第23話 変態美少女
あーるー禿げたーヒーゲーおやじー
アーキーバーへつくーば線~
ドナドナドーナードーナッチョ!ツー!
暇。
売られてゆく子牛の美少女、私。
悲しそうな瞳で兄を見てやる。寝やがって。
夜警明けだから仕方なくなくなくない!500年前の私は夜勤バイト明けでもちゃんとゲームにログインしてたぞ!
ああ、空はとっても青いのに気分はドナドナドーナッチョ。
「○✕△□~」
幌馬車が止まった。休憩か。インプラントをオンにしよう。
寝ている兄を置いて私は幌馬車の荷台から降りると、カラバーナたちが荷物を抱えて道を外れて歩いていく。
どこに行くのかと見ていると英語を喋る男が来た。
「水場だ」
「わかった」
幌馬車から兄の声がした。
気配を察知して起きたようだ。
さらに昨日採寸をした女性2人もやってきた。
「マントが仕上がりました」
「ありがとう」
さっそく羽織ってみる。
薄いウールの無地のマントは私の身体にはちょっと大きい。一部には革が当てられている。
眼の前の女性2人のマントを見るとカラバーナらしい刺繍が施されている。
いや私は今回カラバーナを初めて見たわけだけど、カラバーナのイメージに合う模様だ。
ちょっとうらやましいけど、刺繍までは時間がないのだろう。
すると私の視線とその意味に気づいたか、英語を喋る女性がこう付け加えた。
「カラバーナのマントをしてると、お嬢ちゃんも不愉快な思いをするかもしれませんから」
・・・ああ、なるほど。
そういうことか。
なんだか申し訳ない気分になってきた。
「良い出来だ。タイミングもいい。助かる」
兄も下りてきて私の横に立ち、女性二人にそのように言った。
彼女たちもにこっと笑って去っていく。
タイミング?
「アイ、私たちも行きましょう」
「言葉遣い。どこへ行くのです?」
「もちろん水場だ」
◇
「うううう」
今、私は裸だ。
すっぽんぽんだ。
正確には裸にマントだ。
マントの中はすっぽんぽんだ。
美少女がしていい格好じゃないだろう!
このまま誰かの前に出てマントを開いたらまごうことなき変態じゃん!中身おじさんだし変態じゃん!
なぜ美少女が変態に。逆だろう!美少女は見せるほうじゃないだろう!見せられるほうだろう!もちろん見たくなんてないけど。
「チュニックのベルトで縛るといい」
兄は変態美少女を前にしてなんとも思ってないようだ。
これじゃ変態美少女のほうがまるで変態みたいじゃないか。
「ほおら」ってやるぞこらおい。
もし実際にやってもたいした反応しなさそうだし憎い。
私は水場でカラバーナの女性たちと服を洗った。肌着も洗い、そして水浴びもしてさっぱりした。
でも私は替えの肌着を持ってなかった。着の身着のまま館から逃げてきたから。
洗った肌着は今乾かしているところだ。
そういうわけで私は変態美少女になってしまったのだ。
ちくしょう。
なお兄は替えの肌着を持っていた。
ちくしょう。
兄がマントにタイミングいいって言っていたのはこのことか。
マントもまだ出来てなかったら私どうなってたの?
全裸美少女?変態通り越してそれもう女神では?
いやマントくらい兄が貸してくれるか。でも兄のマント大きいから私が羽織ったら鉄郎になるじゃん。メーテルゥ!なんで美少女なのにメーテルじゃなくて鉄郎になってんだよ。あっ鉄郎の名字は星野だから星野アイじゃん。じゃあオッケー。
私が兄を呪いながら銀河鉄道を旅してるとカラバーナたちの空気が変わった。
特に男たち。
ひゅー
矢だ。
誰かが矢を放った。
矢が飛んでいった方向を見ると、ドサっと音がした後に一頭の鹿が立ち上がりよろめきながら走っていくのが見える。
「やった!致命傷だぞ」
カラバーナの男たちが数人、槍を手にして鹿を追っかけていった。
「カラバーナって弓矢も使うんだ」
「たぶん使えるのは数人だろう。弓で狩りが出来れば便利だからな。でも狩りはカラバーナの本業じゃない」
「アラン兄さんも弓できるの?」
「一応は。でもたいしたことはない。弓なら取締役のほうがうまい」
「まじかよ」
取締役が弓。全然イメージ合わない。でも貴族なんだし狩りくらいするか。
しばらくして男たちが鹿を持って戻ってきた。
解体が始まる。
「時間かかりそう。長い休憩になったね」
「アイの服が乾くよりは早く終わる」
くそう、今日一日変態美少女で過ごすのかよ。
やがてカラバーナ一行は出発した。
私は幌馬車の荷台でマントに身体を丸め、今度こそドナドナの子牛の気分で午後を過ごした。
◇
今日の野営は賑やかだ。
まず鹿を狩ったため、そしてカラバーナの若者が初めて大物を狩ったお祝いでもあるらしい。
鹿に致命傷を与えた矢を射たのは二十歳そこそこだろう若い男で、みなに祝われてとてもうれしそうだった。
ギターみたいな楽器は陽気な音楽を奏で、若い女性が魅惑的なカラバーナの踊りで周囲を盛り上げている。
「今日は私たちもシチューや肉をもらっていいよね?」
「そうだな」
私は鹿肉のバーベキューをもらう。調味料は塩を少しふっただけ。
「おいしいいいいいいいいいいい」
500年前の基準でも超うまい。
やっぱり保存技術だな。未来の食べ物があまりおいしくない理由は。
逆に高度な保存と流通の技術とシステムがあってこそ、500年前の現代人は美味しいものを食べられたのだろう。
味も技術と金で出来てるんだな。
シチューもうまかった。
13歳の美少女になったためあまり量を食べられないのが残念だ。
ミードを手に、兄と共に今日の主役である鹿を射った若者にお祝いの言葉を述べに行く。
ミードはカラバーナの間ではお祝いの宴会で振る舞われるらしい。
「おめでとう。そしてご馳走をありがとう」
若者は言葉はなにも発しなかったが、笑顔で返してくれた。
そして元いた場所に戻る途中、兄が立ち止まる。
「あっ!!!!」
兄がこんなに驚いてるのを表に出すのは珍しい。というか初めて見た。
「どうしたの」
「アイ。今日はアイの誕生日です」
「えっ!そうなの?知らなかった。あと言葉」
まじか。そういえば自分の誕生日も知らなかった。無職中年独身一般男性の脳には誕生日って言葉もとっくに消去済だった。
そうなんだ。
今日が私の誕生日。
私は自分の誕生日をどう受け取ればいいのかはやっぱりわからなかったけど、45歳の誕生日とはまるで違う。
新しいマントを羽織り、洗ったばかりの服を着て、私アイは14歳になった。
兄がミードの入った木杯をまた2つ持ってきた。
私はその1つを受け取る。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
ギター(仮)の音色に乗って、踊り子だけでなく何人かの若者も陽気に踊っている。
カラバーナの宴は盛り上がっていた。
今日が私の社交界デビューとも言えるかも。それはちょっと違うか。
「私も踊ろうかな」
「やめろ」
「なんでだよ!」




