第14話 ドキッ!中年男だらけの夕食タイム
※プロローグにイメージイラスト(AI生成)を載せました。
「お兄様?」
「なんでしょうか。お嬢様」
兄、アランは視線の向きを変えぬまま直立不動で答えた。
「どうかなさったのですか?こんなところでお見かけするなんて珍しい」
「なんでもありません。いつもの警備です」
今までここにいたことなんてなかったのに。
「少しだけお話してもいいですか?」
「申し訳ありません。勤務中です」
うーん。
真面目な家兵の態度ではあるのだけど。
「私たちは父は違うと言えども兄妹です。そこまでかしこまらなくてもいいではありませんか」
「いえ、兄妹ではございません。あなたはオコンネル取締役家の娘です。私は取締役家にお世話になっているただの平民家兵に過ぎません」
「そうですか」
兄妹ではない。
おかしい。
侍女から聞いた話とはだいぶ印象が異なる。
館からの脱出は一人では厳しい。この世界での私の交友関係は非常に小さく頼れる当てもない。500年前も人間関係ミジンコだったような気もするが忘れましょう忘れました。
そういうわけで、これまで喋ったことはなかったが兄であるアランを頼れないかと、ふと思ったのだ。
意を決して近づいてみたのだけど少々厳しそうか。
「お仕事の邪魔をしてごめんなさい。重ねてすみませんが、乗るのを手伝ってもらえませんか」
「かしこまりました」
背を向けて馬の前に立つ私の細い腰に、兄の大きな手が触れる。
あたたかかった。
☆
時は少しばかり遡る。
「はっはっはー。ここまでうまくいくとはな!」
オコンネル家の館の食堂。男2人と美少女(中身無職独身中年)の姿があった。
以前にもあった、夫人の不在がプレゼントした取締役の息抜きし過ぎ中年男ばかり(一人美少女)の夕食タイムだ。ポロリはないよ。
「ご機嫌ですね。ご機嫌過ぎないようお願いしますお父様」
「私が名実ともに当主の立場に返り咲くまで後少しだからな、機嫌良くなるのも当然だろう」
「計画うまくいってるんですね」
「ああ。まず確実だ。これで失敗したら私はもうフアナの右手薬指の根本あたりにあるまず見えることのない小さなほくろになるしかないくらい確実だ」
「なれるんですか?その技術をビジネスに活かすことをお考えになっては?」
「なるほど?アイの中身君。君も見どころがあるね?目の付け所がシャープだシャープすぎる。嫁に出すのがもったいないと思ってしまうほどだ。もちろん婚約破棄は不可能だ、君も君の仕事をやり給え」
先を越された。わかってたけど。
「そうだアイ。アイの中身君。見せたいものがある。アイには既に見せているんだが、アイの中身君はまだ見たことなかったはずだ」
「なにを見せようっていうんですか!やめてください今の私はえっちなものは禁止です!」
「何を想像してるんだ。娘に変なものを見せるわけがないだろう」
「娘とエロ話しようとしてたくせに。で、なんでしょうか」
「婚約相手だよ。ロズウェル中将の肖像画がある。私としてはすでに娘に見せているから中身君に見せることをすっかり忘れていた。すまんすまん、どんな顔なのかずっと知りたかったろう?」
「男の顔に興味はありませんが・・・」
「そうだ。だからこそ安心してイケメン家庭教師を付けたんだ。でもちょっとくらい興味ないかね?」
どんな男かくらい見てやるか。
結婚するつもりはないが。ないのだが。
「そうですね。拝見します」
「おい、持ってきてくれ」
使用人が肖像画を持ち私の席にやってくる。ちょうどお見合い写真みたいだ。45歳無職独身見合いしたことないけどな!
「んん?」
イケメン、なのか?写実的な絵と思ったら違った。
目とか昭和の少女漫画みたいだぞ?背景これバラか?半分ピカソ入ってるぞ?これ肖像画の機能果たせてるのか?
