第26話 美少女は全てを解決する(しない)
兄妹二人、田舎道を歩く。
平和だ。
道にも周囲にも他に人の姿はない。
昨晩は人の気配がないことが怖かったが、今はそんなことはない。
明るいだけで。陽の光の下ってだけで。
太陽すごい。
脳内BGM再生ポチッ。
イケナイ太陽ナーナーナーナナナーナナー
ここしかわからなかった。チェンジ!曲チェンジ!
ギーラギーラ太陽が真っ赤に燃える太陽だから太陽曰く燃えよカオス!
太陽が燃えている。
いやそんな天気じゃない。
のどかで平和な春の日差しの下、田舎道を歩いているだけだ。
500年前の日本の太陽燃えすぎだ。
「そういえばゴブリンからアイテムドロップはなかったの?」
「アイテムドロップ?」
「んー、なにか素材とかお金とか戦利品はないの?」
「ゴブリンにお金を使う知能はない。光る物を持ってることはあるが。素材?」
「肉とか皮とか?」
「アイはゴブリンの肉を食いたいか?皮というか腰に巻いた布は使えなくはないだろうが、欲しいのか?」
「いらない。なんだあ戦っても損だね。たいして経験値にもならないだろうし」
兄はスルースキル発動することに決めたようだ。
くそう。しばらく黙って歩く。
「あれ?遠吠え?犬っぽい。狼?」
「コヨーテだな」
「コヨーテ。襲ってこないよね?」
「ああ、コヨーテも人を襲うことはない」
「昨日の夜聞こえた遠吠えもコヨーテだったのかな」
「アイが聞いたのがそうかはわからないが、俺が昨晩聞いたのは狼だったな」
「そっか。私が聞いたのもさっきの遠吠えとは違う感じするからやっぱり狼だったのかも」
襲ってこないと兄は言うけど、やっぱり出会いたくはないな。
アイずきんちゃん気をつける。
「あなたも狼に変わりますか」
「変わらない」
「あなたが狼なら怖くない」
「狼ではない」
「違う!」
◇
小川を見つけて少しばかりの休憩。兄は武器を洗う。
「アイ、今日中に村に着くつもりだから洗濯は後で」
「はーい。肌着の替え欲しいんだけど」
「村で手に入れば」
まだ泳ぎたくなるような気候ではないが、裸足になって水遊び。
川面に視線をやると魚が跳ねるのが見えた。
「兄さん、兄さんは魚捕れたりする?」
「うーん自信はないがやってみるか」
兄は適当な枝でヤスを作り、それを手に魚を探し始めた。
私も後をついていく。
何度か兄は魚を見つけてはヤスを突くがすべてハズレ。
「難しいもんだねえ」
「そうだな。狩りもそうだが、漁で必要なのは技術だけではなく情報だ」
「どういうこと?」
「どこにどの時間にどんな獲物がいるか。獲物はなにをしていてどういう行動をとるか。漁師や猟師はそういう情報を持っている。その上で技術を使う。俺はそうした情報を持ってない」
「なるほど」
「戦もそうだ。一対一の戦いでは相手をどれだけ知ってるか、情報を持ってることで優位に立てる。逆に情報がなければ勝つことは困難だ。俺は指揮官ではなかったが、軍を指揮するのも同様だろう」
「情報が大事だというのはわかるよ」
「俺たちが追っ手から逃げられたのも、もう逃げられたと言っていいと思うが、それも追っ手に情報を渡さなかったからだ。十分な情報を追っ手が得ていたらどれだけ急いで遠くに逃げても結局は捕まるだろう」
「すごいね兄。それどこで学んだの。やっぱり家兵としてそういう教育受けるの?」
「いや、経験だな」
「経験か。なにを経験したんだ。えっちなことは禁止です」
「俺は愛人の子だ。アイの兄だが、アイと違って貴族ではない。貴族として扱われていない。だが平民兵士からは平民とも見られてない。館では異分子みたいなところがあった。だから観察するのが習性みたいになったのかもしれないな」
「ああ、わかる気するよ。私も500年前は異分子みたいなもんだったし。でも情報は大事だけど質の悪い情報摂取してると間違えるよ。あっ!あれ」
私から見た兄の背後、10メートルほどは先に二匹の動物が現れた。水を飲みに来たようだが・・・
私の視線を見て兄も後ろを向く。
私は小声になる。
「あれ、狼?」
「いやコヨーテだな」
「ああ、小さいとは思った。コヨーテか」
「さっき吠えてたやつらかも知れないな」
兄妹二人でじっと観察していたが、水を飲み終えると二匹のコヨーテは再び草むらに消えていった。
「俺たちもそろそろ出発するぞ。魚獲りはやっぱり無理なようだ」
「うん。どうせ今晩は鹿肉だからいいよ。鹿肉だよね?」
「ああ」
◇
小川から戻り再び他に誰もいない道を私たちは歩いていく。
コヨーテに遭遇したが何もなかった。
魚も肉も皮も戦利品はなかったが、野獣に対する不安は減った気がする。
そうか、ちょっとだけだけど私がコヨーテ、野獣の情報を得たからか。
脳内でコヨーテの歌を検索したけどなにもなかった。
狼の歌もちょっと難しかったのに、コヨーテはないか。
「男は狼なのよ。気をつけなさい」
「俺は狼ではない」
「わからないよ?兄さんも狼になるときはあるんじゃない?」
「狼にはならない」
「違う!500年前の日本では男は狼で通じるの!赤ずきんちゃんは気をつけるの!アメリカだと狼って何?ステッペンウルフ?ワイルドだろうで行こう?いや一匹狼かな」
「ああ、今の俺たちも一匹狼みたいなものかもしれないな」
「二匹だよ」
やがて道の先に村が見えてきた。
村だ!
