第10話 ここラノベですか?
翌日私はドクター・ピーターの研究室にいた。
私が目覚めたベッドのある部屋だ。
正確にはこの部屋の隣がドクターのいつもいる研究室だが、ここもドクターが管理する部屋なので同じだろう。
自室でイーメン先生と昼食をとり午後の授業が始まってすぐ、侍女が「ドクター・ピーターがお呼びです。今日検査をするので部屋に来るようにとのことです」と伝えに来た。
先生は「今日はもう午後の勉強はなしにしましょう」と笑顔で言い、帰っていった。
予定が狂わされたはずだが不満そうな表情は一切みせず、終始素敵笑顔だった。
イケメンめ復習してやる。
間違えた、復讐してやる。
◇
「異常なしだ。絶対大丈夫とは言えないが、少なくとも数年は問題が発生することはまずないだろう。検査は続けるがね」
ヘッドセットがはずされる。
「ドクター、ちょっと聞きたいんですが」
「なんだ?」
「昨日の夕食会の最後に取締役から、お前の命はアイの命でもあるって言われたんです。どういう意味ですかねー。ドクターわかります?」
「ん?ああ」
ドクター・ピーターは少し歯切れの悪い顔をする。
「そうだな。以前、君の身体の本来の持ち主、取締役の娘アイ・オコンネル嬢の意識は痕跡すらも観測できない、そう言ったろう」
「そうでしたね」
「科学者としては、観測できないものは存在しない、ないものとする。つまりアイ嬢の意識は消え去った。君に対してはそういう意味で言った」
「はい」
「だが取締役にはそれを、少し違う意味で言ったんだよ」
「どういうことですか?」
「意識がないということも証明できない。現在の技術ではアイ嬢の意識を観測できない。回復する方法もない。でも将来は意識が観測されるかもしれないし、回復することがあるかもしれない。その可能性が絶対にないとは断言できない」
私は黙ってドクターを見る。
「取締役に対して私はそのように言った。まあ、慰めみたいなものだな。だから、君が生きている限り娘のアイ嬢が帰ってくる可能性はなくなってない、ダグ取締役はそう思っているのだろう」
「もし、その可能性が本当はないのなら、それは逆に残酷ではありませんか?」
「私からは可能性が絶対にないとも断言できないよ。とにかく私はそう言い、それを聞いて取締役はアイ嬢を意識のないまま身体だけ生きながらえさせるより、君の意識でアイ嬢を生かすことを選んだんだ」
「・・・実際に彼女の意識がまだどこかに残っていて、それが回復する可能性ってあるんです?そしてもしそうなった場合、私はどうなるんです?」
「私からは何も言えない。それは科学の範囲外だ」
すっきりとはしない。
もしアイ・オコンネルの意識が回復したらどうなるのだろう。
二重人格とか?シミュレーションしてみるか。
「ねえそこの私の脳の半分に居座ってる無職中年独身一般男性!」
「アイ嬢。その呼び方はやめてください」
「私の裸見たんでしょ?」
「そ、それは・・・」
「見たんでしょ?見ないわけないよね。無職中年独身一般男性なんだし」
「それは、それは仕方ないでしょう」
「どう責任とってくれるのよ。あ、結婚しろって言ってるんじゃないから。当たり前でしょ!どう落とし前つけてくれるの?ねえ?こらおい」
キャラクリ失敗した。
絶対アイ嬢こうじゃないだろ。無駄なこと考えるのはやめよう。
◇
「ドクター、そういえばまだ質問ありました。全然違う話ですが」
「なんだ?」
「前に家庭教師からゴブリンやオークがいるって聞いたんです。本当ですか?ドクターが詳しいみたいに言ってたので聞こう聞こうと思ってて忘れてた」
「ああ、いるよ。普通にいる」
「どういうことなんです?500年前にはそんなのいませんでした。ラノベの中とかにいました。ここラノベですか?」
「ああ、科学時代にはいなかったろうな。遺伝子操作で作られた生物だよ」
