魔法?」
「貴族の間で言う科学だな。平民は科学を魔法と言うことが多い。ああなるほど、そこはギークと似てるところはあるのかもな」
魔法の修行してるってことはやっぱり仙人みたいなものか。ヨガの行者とか。
いや魔法は科学なんだろ?科学の修行ってなんだよ。ナードの科学は世界一ぃ?
「科学の修行ってなによそれ」
「俺に言われても困る。ドクター・ピーターのような科学者は協会などで学んでいるが、ナードはこの男のように過酷な修行を通じて科学を体得しようとしている」
「ちょっと待って。科学って修行して体得するものなの?久々に脳バグる」
「勉強して学ぶ科学と修行して身につく科学があるんだろう」
「いやわかんないそれ」
「俺にもわからん。一応、ナードも知識人だ。本を読める」
ん?つまり?
「あれ?兄さんは文字の読み書きはできないの?」
「少しはできるぞ。だが本を読むのはまず無理だな」
ほほう。
初めて私が兄に勝てるものを見つけたぞ。
美少女ってだけで勝ってるけど。
「そうかそうか。兄よ。今後何か読む必要があったら私を頼りなさい」
「そうするよ」
しばらく立ち止まってジョジョ立ちのナードを見ているとなんだかうずうずしてきた。
岩の上でHOT LIMITできるじゃん!
「兄さん!私もナードの隣でHOT LIMITしてきていい?」
「やめろ」




