第21話 幸運を呼ぶパワーブローチ
私は兄の隣に座る。
見上げると月が出ていて満天の星空でもあり、周囲はそこまで暗くない。
ただ少し先に見える森の影は漆黒の闇のようだ。
「カラバーナたちがお兄様を評価してましたよ」
「兵として仕事をしたまでです」
「今のアランの仕事は兄です」
「そうですね。でも家兵長補佐を辞めても私はやはり自分を兵だと思っています」
私が私を美少女と思ってるようなものかな?
なら、美少女としての仕事って何?
鏡の前で踊るのが美少女の仕事じゃあダメかな?
「お兄様は村人の前に姿を見せましたが、通報される危険はないのですか?」
「通報?自分たちに危険や被害があるわけでもないのに、わざわざそんなことはしないでしょう。追っ手の聞き込みがあれば微妙ですが」
「カラバーナも同じでしょうか」
「なおさらです。カラバーナは領民ではありません。衛兵や領主に通報なんてまずありえませんよ」
「そういうものですか」
「そういうものです」
カラバーナは盗癖があると言われている。
さっきの男たちも「盗人」と罵っていた。
たとえ事実はそうでなくても、そのように見られている。
そんなカラバーナが通報するというのは、500年前で例えるなら犯罪者グループがわざわざ自ら警察に顔を出すみたいな、そんな感覚かな。
追っ手がカラバーナを私たちの捜索対象にしないだろうというのもそういうことか。
「さっきの男たち以外には、今日一日おそらく誰にも見られていないと思います。明日からはもう、まずまず安全と思います」
「そうなのです?」
「ええ。お嬢様が館を脱走したことが相手に知られたら、やはり婚約破棄となりかねません。捜索も大々的にできないはずです。ここまで人に見られず逃げられたなら、追っ手が痕跡を見つけて辿るのはもう困難でしょう」
「アイです。なるほど。元本職がそう言うのなら、きっとそうなのでしょう」
「念のためもう少しオコンネル・カンパニーから離れた遠くにまで行こうと思いますけどね」
「その先は?」
兄は黙る。
優秀な兄でもそこまではまだ考えてないのか。
そもそもそれは兄の考えることではないか。
私が考えることだ。
ん?いや違うぞ。私は兄の妹で、兄は兄で私の使用人ではない。私が指示して兄が動くのではない。
「お兄様。お嬢様呼びをやめても今のままではまるで姫と家来のようです。私は美少女なので姫なのは事実ですが、兄は家来ではありません」
「はあ」
「明日からは兄妹のフランクな会話をしますよ!そういう練習をしますよ!いいですか?」
「努力しましょう。しかし、私がフランクに喋ると平民言葉になりますよ?アイには通じないのでは」
きついスラングみたいな感じなのか?
「今は通じなくても、この先私も平民言葉を理解する必要はあるでしょう。そういう意味でも練習です!」
◇
日の出とともにカラバーナたちも活動を始めた。
兄に聞くと、野営地は私が寝た後なにごともなくまったく平和だったようだ。
ゴブリンが出たら起こしてくれと頼んでいたのだが出なかったと。
本当だろうな?
「お嬢様・・アイ。カラバーナと話をしますが、一緒についてきてください」
兄がそう言うので、私も兄と共に昨日の英語を喋る男のところに向かった。
「モーニン」
「おう。おはよう。夜警お疲れ」
「ああ。忙しいところ悪いが、追加で欲しいものがある。まず毛布をあと一枚」
「わかった」
「あと、この娘のマントを仕立ててほしい。大きめで頼む。できるか?」
兄は私の肩を軽く叩きながら、男に要望した。
男は眉をしかめる。
「マント?仕立てることは出来るが・・・しかし俺達はもうここを出る。時間的に無理だ」
「それはそうだ。ここからどこに向かうんだ?」
「セントルイス方面だな」
「そうか。ではこういうのはどうだ?私たちもお前たちに同行する。その間にマントを仕立ててほしい」
「は?同行だと?」
「そうだな。3日ほど同行したい」
「いや、それは」
「昨日みたいなことがあれば私が対処できるだろう。夜の警備もしよう」
「ちょっと待ってくれ」
男は少し慌てたようにそう言うと背を向けて少し後ろにいた別の男のところに行き、相談をはじめた。
私は聞き耳を立てる。
ぎり聞こえる。
「あいつらが3日の同行を求めてきた」
「ああ?同行?それはやっかいだな。ワケありだろう。どんなトラブルに巻き込まれるかわからない」
「そうだな。兵士であっても普通なら断るが」
「なにか考えがあるのか?」
「あいつは面倒ごとの処理と夜警をすると提案してきた」
「ふむ。昨日助かったのは事実だな」
「断ってごねられても困る」
「うーん、メリットは実際にある。デメリットは可能性か」