「えーと?」
使用人の顔を見る。使用人は気づく。
「大変失礼しました!これはフアナ様のコレクションですね、どうして・・・あらためて持ってまいります!」
再び見せられた今度こそ正しいものだろうお見合い肖像画。もう婚約済だが。
ロズウェル中将は予想よりだいぶ若かった。二十歳いってないかもしれない。イケメンの類ではあるだろうがイーメン先生には届かない。かなり盛ってそうだけど。
自分の中で男の顔の基準がイケメンイーメンになってしまってる。これじゃ彼氏作るのも難しいじゃないか。一生彼氏できなかったらどうしてくれるんだイーメン。責任とって?
いや違う。
儀式を始めます。
◇
「それではお父様。私はこれで」
存在のうるさい夕食タイムも終わり、アイ・オコンネルが退出する。
「取締役。彼は館からの脱走を考えてる気配がある」
美少女とその侍女の姿が消えたのを確認し、ドクター・ピーター・デュエルが口を開いた。
「彼ではないだろう私の娘だぞ?でも彼だな、ややこしい。うむ。イーメンからもそのような話を聞いている」
「あくまで冗談ではあったし脱走しても生きていけないことを十分理解してるようなので、大丈夫だとは思うが」
「念のため監視をつけておくか」
「いっそ脱出させてしまうのはどうだ?痛手もあるが、もはやオズ・バーボンの成功でそれも埋められるのは確実なのだろう?婚約破棄となったほうが取締役の功績の評価もより高まる」
「ドクターがそのような陰謀じみたことを言うのは珍しいね。わざわざそこまですることもないだろう」
「天才科学者に陰謀はつきものなのだよ!いやたしかに。私らしくないと自分でも思う。どうかしてたようだ」
「実はドクター、この計画にわくわくしてただろ?ちょっと秘密計画ぽくて変な空気に呑まれちゃったろ?フアナに内緒ってだけのことだが」
「取締役、私はアイ嬢からスルースキルを獲得済なのだよ。しかし監視させるなら誰に?アイ嬢の秘密を知る者はわずかだし監視役などできない」
「そうだな」
取締役はしばし考える様子を見せる。
「いっそ家兵長補佐に監視をやらせるのはどうだ?」
「アランだったか?アイ嬢の兄だろう?接触を警戒してたのでは?」
「うむ。だがよく考えてみれば彼が勘づいたとしてもいきなり騒ぐようなことはないだろう。そういう男ではない。家兵の中でも優秀で信頼できる者だ」
「そうか。アイ嬢も貴族の娘らしさが身についてきてるしバレる可能性も低くなってるだろう。いやそうか?あれ貴族の娘らしいか?取締役、本当に結婚させて大丈夫なのか?あれ」
「あれとか言うな。黙ってれば大丈夫だろう。たぶん。大丈夫じゃないかな。まちょっと覚悟はしておけ」
「黙らないだろうな」
「さすがに結婚したら落ち着くだろう」
「いや、取締役の娘だぞ?そっくりだ。存在がうるさい」
「中身は私の娘じゃないのだが」
「そういえばそうだ」
「誰に似たんだろうな。いや、これここで使う言葉か?ちょっと違くないか?」
「話を戻してくれ」
「ドクターが脱線させたのだろう。ともかく、そうだ、リサも亡くなった。アイの母親、つまり家兵長補佐の母親でもあった。今の彼にとってアイは唯一の肉親ということになる。家兵長補佐もアイを脱走させたくはないだろう」
「なるほどな。中身は違うが」
「バレるかな?バレないよね?」
「知らん。まあ、そういうことを考えるのは私は得意ではない。逆に相談されても困る。取締役が決めればいい」
「もしアイが逃げたらまたフアナに叱れちゃうなあ」
「そうならないように対策うつんだろう。まあ、大丈夫だと思うがな。心配し過ぎだ」