私にとって未来の中世で初めての村だ。
ちょっとワクワクする。
第一村人はどんなだろう。
ほぼ私のせいで、私たちの歩く速度が少しだけ早くなる。
視界にある村がだんだん大きくなり、何人か人がいるのも確認できる。
ん?
おや?
村人がみんな黒い。あ、黒人だ。
「黒人の村?」
「そうだな」
兄は気にする様子もなく歩いていく。私ももちろん後に続く。
カラバーナに対しては兄に警戒する様子があったがそれもない。
村の入口に着き、そこにいた第一村人に兄は話しかけた。
まだ30歳にはなってないだろう第一村人の男は柵の修繕をしてるようだ。
「ハロー。すまん、ちょっと聞きたいんだが」
「よう兄弟。○✕△□」
「うっ」
兄がたじろいでいる。初めて見た。
そしてbroだ!第一村人がbroって言ってる!以前私が兄をどう呼べばいいか検討したbroが出た!これもう桃園で誓っちゃう?
「アイ、すまん。こっちの言葉は通じてるようだが何を言ってるのかわからん」
「きっついスラングみたいだね。私に任せなさい、翻訳するよ。ンプォ!」
私は兄の前に出る。
「ごめん、なんて言ったのかしら」
「よう嬢ちゃん。こんな村までなんの用事だ?」
「兄さん、なんの用事だ?って言ってる」
「この村に皮職人はいるか?」
「○✕△□」
「あっちだって。太鼓の音がするほうに行けって。ハックって名前の男の人らしいよ」
「そうか。ありがとう」
「ありがとう」
「いいってことよ。またな」
たしかに村の奥のほうから「ドン」とか「バチ」って音が聞こえてくる。
私と兄は村に入り、音が聞こえてくる方に向かう。
「黒人いるんだね。そりゃそうか」
「カンザスには少ないけどな。このへんの黒人村は昔南から逃げてきた人たちという話だ」
「逃げてきた?」
「南には白人だけが人間だと言っている教会がある。だからだろうな」
なあるほど。
太鼓の音の発生源にたどり着く。
民家の隣の作業場で一人の中年の男が太鼓の修繕作業をしていた。
「ハロー。俺はアランだ。ハックか?」
「よう兄弟。そうだ、俺がハックだ。何か用か?」
「この娘の靴を作れるか?旅行用だ」
「○✕△□」
「兄さんの足のサイズなら用意してある革があるから一日でできるが、美少女の靴は一からだから三日は欲しい、だって。つまり美少女は特別。美少女だから」
「そうか。三日は厳しいな。修繕だけしてもらえるか?」
「おうよ」
「銅貨8枚でいいか?」
「5枚でいい」
私は靴を脱いでハックに渡す。
つまり私は裸足になった。
裸足じゃん。
裸足の美少女もとても美少女で美少女としては良いけど、裸足じゃん。
これで舗装もされてない道歩くのは厳しいでしょ。
「兄。私裸足」
「裸足だな」
「歩けない」
「靴の修繕終わるのを待て」
「どのくらいかかるの!」
「まだ日が暮れるまでは時間がある。そんなにかからない」
「だからどのくらい!何分!何時間!どうして未来の人って時間が適当なの!」
時計もそのへんにはないし、時間の感覚がそういうものというのはオコンネル家での生活でもわかってはいるのだけど。
元500年前の人間としてはたまにイライラしてしまう。
「兄さんチーズちょうだい。暇だし食べる」
「嬢ちゃんよ。そこにある干しリンゴ食べていいぞ」
職人ハックが吊るされている干しリンゴを指さした。
「いいの?」
「ああ、好きに食え」
やはり美少女。美少女は全てを解決する。




