第12話 ブラック貴族あるある
継承権一位じゃなくなるってことは、私がオコンネル家の後継ぎという職務から解放されるってことだ。
ということは、どういうことだ?
「つまり私が後継ぎではなくなるから、えーとどういうことかな。私にとって良いことですよね!貴族の娘としての仕事が減るってことだし!負担が軽くなった気がします。いやあ肩の荷が一つ降りました!良かった良かった・・・ですよね?ね?ね?」
「アイ嬢。貴族にとって最も重要な仕事はなんですか?」
「家を次の代に継ぐことです」
「そうです。そのために?」
「えーとえーと後継ぎを作る。オコンネル家の後継ぎは私でした。私は今その任務から解放されました!おめでとう!ありがとう!」
「いえ。アイ嬢、オコンネル家の後継ぎではなくなりましたがあなたの仕事に変わりはありません」
「え、私後継ぎじゃなくなったんですよね。仕事なくなりました!無職!無職中年独身一般男性復活です!無職って素晴らしい!働いたら負け!私勝ちました!先生知ってます?もし私が結婚したら私負けましたわ。なんと回文です。これインプラント翻訳できるのかな」
「Yo! Banana boy. 負けませんよ?とにかく貴族の仕事、貴族の娘としてのあなたの仕事は後継ぎを作ることです。後継ぎになることではありません」
「はい。ん?あれ?」
「あなたの仕事は子作りです」
「やだ先生えっちなのは禁止です!」
あ、そうか。何も変わってないんだ。
「そうでした。私の仕事は結婚してこここえっちなことは禁止!」
「それが仕事です。禁止じゃなくて大事です」
「え、それが大事?負けないことですか?逃げ出さないこと?先生涙見せてもいいですか?忘れたいです。あとこれ著作権アウトかなでも今500年後だからセーフだよね」
「私もドクターからスルースキルを学びました。役に立ちますね」
「ひどい。そうでした私の継承権はそもそも仮だし私の仕事は婚姻でした。あーあーあー。一応ですが何のため念のため聞きますが婚約破棄できる可能性が出てきたりなんてしちゃったりしないですねはい」
「そうですね。逆に仮に婚約が破棄されたらアイ嬢にとって今までより辛いことになりますね」
「そうなんですか?」
「結婚があなたの仕事です。婚約破棄されたらあなたは仕事を果たせなかったことになります。継承権一位であればオコンネル家にいてもまだ役割があるにはありますが、それを失った今、あなたは家にいる限りなんの役も果たしてないことになります」
「つまり。つまり婚約破棄してオコンネル家にいたら私は私の仕事をしていない。つまり実家でなんの仕事もせず飯食ってクソしてるだけのごくつぶし。こどおじ?私こどおじになっちゃうの?あれ?よく考えたら私今でも子供部屋おじさんじゃないかしら」
「アイ嬢、淑女としての言葉遣いを心がけるように」
「はい」
要は家にいたら今の取締役みたいになる。
アイ、わかった。
「アイ嬢は婚約も済んでいて家を出ることがわかってるから、風当たりがお兄さんほどには今のところないんですよ」
「そうでしたか。そう考えるとたしかにそうですね。ん?いやあれ?お兄様の仕事は子作りじゃないですよね?オコンネル家の息子ではないですし。結婚せずともここでちゃんと仕事あります」
「あ・・・すみません。失言でした」
「どういうことですか?そういえば先ほどお兄様を見かけたのですが、様子がおかしかったです。先生なにか知ってるのでは?」
「僕からはなんとも言えません」
「せんせー?せーんーせーえー?」
「・・・」
返事がない。ただのイケメンのようだ。
「せんせーがそういう態度なら私も美少女の武器を使いますよ?いいんですか?美少女ビーム出しますよ?」
やばい。また男を忘れている、と一瞬思ったがこれは美少女じゃない。
これは男が考える小悪魔美少女でリアル美少女ではない。つまり女じゃない、男だ。セーフ。
◇
「仕方ないですね。この際ですから本当は貴族じゃない貴族の娘、あなたに貴族というものを教えましょう」
「微妙に失礼ではありません?」
「あなたはフアナ夫人によく思われてないことは気づいてますよね?」
「はい」
「それはおそらく夫人が女性だからだと思います」
「つまりそれは、やっぱり私が愛人の娘であることが理由でしょうか」
私の直接的なこの質問には、イーメン先生は答えなかった。
「あなたのお兄さん、アラン君もまた同じです。あなた以上に夫人はお兄さんを疎ましく感じている。出来れば追い出したいとさえ思っているでしょう」
「そのような空気は私も感じます」