「えっ。無職中年独身一般男性の遺伝子を操作したんですか?なぜ?いったい何のために!理由によってはイケメンに復讐も辞さない」
最近ドクター・ピーター・デュエルは私の発言の80%くらいをスルーするスキルを身に付けている。
「彼らが生まれた、作られた理由には様々な説がある。私の仮説では、いや、そんなことを説明してる暇などない。君の知識では私の説明を理解するのに1年かかるだろう」
「えー、ケチ。あっ。ゴブリンとかオークがいるならエルフもいるんですか?いるんでしょ?いてください!できれば胸の大きなエルフを希望します!ロアフレンドリーではないかもしれないけど」
「胸の大きなエルフ?君は宗教論争をしたいのか?」
「私が間違ってました。話を変えましょう」
「それよりいい加減に部屋に帰りなさい。もう検査は済んだよ」
「えー暇なんです。帰ってもすることないし。今日はもう家庭教師の先生の授業はないし。ドクターが邪魔したから」
「それはすまないね」
「ほんとですよ!今日は銀河の果てのレストランにマックスヘッドルームがいたら何を語ったか、それをRap godの歌詞から探っていく授業だったんですよ。私とっても楽しみにしてたのに!」
「いったい何の授業だね?それは」
「いいですか?私の仮説では鍵はscrews up in my head loseにあります。正気じゃないという意味ですが、ドクター気づきましたか?マックスヘッドルームと韻を踏んでます。あれ、でもこれ曲違ったかな」
「正気を失ってるのは君のように見えるんだが」
「失礼な!私は貴族の娘です。淑女足らねばなりません。これは淑女として必要な知識なんです。今それを学んでるんです」
「そろそろいいかな?私も暇じゃないんでね」
「ドクターはわかってません!あ、わかりました!私は貴族の娘として必要なことを勉強しています。それに比べてドクターは貴族でも元貴族、継承権捨てて貴族家から逃げ出してますからね。貴族の常識というものを知らないんでしょう?ドクターなので今も貴族ではありますが、ドクター・ピーターなんてドクターがなかったらただのピーターですよ、ピーター。フリーピーターです!」
「そこはジャストピーターだ。私を無料にするな。いいから帰りなさい」
たしかにそろそろ限界、やりすぎかな。
「しかしアイ君。君もだんだん男よりも女性みたいになってきたね。アイ嬢に馴染んできた。最初からそうだった気もしなくもないが」
「え」
え。
これはいけない。儀式の時間だ。
まず目を瞑ります。
次に脳内にドクターを想像します。用意が出来たらドクターを脱がします。最後に私があおむけに横に
「すまん、間違えた。女性ではなく幼児みたいになってきたね」
「おい」
安心した。
いや安心していいのか?
「ドクター、なんとか婚約破棄する方法ないですかね」
「ない。不可能だ。婚約破棄されたら私も困る。ここで研究が続けられなくなりそうだからな」
「やっぱり無理ゲーか。あーどうしよう。男とセックスなんて絶対に絶対に嫌です!」
「その気持ちもわからなくはないが、諦めろ。まだあと1年以上はあるだろうから、そのころには君は身も心も女になってるんじゃないか?」
「それも嫌です」
「さっきまで貴族の娘を主張してたじゃないか。結婚は貴族の娘の一番大事な務めだろう」
「ドクターだって結婚してないじゃないですか。いい歳して」
あ、やべ。自爆した。
「ドクターも継承権放棄してるでしょう。貴族の義務から逃れてる。ずるい」
「その代わりに私は家にはいられなくなった。君も貴族の義務、結婚をしたくないならオコンネル家から逃げるしかないね」
「?」
逃げる?
「ドクター、私用事を思い出しました!今私部屋で妖精飼ってるんです。ベムって名前なんですが餌やらないと!ではまたごきげんよう。何が出るかな何が出るかなコイバナ!さよなら!」
「ああ、ごきげんよう。もう二度と来るなよ。あ、検査はさせろ」