「そういうことだな。あいつらの事情は不明だ。だがおそらく、あいつらと俺達は利害が近いところにある。あいつらがすることは俺達にも利となる可能性が高いと思う」
「昨日のようにか?」
「そうだ」
「わかった。同行させよう」
「よし。みんなにもお前から言っといてくれ。あと馬車の荷台も2人分空けとけ」
「歩かせずに馬車に乗せるのか?」
「一人は子供だし、それもおそらく貴族だろう。そうするほうがいい」
男が戻ってきて兄に向かって頷く。
まあ、私はばっちり聞いてたんだけど。
「ありがたい」
「マントは急ぐのか?」
「いや、3日の間に出来れば良い」
「わかった。片付けたらすぐ出発するからマントの採寸は後で採る。荷台を空けてあるからそこに乗れ。昨日寝てないんだろう?」
「助かる。礼をいう」
◇
そうして今、私と兄は幌馬車の荷台で揺られている。
道なき道を進まずともまず見つかる心配はなく、そもそも歩かずにも済んでいる。
「お兄様は本当に優秀ですね。すべてうまくいってますね」
「やれることをやっているだけです」
「それが難しいんです。私は自分がなにをやれるのか、なにをやれないかもわかりません」
「まだ13歳ですから当然です」
中身は45歳だけどな。
「それにしても今逃亡中とは思えないくらいです。のんびり馬車に揺られて」
「このまま3日も進めば十分安全な場所と言えます。村や町に入っても大丈夫ですから、そうしたらまずアイの靴を作りましょう」
「靴を作る?」
「アイが今履いている靴では旅をするには厳しいので」
そうではなく、靴を買うのではなくわざわざオーダーメイドするのか?と疑問に思ったのだけど。
マントも仕立てると言ってたな。
「アイの服も身分がバレるので出来れば替えたいところですが、少々お金が心もとないです。マントで隠します」
「そういえばそうです。旅費は十分にあるのですか?」
「十分余裕がある、とは言えないかもしれないですね、正直。私もちょっと甘く見てたようです」
「お兄様のせいではありません。そもそも私は元貴族の娘なのですから、私こそ十分なお金を用意しておくべきでした。館を出るときもう少し時間があれば、あるいは先にわかっていれば。いや、あれ?だとしても私そもそもお金持ってませんでしたね。あれ?貴族の娘、お嬢様だったのに一文無しだった。どういうことなのかしら。お嬢様って無職より貧乏なの?」
「・・・お金を使う必要がないってことでしょう」
「納得いかない。札束風呂に入ってたりするんじゃないの?それは幸運を呼ぶ謎のインチキアクセサリーか。そうだ、お兄様。私のこのブローチ、これを金も女もざっくざく降ってくるなんとかパワーブローチと騙して売るのはどうでしょう?」
身につけてるブローチを兄に見せる。
「なんとかパワーとか言わなくても普通に高額で換金できますよ。ちょっと大きな町にいかないと難しいですけどね」
「え、そうなんだ。じゃあ売ろう!私美少女だけどブローチわからないし興味ないし。売って美味しいものでも食べましょう。いや、この世界おいしいものないよね基本まずいよね。なるほどだから料理チートラノベが成立するのか今理解した。料理系興味なくて読んだことないけど。じゃあなに買いましょうか?ゲームもないよね当然。なにがいいだろう?」
「服ですね」
「そうですね」
「じゃあそろそろ私は少し寝ます。今晩も夜警するので」
「ええ!?寝ちゃうの?暇になっちゃうじゃん。でも仕方ないですね、お疲れ様です。でも兄妹のフランクな会話の練習しようと思ってたのに。今だって私がんばってフランクな口調してたのに!いやそうか?脳内垂れ流しって口調?」
「アイの脳内は平民言葉よりアレな気がしますが、お互いの口調の練習は起きたらしましょう」
「わかりました、おやすみ」
馬車はとことこと進んでいく。隠れているので外の風景はあまり見えないが、とても穏やかな空気だ。
馬車のリズムで私も眠くなってきた。でも今寝たら夜眠れなくなってしまうな。
それにしても、思ってたよりはるかに簡単に脱出してしまった。
そして思ってたよりはるかに楽に旅をしている。
もちろん、私一人で逃げてたら無理だった。今ごろ泥を啜ってたろう。
私はすぐそばに座ったまま寝ている男を見る。
「兄のおかげだね」
私はそう呟く。
いやなんか違う気がする。
実はどう呟くか悩んだ。
「兄のおかげね」「兄のおかげだな」「兄のおかげです」「兄のおかげだわ」「兄のおかげなのじゃ」「兄のおかげでござる」
お嬢様でなくなった美少女の口調ってどんな感じなのよ!?
ここに来て自キャラのキャラクリに悩むとは!