「ですが、最初からそうではなかったのですよ。以前は夫人はあなたがた兄妹に対してそのような感情は抱いてなかったと思います。むしろ夫人は、あなたがたに対しても良くしていたと聞いています」
「へえ、そうなんですね。ちょっと意外な気もします」
「夫人が変わったのは、夫人が取締役よりも力が強くなってからです。あ、僕がこのような話をしたのは誰にも言ってはいけませんよ」
「秘密ですね。わかりました」
「あるとき取締役はお仕事で大きなミスをしたようです。僕は詳しくは知らないのですが、フアナ夫人が取締役のその失敗を助けた。それ以来立場が逆転した。夫人が力を持つようになったようです」
「そのことは私も知ってます」
「おや、そうなのですか。それは予想外でした」
「続けてください、先生」
「夫人の変化は、夫人の立場が強くなったためです。今の夫人は取締役の妻の立場を超えています。実質的には取締役より上の立場にあります」
「なるほど?」
「そして変化は夫人だけではない。私たちは貴族なのです。ここは貴族の家なのです」
「どういうことでしょうか」
「本来そうであるべき貴族家の形、関係、役割、あるいは秩序とでも言えるでしょうか。それが崩れました。そうなると貴族社会では自然に派閥が出来るのです。派閥が出来ると、次に対立が生まれます」
なるほど。でもそれは貴族に限らないかもしれない。
「取締役夫妻の仲が悪いわけではないのです。しかしそうであっても、周囲に作られた派閥とご夫妻は無関係ではいられません。貴族は人を従えます。同時に、従う者に動かされるのが貴族でもあるのです。これは覚えておいてください。アイ嬢も従う人間を選ばなければならない、その必要があるときはきっとありますよ」
従う者に動かされるのが貴族。
なんとなく、わかったような気がする。
「オコンネル家にははっきり対立だと言えるものはまだないでしょう。それでも派閥的なものはあります。たとえばドクター・ピーター・デュエルは取締役側と言えるでしょう」
「それはわかります」
「取締役はそれに気づいてないようにも思えますが。貴族としては少々困ったものです」
以前の夕食時を思い出す。
お母様には内緒の計画を二人は楽しそうに相談していた。それでもそれは、お母様に対する秘密の企みであるのはそうなのだ。
「そしてアイ嬢とアラン君。あなたたちもまた取締役派なのです」
「!」
「夫人があなたたちに対して夫人自身の意思で直接なにかをすることはまずないと思います。絶対とは言い切れませんが。それよりも、夫人の意思を超えて派閥が勝手に動くこともよくあります。先ほど僕は夫人があなたがたを嫌っていると言いましたが、それは夫人よりも夫人の派閥の意思かもしれません」
そういわれるとなるほど、そうである気がする。
「先生!もし私が結婚したら、お兄様はどうなるのでしょうか」
ホールでみた兄の姿が思い浮かび、思わずそう質問した。
「いい質問ですね。貴族の娘としてのあなたの仕事はなんですか」
「嫁いで子を作ることです」
「そうです。それはオコンネル家にとって必要な、あなたにしかできない仕事です。代わりはいない。アラン君の仕事は?」
「オコンネル家兵隊長補佐と聞いています。ヤードガード警備責任者でしたか」
「ええ、そしてアラン君は優秀です。しかしそれでもアラン君は代えがきく。警備責任者があなたのお兄さんである必要はないのです」
そういうことか。つまり。
「あなたが結婚したら、そして家を出たら、今のオコンネル家ではアラン君はいられなくなる可能性が高いでしょうね」
◇
「今日僕が話したことは口にしてはいけません。僕も少しばかり後悔しています。本来、軽率に人に話すことではありませんでした。しかしあなたが貴族を理解する助けになったなら嬉しいですね」
「貴族ってめんどくさいですね、先生」
「そういうものです。もしかしたら貴族だけじゃないかもしれませんよ」
「そうだ!良いこと思いつきました!」
「なんでしょうか」
「貴族やめましょう!ブラック貴族なんてやめればいいんです!先生!やめましょう!」
「責任を放棄してはいけませんよ」
「なんで!やめましょうよ!そうだ、先生好きです!一緒に逃げましょう!こんな美少女と二人で逃げるんですよ夢みたいでしょう?結婚したっていいですよ平民として。あ、でもえっちはダメです禁止です」
「あれ、アイ嬢知りませんでしたっけ?僕は結婚してますよ。妻も子供もいます」
「え」
ショック!
そして10秒後。
私は自分がショックを受けたことにショックを受けていた。
なんでショック受けてんだよ。




